男女とも丸刈り 携帯電話も恋愛も禁止——家具メーカー・秋山木工が独自の徒弟制度を取り入れる理由

いまではほとんど見なくなった昔ながらの徒弟制度を取り入れ、一流の職人と家具を作り続ける特注家具メーカー・秋山木工。様々な試行錯誤の上に確立された同社独自の徒弟制度によって人はどのように変わるのか、その目指す世界は何か。社長の秋山利輝氏の人生と志を故・村上和雄氏(筑波大学名誉教授)にお聞きいただきました。
(本記事は『致知』2014年8月号 特集「一刹那正念場」より一部を抜粋・編集したものです)

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男女とも丸刈り 携帯電話も恋愛も禁止

<村上>
いま何人の方が働いていらっしゃいますか。

<秋山>
丁稚見習いから職人まで35人です。うちの研修制度の仕組みを簡単に説明させていただきますと、最初は私が代表理事を務める秋山学校で奨学金を受けながら学生として一年間の見習い修業に努めてもらいます。それを終えてやっと丁稚に昇格することができるんです。

<村上>
丁稚になるのにも修業が必要なわけだ。

<秋山>
丁稚として4年間の研修を積むのですが、見習いから丁稚を終えるまでの5年間は男女とも頭髪は丸刈り。携帯電話も恋愛も家族に電話で連絡を取ることも禁止。 六畳一間の寮で寝起きして、共同の自炊生活をしながら、毎日を過ごします。

休みは盆暮れの合わせて10日間だけで、それ以外は朝早くから夜遅くまで僕や先輩に「馬鹿野郎」と怒鳴られながら、「職人」 になるための修業をするわけです。

<村上>
いまは子供を叱れない親も多いと聞きますが、秋山さん自身が真剣にお弟子さんと向き合っていらっしゃるんですね。

<秋山>
これはお互いの気持ちが通じていないとできないと思います。

怒るほうは「こいつを一流のスタープレーヤーにする」という強い思いがないといけないし、怒られるほうもその思いを感じ取れなくてはいけない。「褒めて育てる」という考えもありますが、うちに八年いて褒められた人間など一人もいませんよ。僕は褒めたらそれで終わりだと思っているからです。

うちの職人たちは去年の技能オリンピックで金銀銅を総なめにしました。でも褒めません。「おまえら、 次の目標はどうするんだ。しっかりしろ、この野郎」と。

<村上>
厳しいなぁ。

<秋山>
丁稚から職人になるのにも、 厳しい試験が待っています。晴れて職人に昇格すると、給料は三倍に跳ね上がるんですが、3年間の職人生活を終えたら、自動的に辞めていただきます。

<村上>
独立させるということですか。

<秋山>
そういうことですね。僕はメダルを取ったような優秀な子も手元に置かずすべて辞めさせるんです。

なぜか? 自分の子分をつくるために職人を育てているわけではないからです。落ちぶれていく日本を蘇らせるには、物づくりしかありません。だから、うちにいる八年間に、彼らが人間力を備えた一流の職人として一家を構えられるよう、全力でサポートしているわけです。嬉しいことに、いまでは国内だけでなく海外で活躍できる職人が数多く誕生しました。

親孝行のできない人間は一流にはなれない

<村上>
秋山木工さんの教育方針の一つに親孝行があるとお聞きしていますが、これも人間力を高める上では大切なことですね。

<秋山>
ええ。自分の両親を喜ばせない人間が、他人様を喜ばすことなんてあり得ないし、起こりえません。それで、僕は採用にあたってはお子さんだけでなく両親とも面接することにしています。

<村上>
それは珍しい。

<秋山>
親の面接をするのは覚悟を確認するためです。「うちの子はできません」「たぶん続きません」。そんな言葉が一言でも親御さんのロから出たら、それだけで不採用です。「親も覚悟を決めます」「五年間、 盆暮れ以外に我が子と会えなくても大丈夫です」という言葉を聞いて、こちらも安心できるんです。

<村上>
たとえ会えなくても、親としては我が子の成長は気になるところです。

<秋山>
親御さんへの電話は禁止していますが、手紙は奨励しています。それに日々の仕事の足跡や私の所感を記したスケッチブックを月に2回送って、親御さんにコメントをいただくことをしています。 丁種や見習いたちは、皆それを読んでは泣いていますよ。スケッチブックは五年間で七十冊ほどになるのですが、続けていくと、それまで仲が悪かった親子でも絆が深まっていくのを感じるんです。

初めての盆休み、我が子の半年ぶりの帰りを親御さんたちは首を長くして待っておられます。生まれ変わったかのような成長ぶりにすべての親御さんが感動し、涙を流して喜んでくださいます。「子供たちを何でそこまで厳しく働かせるのだ」などとおっしゃるかたはいません。

<村上>
感動の様子が目に浮かぶようです。

<秋山>
見習いを含めて五年間の丁雅生活を終えた子たちが職人になる日が来るんですね。

大切な法被を手渡す披露パーティーには親御さんにも来ていただくんですが、もう涙、涙ですよ。 高校時代は決して成績優秀な子ではないわけでしょう。それにひとり親という子もいます。 それでも逃げた父親にさえ「生んでくれてありがとう」と心から感謝の言葉を言えるまでになる。

僕はそういう姿に接するのが嬉しくて嬉しくて、ここまで仕事を続けてきたといってもいいくらいです。


(本記事は『致知』20148月号 特集「一刹那正念場」より一部を抜粋・編集したものです)

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