【編集長取材手記】和食の神様・道場六三郎が93年の人生を通して掴んだ「成功し続ける秘訣」


「93歳まだまだゴルフと料理を楽しんでおります」

道場六三郎さん。銀座ろくさん亭主人であり、和食の神様と称されています。この道一筋に歩み来て75年、この1月に満93歳を迎えられましたが、凛としたコックコート姿はいまも健在です。

その矍鑠たる秘訣は何か。原点にある両親の教え、若い頃からの心懸けと創意工夫の実践、逆境の乗り越え方、後から来る者たちに伝えたいこと、老いて輝く人と老いて衰える人の差を交えつつ、「倦まず弛まず」を象徴する道場さんの生き方に迫りました。

人間学を学ぶ月刊誌『致知』最新号(2024年5月号特集「倦まず弛まず」)のトップインタビュー欄に道場さんの記事が掲載されています。テーマは「いまも料理が恋人 この道に終わりなし――—93歳、生涯現役を貫く和食の神様が語る」です。

振り返ると、道場さんに初めてご登場いただいたのは、1999年3月号特集「一流と二流」。その後も、ムッシュことフレンチの鉄人・坂井宏行さんや、熱い男として知られるスポーツキャスター・松岡修造さんと対談を組み、反響を呼びました。

それだけに留まらず、道場さんは『致知』の愛読者でもいらっしゃいます。道場さんが寄せてくだったメッセージを紹介します。

「父の想い出の中に、いつも枕元に修養書が有りました。今、私の枕元には『致知』が有ります。人は皆、支えによって救われます。私にとって『致知』は心の支え、人生まだ93年、幸せを生きる道途中です。『致知』は〝人生航路の羅針盤〟であり、そのおかげで安心して日送りが出来ます」

いまなお自己修養を重ねる道場さんに、今回6年ぶりに改めて取材することになったのは、2月に道場さんのお孫さんと連絡を取り合っていた際、「93歳まだまだゴルフと料理を楽しんでおります」という言葉に衝撃を受けたことがきっかけです。

生涯現役を貫く道場さんにぜひ再びお目にかかり、93歳を迎えられたご所感、心身の健康法、最近の関心事などを交えてお話を拝聴したい。その思いを伝えたところ、すぐにご快諾いただくことができました。

1時間半のインタビューで得た学びと感動

2月22日(木)、東京に冷たい雨が降りしきる中、取材開始の1時間半前に銀座ろくさん亭を訪ねました。なぜそんなに早く伺ったのかというと、まずランチをいただいてから取材に臨もうと考えたからです。

銀座ろくさん亭の名物である「チーズ黄金焼」をはじめ、前菜からお椀、お造り、焼き物、煮物、3種類からお好みで選べる食事、お菓子に至るまで、いずれも絶品で感動をもって堪能しました。加えて、スタッフの皆さんの誠実かつ機敏な応対、笑顔、言葉掛け、おもてなし精神が素晴らしく、とても心地よい時間でした。

平日で、ランチタイムのピークを終えた時間帯、あいにくの天候にも拘らず、店内は満席。やはり一流の名店は違う、いつも繁盛しているのだと感銘を受けました。

そして、いよいよインタビューの時間に。個室で待機していると、別の打ち合わせを終えた道場さんはその足で私たちの前に姿を現しました。冒頭、「取材前にランチをいただきましたが、どのお料理も絶品で感動いたしました」と申し上げると、道場さんは大きな張りのある声でこう答えられました。

「そう? ありがとうございます。いやぁそういう声を聞くとひと安心でね。僕は何が一番辛いかと言ったら、お客様が嫌な思いをして帰ること。これはもう身を切られるくらいに辛い。
飲食店なんていっぱいあるじゃないですか。それなのに、わざわざ選んで来ていただいたお客様の期待にやっぱり応えなきゃいけないし、喜んでもらえるとホッとする。お客様の喜ぶ顔を見ることが僕にとっての生きがい。だから、お客様には常に笑顔で精いっぱいのおもてなしをするんです」

そこからノンストップで1時間半のインタビューに応じてくださいました。そこで語られた内容を凝縮して誌面7ページ、約10,000字の記事にまとめました。主な小見出しは下記の通りです。

 ◇お客様の喜ぶ顔を見ることが生きがい
 ◇93歳にして矍鑠たる秘訣
 ◇両親が説いてくれた人生訓を反芻して育つ
 ◇修業時代いつも心懸け実践していたこと
 ◇仕事にも人生にも締め切りがある
 ◇災難を飛躍への転機に~銀座ろくさん亭開店秘話~
 ◇「修業とは我を削ること」「環境は心の影」
 ◇「流水濁らず、忙人老いず」料理に生かされている人生

そして、取材終了後に揮毫していただいた「料理は想いやり」の書からは、道場さんの情熱溢れるエネルギーがひしひしと伝わってきます。

「環境は心の影」――自分の心のあり方が目の前の環境をつくっている

道場さんは20代前半の時に、勤めていた神戸のホテルで板長から酷いいじめに遭ったことがあります。例えば、調理場の準備はどんなに急いでも2時間かかるのに、開店1時間前まで中に入れてもらえない。「遅いぞ、ボケ」と怒鳴られ、殴られたり蹴飛ばされたり、つくった料理をひっくり返される。

辛くて心が折れそうな若き日の道場さんの心の支えになったのが両親の言葉でした。とりわけ救いになったのは「鴨居と障子」の話だといいます。

「何も分からないうちは我を出してはいけない。鴨居と障子がうまく組み合わさっているからスムーズに開閉できる。それが合わなくなれば、障子の枠を削る。上の鴨居を削ることはしない。鴨居とはお店のご主人で、六ちゃんは障子だ。だから修業とは我を削っていくことだよ」

道場さんは次のように述懐されています。

「こういう言葉を自らに言い聞かせ、〝ここが踏ん張りどころだ。いま辞めてしまったらこれまでの努力が無駄になってしまう。板長も何か訳があって意地悪をしているんだ。板長は鴨居、自分が変わろう。これは神様が与えてくれた試練なのだから、逃げずにとにかく頑張ろう〟と心を鼓舞し、いじめや理不尽にへこたれず毎日朝6時から夜11時まで一所懸命働きました。すると次第に板長の態度が変わり、僕のことを認めてくれるようになったんです」

さらにこう続けます。

「この時の経験から学んだのは、「環境は心の影」ということです。自分の心のあり方が目の前の環境をつくっている。他人や環境を直接的に変えることは難しいけれども、自分の心や物事の捉え方を変えることで、相手や周りの環境も自ずと変わっていくんです」

環境は心の影――胸に沁み入る言葉です。

これ以外にも、道場さんが93年の人生を通して掴んだ、挫折や苦難を乗り越えて志を成就するヒント、成功し続ける秘訣が本インタビューには満載です。ぜひお読みください。


◇道場六三郎(みちば・ろくさぶろう)
昭和6年石川県生まれ。25年単身上京し、銀座の日本料理店「くろかべ」で料理人としての第一歩を踏み出す。その後、神戸「六甲花壇」、金沢「白雲楼」でそれぞれ修業を重ね、34年「赤坂常盤家」でチーフとなる。46年銀座「ろくさん亭」を開店。平成5年より放送を開始したフジテレビ『料理の鉄人』では、初代「和の鉄人」として27勝3敗1引き分けの輝かしい成績を収める。12年銀座に「懐食みちば」を開店。17年厚生労働省より卓越技能賞「現代の名工」受賞。19年旭日小綬章受章。著書に『91歳のユーチューバー 後世に伝えたい! 家庭料理と人生のコツ』(主婦と生活社)など多数。

▼『致知』2024年5月号 特集「倦まず弛まず」
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