2024年05月26日
ベストセラーとなった「1日1話、読めば心が熱くなる365人の教科書」シリーズを、中高生向けに編集してほしいという要望が寄せられたことをきっかけに誕生した、『毎週1話、読めば心がシャキッとする13歳からの生き方の教科書』。本書籍化に当たり、文字を大きく、読み仮名を多くし、挿画を加えるなど、毎週一話ずつ楽しく読み進められるよう工夫を凝らしました。現代人の生きた体験哲学が、子供たちの一生を支える力となることでしょう。本書の中から、全盲ろう者として世界で初めて大学の常勤講師となった福島智さんの母で「指点字」考案者の、福島令子さんのお話をご紹介します。 ◎最新号申込受付中! ≪人間力を高める2025年のお供に≫
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最後の手術も空しく……
息子の智はね、失明する前に眼圧が上がってね。
もう、辛抱強い子やのに泣きました。
そうすると、熱は出るし、お部屋の人が皆寄ってきて、足をさすったり何かしながら「頑張れ」とか「神様に拝んであげる」とか言ってくれました。
普段泣かない子が泣くんですから、相当痛かったと思うんですけど。
大人でも、眼圧が上がったらすごく苦しいそうですね。
もう、ほんとにあの時は可哀相やったですよォ。
智は水を飲まなかったら眼圧は上がらないと信じ切っていて、好きな苺を食べる時でも、これ1個で5㏄分かなとか言いながら。
そのうち師長さんが「お願いやからヤクルトでも飲んでちょうだい」と言いましたが、意志が強くて頑として拒否し、水でうがいなどをして辛抱していました。
智の皮膚はミイラみたいに皺が寄ってね。
その後、最後の手術をされたけど、眼圧が上がり切っていてもう手に負えなかったですね。
その時、智はね、いろいろと考えたんだと思います。まだ9歳やのに、偉いなぁと思いますよ。
お祖父ちゃんへの電話
智の入院費用などをたくさん出してくれていた祖父が、智の目が見えなくなったと聞いたら、もう、泣いて、泣いてね。
祖母が言うには、家で祖父の姿を3日間も見かけないと思ったら、家の2階へ上がって泣いていたそうです。
でも智はね、お医者も恨まなかったし、神仏にも不平を言わず、親にもとやかく言いませんでした。
そしてね、自分は失明しているのに、祖父が泣いてると聞いたら「お祖父ちゃんに電話をかけるから地下まで連れてって」と言って、病院からこんな電話をしたんです。
「お祖父ちゃん、泣いても仕方ないんだよ。するだけのことをしてこうなったんだから。世界中で一番偉い先生が診てもダメな時はダメなんだよ」って。
そして「僕はね、いま悲しんで泣いてるより、これから先、どういうふうに生きていったらいいかを考えるほうが大事だと思ってるんだよ。お祖父ちゃん、僕は大丈夫だからね」 。
祖父はそれを聞いて、余計泣いたと言いました。
親が言うのもおかしいですが、この時は私も、すごい子やなぁと思いました。
本記事の内容は、『毎週1話、読めば心がシャキッとする13歳からの生き方の教科書』(藤尾秀昭・監)より抜粋しています。
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◇福島智(ふくしま・さとし)昭和37年兵庫県生まれ。3歳で右目を、9歳で左目を失明。18歳で失聴し、全盲ろうとなる。58年東京都立大学(現・首都大学東京)に合格し、盲ろう者として初の大学進学。金沢大学助教授などを経て、平成20年より東京大学教授。盲ろう者として常勤の大学教員になったのは世界初。社会福祉法人全国盲ろう者協会理事、世界盲ろう者連盟アジア地域代表などを務める。著書に『盲ろう者として生きて』(明石書店)『ぼくの命は言葉とともにある』(致知出版社)などがある。