徳の高さと実績は比例する——東証プライム上場・富士製薬工業が行なう全国初の人事制度「徳目評価」の実態

産婦人科関連の医薬品でトップクラスを誇る富士製薬工業。同社には他社にはない10数年来の取り組みがあります。徳目評価を組み込んだ独自の人事制度です。会長の今井博文氏が事業における徳の重要さに気づいたのは約20年前。爾来、徳に力点を置いた経営を続け、業績を飛躍的に伸ばしています。今井氏が師と仰ぐ東洋思想研究家の田口佳史氏と共に、徳目評価の実態に迫っていただきました。

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徳目評価が高い社員ほど実績を出している

<田口>
せっかくの機会ですから、『致知』読者の皆さんに御社の徳目評価がどのようなものか、ご紹介いただくのもいいのではないでしょうか。

<今井>
ありがとうございます。

まず評価の徳目としては、「仁」(忠恕)、「義」(信義)、「礼」(礼儀)、「智」(厳正)、「信」(信念)のいわゆる五常の他、当社オリジナルとして「覚悟」「中庸」の徳目を加えて、それぞれに基準行動例を示しています。

例えば「仁」(忠恕)の徳目で申し上げれば「他者の言動をありのままに受け容れている」「他者の苦労、悩み、苦しみを理解し、共感し、その解決に力を注いでいる」「部下や後輩、同僚のことを、緊張感を持って、適度な距離感で、いつも見守っている」などを挙げています。

「義」(道義)の徳目では「物事の根本を見極め、多くの人を納得させる正論を持ち、周囲に伝えている。たとえ厳しくとも正しいことを話している」「他者と交わした約束を果たすために自分を厳しく律し、全力で実行し続けている」など正しいこと、約束したことがきちんと守られているかを見ていきます。

また、「覚悟」では「仕事を通して果たすべき自分の使命、役割を十分理解し、今、ここで、自分で全力で取り組んでいる」「会社や組織の使命を果たすために、自ら先頭に立ち、率先垂範している」などを基準としています。

以上はほんの一部ですが、これらを自分自身や同僚、上司など360度の視点で見つめながら、「評価に足る事実を確認し得ていない」から「周囲の誰もが認める立派な模範者」までの6段階で評価していくわけです。

これらの行動評価としての徳目評価と、業績評価の組み合わせによって人事評価をしていくのが当社の大きな特徴だと思います。

<田口>
徳目評価の作成に当たっては、最初は私がかなりの部分関わったわけですが、見直しが進むにつれて私の匂いが消えていきました。他ならぬ社員さん自らが自主的にそれをやっていくわけだから、これはすごいことだと思いますね。

<今井>
私が興味深かったのは、この10年余りのデータを蓄積して分析してみると、実績を出している社員と徳目評価が高い社員が相関していたことです。

事業における徳の重要性が確信でき、それを全社員と共有できるだけでも、この制度を取り入れた意義は十分にあったと思います。

<田口>
また、それが御社の業績の大きな伸びにも繋がっているのでしょうね。


本記事では、「経営理念を具体的な形に」「徳目評価が高い社員ほど実績を出している」など、徳や理念といった形のないものをいかに経営に落とし込み、成果を上げていけばよいのか、その道筋を、具体的方法と実績をもとに示していただいています。1万人超の企業経営者や政治家らを育て上げてきた田口氏が指摘する「これからの時代の新たなリーダー像」も必見です。

◉『致知』2024年4月号 特集「運命をひらくもの」◉
対談〝「繁栄するものと廃れゆくものの道」
田口佳史(東洋思想研究家)
今井博文(富士製薬工業会長)

 ↓ 対談内容はこちら!

◆後継者は覚悟を決めること
◆トップは万卒のために死ぬ心根を持つ
◆何より重要なものは経営理念
◆経営理念を具体的な形に
◆これからの時代の新たなリーダー像
◆徳とは「いきおい」のこと
◆徳目評価を組み入れた全国初の人事制度
◆徳目評価が高い社員ほど実績を出している
◆当事者意識のある社員がどのくらいいるか
◆宇宙の理法を経営に活かす

 ▼詳細・お申し込みはこちら

◇田口佳史(たぐち・よしふみ)
昭和17年東京都生まれ。新進の記録映画監督としてバンコク市郊外で撮影中、水牛2頭に襲われ瀕死の重傷を負う。生死の狭間で『老子』と運命的に出会い、東洋思想研究に転身。「東洋思想」を基盤とする経営思想体系「タオ・マネジメント」を構築・実践し、1万人超の企業経営者や政治家らを育て上げてきた。主な著書(致知出版社刊)に『「大学」に学ぶ人間学』『「書経」講義録』他多数。最新刊に『「中庸」講義録』。

◇今井博文(いまい・ひろふみ)
昭和39年富山県生まれ。62年富士製薬工業に入社。取締役、専務を経て平成10年社長に就任。24年東証一部上場を果たす。28年代表取締役会長。公益財団法人今井精一記念財団代表理事も務める。

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