「鳥は飛ばねばならぬ 人は生きねばならぬ」——がんを生き切った緩和ケア医・関本剛さんが伝えたかったこと

今年の4月19日、45歳という若さでがんによりお亡くなりになられた、緩和ケア医・関本剛さん。これまで1000人以上もの患者を看取ってきた関本さんは、2年前に自身の体もがんに侵されている事実を突きつけられました。重篤な病を抱えつつ、最後まで患者さんに向き合い続けた関本さんが人生を賭して伝えたかったこととは――。

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がんを患って気づいたこと

自分ががんを患って改めて実感するのは、自分を支えてくれる家族や親族、友人、知人、同僚のありがたさです。

妻や両親は当初、厳しい現実に直面して深く落胆していました。

けれども、いまは前を向いて支えてくれており、おかげで、私は安心して活動を続けられます。

私のがんが見つかった時に5歳だった長男は、私が直面した事態がまだよく分からなかったようですが、9歳だった長女は一応理解してくれたようでした。

彼女は初めのうち私が寝ているベッドに入ってきては、「お父さんに死んでほしくない」と抱きついていましたが、1月ほど経つと、「お父さんが死ぬ前に、もう一度一緒に温泉に行きたいな」と言うようになりました。

「もっとたくさん行けるわ!」と苦笑して少し気持ちが軽くなりましたが、彼女なりにこの状況を咀嚼そしゃくして気持ちを切り替えてくれたことをとても嬉しく思いました。

また私は、自分のがんが判明してほどなく、そのことをSNSで公表しました。

今後も体力が続く限り仕事を続けていくのであれば、周囲の方々に自分の状況を明らかにして、理解を得ておかなければならないと考えたからです。

私の書き込みには、思いがけず大きな反響があり、身近に接している方々ばかりでなく、交流の途絶えていた昔の友人たちまで温かいコメントを寄せてくれました。

自分のことを案じてくれる人、祈ってくれる人。

気の利いた言葉は出てこなくとも、ただ私のために泣いてくれる人。

こうした人がいてくれたおかげで、最後まで生き抜こう、死ぬ瞬間まで楽しみ抜かなければ損だと、気持ちを切り替えることができたのです。

鳥は飛ばねばならぬ 人は生きねばならぬ

仏教詩人の坂村真民さんに、

「鳥は飛ばねばならぬ 人は生きねばならぬ」

という作品があります。

渡り鳥が大海を次の目的地まで飛び続けなければならないように、人間もがんになったからといって「おぼれる者」になったわけではなく、人生という河を向こう岸まで泳ぎ切ってこそ己の命をまっとうできるし、泳ぎ切る力を持っているのが人間だと思います。

私の場合、その勇気を与えてくれたのが、友人、知人、同僚など、縁ある方々の存在でした。

何もしてくれなくても構わない。

ただ自分のことを案じ、祈ってくださっている人がいるということが、どれほど大きな勇気を与えてくれ、人間を最後に支える力になるかということを私は教えられました。

人生の最終段階では、目標の再設定が求められます。

健康な時に頑張ってこられた方の中には、病気を治すことを最後まであきらめない方もいらっしゃいます。

しかし、そういう姿勢をあまり強く持ち過ぎると、闘病が途中から苦行になってしまいます。

そこで大事になってくるのが、「手放す勇気」です。台風と一緒でどれだけ科学が発展してもなくすことが難しい状況は必ず存在します。

そこに無策で立ち向かうことは避け、いまできる対処法を粛々しゅくしゅくと行いつつ、なくすことが難しい病と共に最後まで生き抜くこと。

それが患者さんにとっての大切な努力といえるのではないでしょうか。

私たち緩和ケア医は、患者さんのその努力を支え、「これならきょうもまた一日、明るい気持ちで生きられる」と言っていただけるよう、どんな状況になっても全力を尽くす。

私は今後もその努力をあきらめることなく重ねていくと共に、一人の病を得た人間として、この命が尽きるまで前を向いて歩き続けたい。それがいまの私の心からの願いなのです。


◇関本剛(せきもと・ごう)
昭和51年兵庫県生まれ。関西医科大学卒業後、同大学附属病院、六甲病院緩和ケア内科勤務を経て、在宅ホスピス「関本クリニック」院長。緩和ケア医として1000人以上の看取りを経験する。平成31年ステージ4の肺がんと診断され、治療に取り組みながら医師としての仕事を続ける。著書に『がんになった緩和ケア医が語る「残り2年」の生き方、考え方』(宝島社)。


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