柔道全日本女子はなぜ東京オリンピック全7階級のうち6階級でメダルを獲得できたのか(柔道全日本女子監督・増地克之)

東京2020オリンピックにてメダルラッシュに沸いた柔道全日本女子を「準備力」をテーマに率いてきた増地克之氏。自身はオリンピックの出場経験がない中、いかに個々の能力を最大限引き出し、躍進へと導いたのでしょうか。増地氏の指導哲学から、世界の舞台で勝利を掴む人材・組織を育てる要諦、目指すべき指導者のあり方が見えてきます。対談のお相手は、東京2020オリンピックで惜しくも10位に終わったバレーボール女子日本代表チームを復活させるべく、5年ぶりに代表監督に復帰した眞鍋政義氏です。

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10年先を見据えて人材、組織を育てる

〈眞鍋〉
代表監督就任後、まずどんなことから着手していかれたのですか。

〈増地〉
冒頭に触れたように、全日本女子を強化していく上で、準備力というテーマを掲げました。じゃあ具体的に何をしたのかといえば、一つには選手層を厚くすることに力を入れていったんです。

というのも、永瀬の応援でリオオリンピックに行った時、73キロ級では大野将平選手が金メダルを獲得したのですが、実は同じ階級には、彼の他に世界で勝てる実力を持つ選手が2人もいました。要するに、世界の頂点に立つためには各階級にメダルを獲れる選手が2、3人いるくらいじゃないとだめなんだと考えたわけです。

〈眞鍋〉
なるほど。

〈増地〉
じゃあ次にどうすれば選手層を厚くすることができるか考えると、それは公平に選手を選考していくことだと。やはり公平に評価がなされなければ、選手のやる気も起きません。そして、国内で強くても世界で勝てなければオリンピックでのメダルも難しくなるので、モチベーションを維持することも含めて、できる限り選手たちを国際大会に派遣しました。

さらに、世界選手権の代表に漏れた選手でも、代表選手と同じように強化を図り、翌年の大会に向けて準備していく体制を組むと共に、できる限りジュニアの有力選手も強化合宿に招集しました。東京オリンピックで金メダルに輝いた阿部詩選手や素根輝選手も、2017年の世界ジュニアに出場していた選手です。ですから、1年1年の勝負も大切ですが、指導者は同時に10歩先を見据えた人材育成、組織づくりを常に考えていくことが大事なのだと思います。

〈眞鍋〉
長期的な視点。指導者が忘れてはいけないことですね。

〈増地〉
それから、対応力の強化です。バレーボールもそうかもしれませんが、柔道は結構ルールが変わります。それまで「技あり」を2本取れば合わせて1本になっていたのが、リオ大会後はいくつ取っても1本にならないルールになったんですね。じゃあどうすればよいかを一所懸命考えまして、立ち技で投げた後の寝技を強化する戦略を立てたんです。これは実際に大きな成果に繋がって、東京オリンピックで勝った試合の約6割が寝技だったんですよ。

〈眞鍋〉
東京オリンピックはコロナ禍の影響により1年延期になりましたが、そのあたりはどのように対応されたのですか。

〈増地〉
これも対応力で、確かに7階級の代表選手が決まった1か月後に大会延期が発表されましたから、選手たちも一時は大きなショックを受けました。しかし、その後はむしろ1年間を有効に使おうじゃないかと気持ちを前向きに切り替えて、新しい技を身につけたり、Zoomミーティングで選手の状況を常に把握したり、環境を変えて高地トレーニングを行ったり、様々な工夫をしてモチベーションを落とさず、準備を着々と進めていきました。

〈眞鍋〉
動揺せず着々と準備を続けた。素晴らしい対応力ですね。

〈増地〉
あとは、眞鍋さんと同じように適材適所、役割分担です。
監督がどんどん前面に出るのではなく、あくまで選手と、選手に一番近い各階級の担当コーチや専門スタッフたちがその能力をうまく発揮できるよう環境を整えることに徹しました。私はプロ野球監督の落合博満さんの本を読み、とても影響を受けたのですが、落合さんも自分が前に出るより、適材適所に人材を置き、全体を俯瞰しながら任せていく指導者です。

最初にお伝えしたように、そうした地道な準備を徹底的に積み重ねたことで、東京オリンピックでの全7階級のうち6階級メダル獲得、4つが金メダルという結果に繋がったのだと思います。


(本記事は月刊『致知』20243月号 特集「丹田常充実」より一部抜粋・編集したものです)

本記事では他にも「苦しい体験は後の人生の糧になる」「普段の練習+αが本当の成長に繋がる」「指導者としての役割にやりがいを見出す」「数字で平等に選手を評価する」をはじめ、増地氏と眞鍋氏に自身の指導者としての歩みを交え、勝利を掴む指導者の条件を縦横無尽に語り合っていただきました。全文は本誌をご覧ください!

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◇増地克之(ますち・かつゆき)
1970年三重県生まれ。警察官だった父の影響で、小学生4年生から地元の道場で柔道を始める。高校3年時に個人戦重量級でインターハイへ出場。高校卒業後は筑波大学に進学、在学中に全日本柔道選手権大会に初出場を果たし、以後、重量級のトップ選手として活躍を続ける。1994年全日本選抜体重別選手権95kg超級優勝(2連覇)。同年アジア競技大会(広島)無差別級優勝。1996年新日本製鐵に入社し、全日本実業柔道団体対抗大会で三度の優勝に貢献。2001年同社を退職後は、桐蔭横浜大学柔道部監督、筑波大学柔道部監督を経て、2016年全日本柔道女子代表監督に就任。東京2020オリンピックでは七階級のうち六階級にメダルをもたらす。

◇眞鍋政義(まなべ・まさよし)
1963年兵庫県生まれ。中学からバレーボールを始める。大阪商業大学に進学後、1985年に神戸ユニバーシアードで金メダルを獲得、日本代表メンバーに初選出され、ソウルオリンピックに出場する。入社した新日本製鐵では選手兼監督として活躍し、リーグ優勝を経験。イタリア・セリエAのパレルモでプレーした後、旭化成、パナソニックで活躍。2005年現役引退後には女子チームである久光製薬スプリングスの監督に就任し、2年目でチームをリーグ優勝に導く。2009年に女子日本代表の監督に就任し、2010年世界選手権では32年ぶりのメダル、2012年のロンドンオリンピックでは28年ぶりの銅メダルを獲得。2022年より5年ぶりに代表監督に復帰し、現在に至る。

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