2023年11月09日
今年創業23年を迎え、都内に5店舗展開するグルメハンバーガー専門店「BROZERS’(ブラザーズ)」。〝職人ハンバーガー〟と称されるほど、徹底的にこだわり抜かれたハンバーガーが人気を博し、グルメバーガー界のパイオニアとして知られています。「ハンバーガー=安い食べ物」という固定概念を覆してきた社長の北浦明雄さんはいかにして道なき道を切り拓いたのでしょうか。創業の足跡と共に、経営を通じて一貫してきた思いを語っていただきました。
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芸術作品のように真心を込める
芸術作品を制作するように、素材から見た目まで徹底的にこだわり、一品一品真心込めてつくるグルメハンバーガー専門店「BROZERS’(ブラザーズ)」を日本橋人形町に立ち上げ早23年。価格は1個1,000円以上ですが、職人さながらの出来映えと精魂を込めたサービスがお客様の心を掴み、いまでは都内に5店舗を展開、〝グルメバーガー界のパイオニア〟と称されるまでになりました。
しかしこれまでに至る道のりは決して平坦ではなく、逆境の連続でした。
私は父の仕事の関係で3歳から7年間をベルギーで過ごし、様々な国籍の子供が通う学校で幅広い価値観を養いました。しかし10歳で帰国すると、知らぬうちに画一的な世間一般の価値観に染まるようになったのです。
そんな自分に違和感を覚えながら行った就職活動は悉く不採用に……。
部屋に閉じ籠り、「自分は何のために生きるのか──」。何度も自問を繰り返した末、「魂の赴くままにやりたいことをしたい」との想いに至った私は、答えを得るには安住の地を飛び出すしかないと勇気を振り絞り、単身何一つ伝手のないオーストラリアへ向かったのでした。
人生を変える転機が訪れたのは渡豪2日目。偶然見つけたグルメバーガー店のこだわり抜いた豪快なハンバーガーに魅せられ、働かせていただくことになったのです。商品へ懸ける信念に加え、皆自分の魂が喜ぶままに仕事に没頭しており、私も初めて仕事が楽しいと思えました。
「こんなお店を日本で開き、広めたい」。起業という明確な目標を得て、1年間の海外生活は幕を閉じました。この経験から、自分の限界を定めず、一歩踏み出す勇気が人生を変えるのだと実感しました。
「Zの精神」が道を拓く
帰国後は飲食店で下積みを重ね、幼少期から一緒に何かをやろうと語り合った兄と共に、2,000万円の借金をし、「ブラザーズ」を創業。2000年、25歳の時です。
社名は兄弟で始めたことにちなみブラザーズと名付けましたが、綴りを「BROTHERS」から「BROZERS」に変えてアルファベット最後のZを入れ、「Zの精神」、つまり何事も諦めず、最後までやり通すとの思いを込めました。
自信満々でオープンしましたが、連日閑古鳥が鳴く有様でした。というのも、当時日本のハンバーガーは1個100円程度のファストフードが主流で、「ハンバーガー=安い食べ物」という固定概念が壁として立ち塞がっていたのです。
それでも決して妥協することなく365日働き続け、ただ待っていてもお客様は増えないと、たとえ雨の日も風の日もチラシ配りやポスティングを行いました。そして1日僅か4、5人であっても来店してくださる一人ひとりのお客様を大切に、一品一品精魂込めてつくることを愚直に実践し続けたのです。
地道な努力の甲斐もあり、徐々に売り上げは伸びたものの、依然として資金繰りは難航。通帳残高が数千円しかない生命の危機ともいえる状況が続き、経営を共にしていた兄との兄弟仲が悪化していきました。
このままでは会社はおろか兄弟関係が潰れてしまう──。苦渋の決断でしたが、同意の上で兄に退いてもらい、現在の妻と共に創業3年目に新たなスタートを切ったのです。
それからは私の考えや描くビジョンが社内に浸透しやすくなり、皆で一つの方向に進むことができました。そして商品を効率よく提供すること、掃除などの日常の作業を徹底して行う「凡事徹底」で、目の前のお客様に感動を届けるという経営方針をより一貫していったのです。
目には見えない努力の積み重ねがお客様の心に届いたのでしょうか。次第にリピート客が増加し、4年目には当初目標にしていた月商を達成し、その後長蛇の列をつくる繁盛店に成長しました。目先の売り上げではなく、基本を最後までやり切る「Zの精神」が弊社の道を拓いたのです。
〈「BROZERS’(ブラザーズ)」人形町本店〉
〈店内の様子〉
失われた日本精神の復興を目指して
また、業績が安定し始めた2005年にはグルメバーガーの認知度が高まり、社員にも将来自分の店を持ちたいという希望者が増えてきました。彼らに責任感を抱かせ、任せなければ弊社の発展はないとの思いから、6年目に現場を離れる決断を下しました。
以降は2008年のデリバリー専門店を皮切りに多店舗展開を図ると共に、人材教育に注力。彼らが自分の城を築いた後も維持・発展させられるように、行動指針をまとめた小冊子の作成や会議の場を通じて、当たり前のことを一所懸命やり切る心が仕事の本質だと伝え続けました。
また敬愛する鍵山秀三郎氏の「掃除道」の精神を受け継ぎ、地域を掃除する奉仕活動を通してスタッフの心を育てる実践も10年以上行っています。
結果、これまでに30人以上の社員が飲食店経営者として独立を果たし、コロナ禍にも拘らず年間の最高売り上げを更新することができました。
私が経営を通じて大切にしてきた何事も諦めず、最後までやり切る「Zの精神」はかつて日本人の多くが備えていた心構えでした。しかし現在では物質的な豊かさと引き換えに、その大事な心を失っているように思えてなりません。
私淑する松下幸之助氏も、1975年に上梓した『危機日本への私の訴え』で、失われた日本精神への切実たる危機感を表明しておられます。それから約50年、事態は一層深刻になっていると感じます。
物質的な豊かさはすでに達成されているいま、これからは精神的な豊かさを追求する時代です。心に重きを置いた精神的な実践を通して、精神の大切さを次世代に引き継ぎ、日本精神の復興、よりよき未来に貢献すべく邁進する覚悟です。
(本記事は月刊『致知』2023年4月号連載「致知随想」より一部抜粋・編集したものです)
◇ 北浦明雄(きたうら・あきお)
1975年生まれ。大学卒業後、ワーキングホリデーでオーストラリアへ。そこで出合ったハンバーガーに魅了され、帰国後、当時では珍しいグルメバーガー専門店「BROZERS’」を2000年にオープン。その後レストラン、テイクアウト、デリバリー事業を展開。掃除を通して、地域貢献と人材育成に努める。ブラザーズから独立したスタッフは30人を超える。
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