2025年09月10日
店の手伝いをすれば一食無料(ただめし)。そんなユニークな経営で黒字を維持する食堂があります。東京都神田神保町にある「未来食堂」。店主の小林せかいさんは、人気企業のエンジニア職を手放し、2015年に店を開始。「社会からこぼれ落ちそうになった時の最後のセーフティネットでありたい」との一念で、様々な事情を抱えるお客様を温かく迎え入れてきました。前例のない経営に挑んできた10年、その中で掴んだ人生の真理についてお話しいただきました。
(本記事は『致知』2025年8月号 特集「日用心法」より一部を抜粋・編集したものです)
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「あなたを助けます」と 発信し続ける
〈小林〉
──困っている方を救いながらも、非常に合理的な仕組みで経営をされていることがよく分かりました。開店から10年が経ちますが、経営上の逆境はございましたか。
「まかない」や「ただめし」はいずれも「誰もが受け入れられ、誰もがふさわしい場所をつくる」という思いのもとに生まれたシステムですが、運営するうちにある問題に悩まされるようになりました。それは「正しさとは何か」ということです。
──正しさとは何か、ですか。
例えばある時期、ただめし券を毎日使うお客様がいらっしゃいました。過去にお手伝いをした方が善意で譲ったただめし券が使われているだけなので、仕組みから言えばお店が損をすることはありません。ただ、どうしてもそれを単純に受け流せない自分がいました。どんな人でも使ってほしいという思いとは裏腹に、「また使っている!」「あなたが使うべき券じゃない」と感じる嫌な自分が顔を出したんです。
「まかない」の真の狙いは、金銭的に苦しい人を受け入れることです。もう駄目だと思ったり、追い詰められたりした時に、「未来食堂」のことを思い出してほしい。社会から零(こぼ)れ落ちそうになった時の最後のセーフティネットでありたいと思い、この仕組みをつくりました。
本来の思いからすれば、金銭的に困っていない人には使ってほしくない。けれどもある時から、本当に困っていない人が毎日使ってもいいのではないか、と考えるようになりました。困っているか、困っていないかを問うことが本質ではないと気づいたからです。
──その本質とは何だったのですか。
それは、「私はあなたを助けます」というメッセージを送り続けることです。助けたいと思っても「困っている人しか使えません」と限定してしまうと、本当に困っている人が使いづらくなるかもしれません。仮に困っていない人が使い続けたとしても「あなたを助けます」というメッセージを送り続けていれば、もしかしたら明日、本当に困った人が訪れてくれるかもしれない。
だから「あなたは困っている」「あなたは困っていない」とふるいにかけるのではなく、ただただ来た人を受け入れる。それこそが、人を助けようとする者に求められる覚悟だと学んだのです。
◉「誰もが受け入れられ、誰もがふさわしい場所をつくる」。これが「未来食堂」の方針ですが、その実践は簡単なことではありません。実際、開店から10年の道のりは「人を助ける」ことの難しさと向き合ってきた歩みでもありました。様々な事情を抱えるお客様と向き合う中で小林さんが抱いた葛藤、それを経て至った心境とは。そこには人生における一つの真理が示されていました。◉
◇小林せかい(こばやし・せかい)
昭和59年大阪府生まれ。東京工業大学理学部を卒業後、日本IBM、クックパッドでシステムエンジニアとして働いた後、飲食店開業を決意。いくつかの飲食店で修業を積み、平成27年に「未来食堂」を開店。店の手伝いをすると一食無料になる「まかない」などユニークな手法を取りながら、黒字経営を行う独自の経営システムを確立し、注目を集めている。著書に『未来食堂ができるまで』(小学館)『ただめしを食べさせる食堂が今日も黒字の理由』(太田出版)などがある。
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