読書は思考と知識を深める鍛錬になる──ノーベル賞・坂口志文氏が語る、本を読む利点

2025年、制御性T細胞の発見でノーベル生理学・医学賞を受賞した坂口志文氏。これにより様々な難病治療の道が開かれることが期待されています。世界を大きく前進させる偉業を成し遂げた坂口氏の原点には、豊かな自然と両親から与えられた「読書」の習慣がありました。読書の利点と研究への道筋について、若き日々を振り返りながら語っていただきました。対談のお相手は、多孔性金属錯体の開発が評価され、坂口氏と共にノーベル賞を同時受賞した北川 進氏です。
(本記事は『致知』2026年10月号 対談「運をつかむ生き方」より一部を抜粋・編集したものです)

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読書は自己の鍛錬になる

<北川>
お互い、研究を始めてかれこれ50年近くになるわけですが、坂口先生の生い立ちについてはあまり詳しく伺ったことがありませんでしたね。

<坂口>
最初からすごい科学者になってやろうと意気込んでこの道に入ったわけではありません。研究を続けていく中で面白い発見があり、達成感を得て自信がつき、その積み重ねできょうまで歩んできたというのが正直なところです。

父は京都大学でフランス哲学を専攻し、フランス語が喋れたので、戦争中は南仏へ行かされていました。復員後に本当は大学へ通いたかったんでしょうけれども、栄養失調のために滋賀県の実家で療養して、そこから地元で高校教師を務めました。

母も女学校の先生だったので教育一家なんですが、それが自分にどう影響しているかといえば、本をたくさん買ってくれたのはありがたかったですね。おかげで本は随分読みました。

<北川>
あぁ、本をたくさん読まれた。

<坂口>
読書がいいのは、別の世界を知ることができるところだと思います。この年になっても、本を読めば新しい発見がある。自分の視野を広げる意味でも、本を読むことはとても重要なことだと思います。

いまは読書離れと言われていますね。簡単な知識ならインターネットですぐ手に入りますが、本を読んで勉強することは、持続的にものを考え、知識をしっかり身につけるための鍛錬になります。ですから一人でも多くの方に、子供の頃からじっくりと本を読む習慣を身につけていただきたいですね。

本を読むこと以外は、田舎でしたので塾もありませんし、毎日外へ出て日が沈むまで遊びまくっていました。実家は長浜市の外れで、今年の大河ドラマでもやっていた姉川の合戦があった場所の近くです。山あり川ありの緑豊かな地域で、南には琵琶湖もありました。

<北川>
そこからどのような筋道で研究の道に進まれたのですか。

<坂口>
理系へ進もうとは思っていましたが、ずば抜けて数学ができたわけではありませんでした。いろんな科目をこなして模索する中で、医者は勉強して技術を身につければ世の中の役に立ちますし、母親の実家も医者の家系でしたから、最初は医者になろうかと考えていました。

ただ、医学部というのはどこも同じ教育をやっていて、あまり面白くはないんです(笑)。ですから臨床ではなく、次第に基礎研究を志向するようになりました。自分が面白いと思うものを追究し続けてこの歳になったわけです。


↓ 対談内容はこちら!
◆同窓、同学年の2人が共にノーベル賞を受賞
◆人類の未来に寄与する2つの偉大な業績
◆読書は自己の鍛錬になる
◆研究者としての礎になったもの
◆病気の後ろにある原理を追究したい
◆人が目を向けていないものに可能性がある
◆何事にも囚われず興味のあるところに遊ぶ
◆興味を持てることをとことん追究する
◆マイナーな研究が途轍もない金鉱だった
◆幸運は準備された心に宿る
◆夢を持ち努力を重ねていくこと

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◇坂口志文(さかぐち・しもん)
昭和26年滋賀県生まれ。51年京都大学医学部医学科卒業。同大学院医学研究科入学。52年愛知県がんセンター研究所実験病理部門研修生。58年京都大学医学系研究科博士号取得。同年より渡米し、ジョンズ・ホプキンス大学客員研究員等を務める。平成4年帰国。京都大学再生医科学研究所所長などを経て、23年大阪大学免疫学フロンティア研究センター実験免疫学教授。現在は同大学特別栄誉教授。令和7年ノーベル生理学・医学賞受賞。

◇北川 進(きたがわ・すすむ)
昭和26年京都府生まれ。49年京都大学工学部石油化学科卒業。54年同大学院工学研究科博士課程修了。近畿大学理工学部助手。その後同大学理工学部助教授、東京都立大学理学部教授を経て、平成10年京都大学大学院工学研究科教授。さらに同大学高等研究院物質─細胞統合システム拠点 拠点長などを経て、現在は、同大学理事、副学長、高等研究院特別教授。28年日本学士院賞。令和7年ノーベル化学賞受賞。

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