【取材手記】人生のどんな状況にも意味がある ~フランクルが教えてくれたこと~

~本記事は月刊誌『致知』2025年1月号 特集「万事修養」に掲載のインタビュー(「人生のどんな状況にも意味がある——私がフランクルに学んだこと」)の取材手記です~

『夜と霧』だけではないフランクルの偉業

「それでも人生にイエスという」

「あなたが人生に絶望しても、人生はあなたに絶望していない」

第二次世界大戦下、故郷を遠く離れた強制収容所に送られ、絶望的な状況から奇跡的な生還を果たした精神科医・フランクルのこうした言葉をご存じの方は多いでしょう。人間の尊厳がないがしろにされるような、ナチスの迫害を生き抜いた体験を綴った『夜と霧』は、国境や世代を超えて読み継がれています。本誌『致知』でも何度かご紹介してきたように、一つひとつのメッセージが、絶望のうちに希望を感じさせる独特の光を放って、私たちの心に迫ってきます。

実は、この名著が誕生する以前に、フランクルはある大きな〝発明〟をしていました。それがなければ、もしかすると極限状況を乗り越えることはおろか、『夜と霧』もこの世に生まれていなかったかもしれない……。今回、『致知』1月号にご登場いただいた勝田茅生(かつた・かやお)さんのお話を聞いて、驚きました。

その発明とは、フランクルが若い頃に構想した精神療法「ロゴセラピー」(「意味」によるセラピー)です。日本人の間では耳慣れない言葉ですが、1997年9月2日、フランクルが満92歳で亡くなったその日、不思議な縁に導かれてこの思想と出逢ったのが、他でもない勝田さんです。勝田さんは、南ドイツ・ロゴセラピー研究所のゼミナールに応募し、ロゴセラピーを正式に伝道する立場となった初めての日本人です。

フランクルを敬慕する人は数あれど、その著書を読むだけではなく生涯と思想を本場ドイツで学び、ロゴセラピーを技法として身につけた人は少ないはずです。2024年4月より6回、半年にわたって放送されたNHKの人気番組「こころの時代」にて、勝田さんは番組史上初の女性の語り部としてフランクルの生涯、ロゴセラピーの思想を語られました。聞き手である作家・小野正嗣さんの質問に、資料も見ずに一つずつ丁寧に答えられる姿に、視聴者から大きな反響が寄せられたそうです。

フランクルの〝呼びかけ〟に応じて

『致知』にご登場いただくことが決まったのも、この「こころの時代」への出演が一つのきっかけでした。ただ、何よりも心を掴まれたのが、おそらく勝田さん自身が人生の苦難に直面してきたことによる、視点と理解の深さでした。記事でもそのことについて触れていただいています。

〈勝田〉
私は2000年、南ドイツ・ロゴセラピー研究所公認のロゴセラピストの資格を取得しました。人から「どうしてロゴセラピーと出合ったのですか?」とよく聞かれますが、その度に〝不思議な体験〟についてお話ししています。

1970年、哲学を学ぶためにドイツに留学した私は、時を経て現地人の夫と結婚。2人の子宝に恵まれ、児童音楽教育や合唱指揮の資格を取り、子どもたちの情操教育に携わる充実した毎日を送っていました。

ところが50歳の春、突然腸閉塞で手術を受けました。麻酔が覚めないうちにドイツ人の友人が飛んできてくれ、彼が置いていったのが、フランクルの『識(し)られざる神』でした。なぜ、フランクル? その時、私の頭に鮮明な疑問符が浮かびました。

数週間後に訪れた療養地でも、偶然出会った見知らぬ老夫婦から、「フランクルの本を読むように」と勧められました。それを不思議に思ったものの、仕事に復帰して数か月経つうちに、意識の彼方に消えていました。その頃、私は大きな〝嵐〟に見舞われました。中年危機に落ち込んだ夫が、自分の経営していた会社を辞め、さらに離婚を切り出してきたのです。

まるで自分の立っている地面が足元から崩れてゆく気持ちでした。幸い2人の息子は自立していたものの、離婚してはドイツに留まる理由もなくなります。仕事もうまくいっていたし、よい友達にも恵まれた生活だったので、突然のことに混乱し、支えを求めて苦しみ悩む日々でした。



充実した暮らしから一転、病気を患われ、異邦で独り生きることを強いられる。当時の状況、心境を想像すると、思わず胸が詰まります。

自分から求められたわけではないのに、時と場を変えて何度も「フランクル」が人生に現れてくる。そして、既に触れた通り運命的な日付に「ロゴセラピー」の存在を知った勝田さんは、遂にその〝呼びかけ〟に応える形で、ロゴセラピーを学ぶことを決意します。

その後、出逢ったのが戦後、帰還したフランクルが晩年まで生涯を共にしたエリー夫人。また、ロゴセラピーを初めて博士論文にして発表したフランクルの直弟子、エリザベート・ルーカス先生でした。勝田さんは生前のフランクルと直に会うことこそなかったものの、人生の苦難を経て稀有な出逢いに恵まれ、厳しくも愛ある指導の下で、学びを深めていかれます。

勝田さんが読み込んだフランクルの著書『医師によるメンタルケア』

与えられた意味に、責任を持って取り組む

「人生のどんな状況にも意味がある」――これが今回の記事の題です。この「意味」という言葉が、記事を深く理解するための一つの鍵と言えるでしょう。勝田さんはこう語られています。

「ロゴセラピーでは、『状況の意味』という言葉を使います。というのも、私たちを取り巻く状況は次々に変化し、人生はそのつどの状況が必要とする意味を実現するようにと要請してくるからです。たとえ困難な問題が起こっても、そのつどその意味を考え、責任をもって取り組む。すると状況は展開し、自ずと次の状況の意味が与えられます」

人が、一見災難に思えること、状況に意味を見出し、それを実現することで問題を乗り越える。自分の力で自分に癒やしを与える(自己治癒力)。お話をお伺いして、このような能動的に人生を切り拓く方法の原型を、20代で構想していたフランクルという人物のすごさに刮目させられました。

現代では様々な理由で「生きる意味」を見出せず、人生を自ら閉じてしまう人が少なくありません。それは約100年前の欧米でも同じでした。1929年に起きた世界恐慌のただなかで、フランクルは故郷ウィーンで相次ぐ若者の自殺に処する目的で開設された公共の青少年相談所に勤務。ロゴセラピーの思想を深めていきます。

有名な『夜と霧』で描かれる第二次世界大戦下の過酷な体験は、この思想が試され、鍛えられる場であったことを、勝田さんに教えられました。フランクルがいかにして地獄のような状況から意味を掴み取り、立ち直っていったか。その軌跡、言葉、思想は様々なことを教えてくれます。

勝田さんが語るフランクル像は、これまで日本ではあまり知られていなかった一面であると共に、どれだけ時代が変わろうとも色褪せない大切な生きる哲学を教えてくれるものだと感じます。勝田さんは、本音を言えば自分の評価はどうでもよい、私はフランクルの思想の媒介者に過ぎない、ということもおっしゃっています。勝田さんの語りを介して、フランクルが生涯を懸けて伝えたかったものを、受け取っていただけることを願っています。

『致知』2025年1月号 特集「万事修養」
〝人生のどんな状況にも意味がある——私がフランクルに学んだこと〟
 勝田茅生(日本ロゴセラピスト協会会長)

~本記事の内容~
◇「意味」を軸にして生きるということ
◇人生の〝嵐〟に見舞われて
◇人生は、振り返るとすべてに意味がある
◇極限状態で鍛え抜かれた思想
◇あなたはどんな〝砂時計〟を遺したいか

▼『致知』2025年1月号 特集「万事修養」
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