かつてない変調に直面する中国経済——日本は中国とどう向き合うか【中西輝政】

2023年後半のキーワード、それは国際社会の「想定外」の動きである──ここにきて激烈とも言うべき中国の変調が明らかになってきました。とりわけ国内経済の落ち込みは、打開のメドさえ立たないと評されるほど深刻です。この問題は、ウクライナ戦争に匹敵するほどの甚大な影響を世界秩序に与えることになりかねません。日本は今後、起こり得る「想定外」の事態に向けて、どう備えればよいのか。国際政治に通暁する京都大学名誉教授の中西輝政さんにお聞きしました。

危機に直面する中国経済

<中西>

……いま中国で起きている、「かつてない変調」は安全保障以上に、経済や市場においてとりわけ顕著です。

中国は昨年11月、ゼロコロナ政策を全廃し経済活動を正常化しようとしました。そこで当時、中国経済の「V字回復」が期待されましたが、今夏発表された経済指標は予想以上に落ち込んでいました。4月から6月までの第2四半期で見ると、前年同期比6・3%の成長率に留まっています。

一見、悪くない数字に思えますが、前年の同期、上海をはじめ各地でロックダウンが相次いでいたことを思うと、むしろマイナス成長に近い数字なのです。ちなみに1月~3月と比べると0・8%という、より厳しい数字となっています。世界中がインフレ局面に入ったのに、中国だけはかつてないデフレに陥っており、平成の日本と同じ回路に入ったようです。少なくともここまでの低成長率は近年なかった現象です。

驚くのは、輸出の著しい零落です。特にこの六月は前年同期比12・6%のマイナス。昨年はロックダウンもあって輸出が極端に少なかったことを考え合わせると、これは、まさに異常ともいえる落ち込みであることが誰の目にも明らかです。

若者(16歳~24歳)の失業率に目を移すと、20%を超えています。中国政府はこの数字に職を求めていない人、一か月の間に一時間でも働いたことのある人、さらに大都会で失業し農村に戻った農民工と呼ばれる人は失業者としてカウントしていませんから、その数はさらに膨れ上がります。北京大学の研究者が40%を超えるのでは、という試算をしており、その数字の信憑性はともかく事態が深刻さを増していることは明らかです。

直近の統計ですでに国内の400万社が倒産したとのデータも発表されており、そうなるともうこれは若者に限った問題ではありません。

これらの数字を見たチャイナ・ウォッチャーたちは一斉に声を上げ始めました。『産経新聞』の中国経済のウォッチャーとして知られる田村秀男氏は7月25日付のコラム「田村秀男の経済正解」の中で「中国経済がデフレの泥沼に入り込んだ。打開のメドは立たない。産業界はこの際、覚悟して脱中国に本腰を入れるべきだ」と厳しい論調で日本の産業界に警鐘を鳴らしています。ここから伝わってくるのはこれまでにない危機感と、驚くべき想定外の出来事が迫りつつあるという事実です。

また、ノーベル経済学賞受賞者でアメリカの有名な経済学者ポール・クルーグマン氏は、7月25日の『ニューヨーク・タイムズ』で「中国経済が明白に失速し始めた。バブル崩壊後に日本が辿ったような道を辿るのではないかという見通しをする人があるが、中国の急激なデフレはそんなものではない。日本の失われた20年を数倍深刻にした悪夢のような状態に陥るのは誰の目にも明らかだ」と言い切っています。

クルーグマン氏はどちらかと言えば、やや過剰な表現をしがちな論者ですが、決して中国に厳しい見方をする人ではありません。それでもこれはいささか踏み込んだ表現で、少々割り引いて読む必要はあるとしても、『ニューヨーク・タイムズ』がここまで明言させていることの重みを感じずにはおれません。

★この続きは本誌2023年10月号連載「時流を読む」をご覧ください。

本記事には

・中国は沖縄に触手を伸ばしつつある

・失われた20年を数倍深刻にした悪夢

・悲鳴を上げる中国の地方行政

・変化を掴む3つのポイント

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◇中西輝政(なかにし・てるまさ)

昭和22年大阪府生まれ。京都大学法学部卒業。英国ケンブリッジ大学歴史学部大学院修了。京都大学助手、三重大学助教授、米国スタンフォード大学客員研究員、静岡県立大学教授を経て、京都大学大学院教授。平成24年退官。専攻は国際政治学、国際関係史、文明史。著書に『国民の覚悟』『賢国への道』(共に致知出版社)『大英帝国衰亡史』(PHP研究所)『アメリカ外交の魂』(文藝春秋)『帝国としての中国』(東洋経済新報社)など多数。近刊に『覇権からみた世界史の教訓』(PHP文庫)。

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