2025年12月04日
~本記事は月刊誌『致知』2026年1月号 特集「拓く進む」に掲載のトップインタビュー(一生挑戦 一生勉強)の取材手記です~
トヨタのものづくりを支えてきた〝おやじ〟
販売台数で5年連続世界一に輝くトヨタ自動車。前期売上高48兆円、経常利益6兆円を記録し、言わずと知れた日本のトップ企業です。
そのトヨタのものづくりを60年にわたり支えてきたのが河合満さん、77歳。中学卒業後にトヨタ技能者養成所に入り、18歳で入社して以来今日まで現場一筋に歩んできました。
57歳の時に、同社初となる中卒技能系出身で部長職に就き、技監・専務・副社長を歴任し、現在はエグゼクティブフェローという立場ながら、社内で〝おやじ〟と呼ばれ、皆に慕われています。ちなみに、トヨタではものづくりの責任を負う現場の組長や工長を「おやじ」と呼ぶ風習があるそうで、河合さんは「おやじの中のおやじ」と言ってもよいでしょう。
河合さんが入社された1966年は本社工場と元町工場の2か所しかなく、日産自動車に次ぐ国内2位で、「いつかは1位になりたい」というのが皆の合言葉だったといいます。そこからトヨタが日本一、そして世界一に繁栄発展していく過程で、河合さんは現場の叩き上げとして、いかに〝創意くふう〟を積み重ね、改善魂を培ってきたのでしょうか。
世界に冠たる一流企業のトヨタ自動車で、前例のない道なき道を拓き、いまなお日々新たな気持ちで進み続けておられる河合さんの生き方にスポットライトを当てました。
人間学を学ぶ月刊誌『致知』2026年1月号特集「拓く進む」に、河合さんのトップインタビュー記事が掲載されています。タイトルは「一生挑戦 一生勉強~現場一筋60年、トヨタ技能系から初の副社長に抜擢された〝おやじ〟の生き方~」。
なぜ河合さんにご登場いただくことができたのか
今回、河合さんを取材することができたのは、これまで創刊47年の歴史の積み重ねがあったればこそ、だとつくづく感じます。
取材依頼をするに当たり、かつて弊誌にご登場いただいたトヨタ自動車の先輩お二人の記事を送付。社長、会長を務め、当時名誉会長だった張富士夫さんと、元技監の林南八さんです。前者は2014年10月号のトップ対談「百忍千鍛事遂に全うす」、後者は2019年7月号のトップインタビュー「かくてトヨタ生産方式を伝承してきた」として、それぞれ掲載させていただきました。
中でも、河合さんがお若い頃に直接薫陶を受けた張富士夫さんは、20年来の『致知』愛読者でもあり、そのご縁で創刊40周年記念式典にて基調講演を賜りました。その講演の冒頭、張さんは次のようにおっしゃっています。
「約20年前から購読するようになりました。友人から1年間贈っていただき、あぁこんなにいい雑誌があるのかと感動し、贈呈が終わった時からずっと毎月大切に読ませていただいています。日頃、仕事をはじめ目先のことに忙しく走り回っている我々にとって『致知』は一度立ち止まって周囲を見回し、自分の今いる場所を確かめ進む方向を示してくれる有難い存在です。人としての生き方を教えてもらっています」
お二人の先輩にご登場いただいていたおかげで、今回も河合さんにご快諾賜れたのではないかと思います。普通ならお会いすることのできない超一流の方に、直接お目にかかり、一対一で、その方の貴重な体験談や苦労を経て掴んだ人生・仕事の成功法則を拝聴できる。しかも、お給料をいただきながら。本当に有り難いと手を合わせずにはいられません。
生涯現役の秘訣は60年欠かさない習慣にあり
11月13日(木)、校了を1週間後に控えたこの日、夜明け前に都内の自宅を出発し、始発の新幹線に乗車、ワクワクしながら取材先に向かいました。
愛知県豊田市トヨタ町1番地に本社を構えるトヨタ自動車ですが、約55万平方メートルもの広大な敷地の中にひと際目立つ15階建ての本館があります。その応接室で取材は行われました。
部屋でお待ちしていると、河合さんは颯爽とした姿で私たちの前に現れ、和気藹々とした雰囲気の中、時に満面の笑顔で、時に真剣な表情で、2時間にわたってこちらの質問に応じながら、熱く語ってくださいました。間もなく78歳を迎えるとは思えない若々しさ、生気漲るバイタリティー、輝きに満ちた瞳、そして謙虚で飾らないお人柄が実に印象的でした。
2時間に及んだ取材の内容を凝縮して誌面7ページにまとめました。主な見出しは下記の通りです。
◇トヨタの〝おやじ〟が60年欠かさない習慣
◇3K職場の鍛造部に骨を埋める覚悟
◇鈴村さんの叱責と張さんのフォロー
◇創意くふうで作業時間を1/10以下に改善
◇固辞した副社長昇進を引き受けた理由
◇きょうのベストは明日のベストとは限らない
約1万字の記事の中に、一冊の書籍になるほどの内容がギュッと凝縮されています。
河合さんの取材を通して感動したことは数多くあり、すべては語り尽くせませんが、まず驚嘆したのは、入社以来60年にわたり、「ある習慣」を欠かさずに続けていることです。その習慣は何かと言うと、どんなに夜遅く帰ってきても毎朝5時に起床し、身支度や食事を済ませ、6時に出社、鍛造温泉という鍛造部の社員用の大浴場に1時間入り、それから仕事を始める、というもの。
これは僕のルーティンで、60年ずっと続けています。もちろんきょうもそう。僕のルーティンを皆分かっているから、7時から8時までは後輩たちが会いに来て、様々な報告や相談を受けるのが日常ですね。
サラッとおっしゃっていましたが、簡単なようで60年継続するというのはなかなかできることではありません。この規則正しい生活が河合さんの健康の秘訣であることはもちろん、人生や仕事のあらゆる局面に挑んでいく姿勢の土台になっているのだと感じます。
部長就任時に500名の部下の前で語った言葉
そして、河合さんの真骨頂は何と言っても、先述の通り、大卒のエリートたちが昇進していくのが世間の常識である中、トヨタの長い歴史で初めて中卒技能系出身から部長に抜擢され、副社長まで務められたことです。部長就任時に500名の部下の前で語ったという、本音の実感のこもった言葉が忘れられません。
俺は中卒で勉強はできんし、脳はない。トヨタの全部長に100%勝てない。ただ、一つだけ負けないものがある。俺はどの部長よりも部員一人ひとりのことを知っとるし、おまえらが味方になって一緒にやってくれとる。これだけは誰にも負けん。
昨今、企業におけるハラスメントが問題視される風潮ですが、河合さんは「コミュニケーションと信頼関係がなかったら、人は育たん」と喝破します。
では、どのように部下とコミュニケーションを取り、信頼関係を築くのか。また、部下の目標設定や人事評価の手法とは。さらには「徹底的にムダをなくし、付加価値を上げる」というトヨタ生産方式の「創意くふう」や「改善」をいかに積み重ねてこられたか。それらの具体的なエピソードは本誌インタビューに凝縮されていますので、ぜひお読みいただきたいのですが、最後に一つ、最も心に響いた河合さんの名言を紹介します。
僕の人生を振り返ると飽くなき挑戦というひと言に尽きると思う。仕事も遊びも、「こんなもんだ」と思ったらそれ以上発展しません。小さなことから一つひとつ挑戦し、努力や勉強を重ねれば、思いもよらない新発見や成果が生まれる。だから、僕は失敗したことがないと言っているんです。
現場一筋60年、河合さんが体験を通して掴んだ人生と仕事を好転させる「心の工夫」は、私たちの日常生活に生かせるヒントが満載です。
『致知』2026年1月号 特集「拓く進む」ラインナップはこちら
◎各界一流プロフェッショナルの体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。人間力を高め、学び続ける習慣をお届けします。※動機詳細は「③HP・WEB chichiを見て」を選択ください









