「ノーベル賞 陰の立役者」世界トップシェア理科学・分析機器メーカー 日本電子 再建劇の裏側

『致知』2023年9月号の特集テーマは「時代を拓(ひら)く」です。世間的に目立たなくとも、一つの分野において周りをリードし続ける会社。また、困難に遭っても大勢の社員の生活・家族の未来を守り、顧客の仕事に貢献し続ける経営者。これらはどちらも、時代を拓いていると言えるのではないでしょうか。

その言わば両方を成し遂げているのが、電子顕微鏡分野で世界トップシェアを誇り、日本を代表する理科学・分析機器メーカー日本電子株式会社の栗原権右衛門(くりはら・ごんえもん)会長です。本号でお話しいただいている同社の経営改革の立役者である栗原会長の取材秘話を、担当編集者が綴ります。

一番重要なのは〝人格〟

理科系研究者の世界では知らない人がいないとさえ言われる日本電子株式会社(通称JEOL)の事業内容を、よく知っている方は多くないかもしれません。

しかし同社は日本を代表する理科学・分析機器メーカーとして、電子顕微鏡分野では世界シェア首位を保持。物質の分子構造を原子レベルで解析する核磁気共鳴装置(NMR)では国内シェアをほぼ独占しているという業界きっての優良企業です。

そんな知る人ぞ知る会社があることを編集部に教えてくれたのは、『致知』のご愛読者でもある世界的研究者でした。その方の強い推薦、ご紹介があり、栗原会長の取材は依頼から間を置かずに決まりました。

社員数3,351人(2023年3月末現在、連結の数字)を抱える一大メーカーを導いてきた経営者ということで、いささか緊張しながら本社の門を潜り、入室を待つこと数分。会長は気さくな笑顔で姿を現し、取材は和んだ雰囲気でスタートしました。記事にもある通り、「人と関わる上で一番重要なのは何よりも人格」であることを若い頃から学んできたという会長の人柄を、90分を超える取材の節々で感じることになりました。

大村智博士(右)と栗原権右衛門会長(左)写真提供=日本電子
くりはら・ごんえもん
プロフィール――昭和23年茨城県生まれ。46年明治大学商学部卒業後、日本電子入社。取締役メディカル営業本部長、常務取締役、専務取締役を経て平成19年副社長、20年社長。令和元年6月より会長兼最高経営責任者、4年6月より会長兼取締役会議長。

「文科系人間」が理科学機器メーカーのトップに?

なぜ、会長がそのような初対面の相手にも伝わる人柄を身につけられたかと言えば、営業マン時代の現場経験が大きいでしょう。会長はインタビューでこう話されています。

〈栗原〉
私はもともと科学技術には無縁の文科系の人間なんです。入社した1971年は高度経済成長の真っ只中で、大学が商学部だったのもあって海外で働ける商社に憧れていたんですが、幸か不幸か落ちてしまった。そして海外展開しているメーカーを探し求める中で当社に思いがけず採用され、入社後は営業に配属されました。

——未知の分野に飛び込んだ。

はい。それも電子顕微鏡ならまだ分かりやすいのですが、先ほど説明したNMRの担当にされましてね、「これを勉強しろ」と先輩に言われた本が1行目から理解できない(笑)。原子や分子などの基本から必死で勉強しました。

——何が仕事を続ける原動力になりましたか。

それは素晴らしいお客様との出逢いです。当社は企業でも大学でも、有力な研究者がいるところに営業に行きますから、例えば、大村先生とは入社3年目に初めてお会いしてNMRをご購入いただき、2001年にノーベル化学賞を受賞された野依(のより)良治先生とは、1975年、名古屋に転勤した際にご縁をいただき、以来、親しくさせていただいてきました。

未経験からこの世界に飛び込んだ栗原会長は、後にノーベル賞を受賞するような研究者の先生方と直に接するという経験をされます。ただ研究熱心なだけではなく、人格に優れている。それが一流研究者たるゆえんであることを学んでいかれます。

そうして様々な分野の営業を経験した栗原会長が社長となったのは、2008(平成20)年。リーマン・ショックで世界経済に激震が走った年です。そして実はこの時まで長らく、日本電子は高い技術力を誇りながら、低収益に喘ぐ苦しい時代を過ごしていました。そこに不況が追い打ちをかけたことで、就任直後に巨額の経常赤字を計上することになります。

社が一躍注目を集める起点となった電子顕微鏡「DA-1」の前にて。 昭和天皇陛下や当時の皇太子殿下(現・上皇陛下)もご視察された

一度もバットを振っていないのに三振……経営改革の始まり

当時を振り返って、栗原会長はこう語っています。

〈栗原〉
世界で事業展開しているだけにリーマン・ショックの煽りをもろに受け、就任直後の決算で売上高839億円に対し、経常赤字が27億円も出てしまったんです。野球に譬(たと)えると、バッターボックスに入った途端に、バットを振る間もなく三振を言い渡された気分でした(笑)。

赤字になった途端、金融機関等から厳しいご指導を受けました。翌年には円高が強まり、これも海外売上高比率の高い当社には堪(こた)えました。ただ、いまになって思うのは、あれだけ大変だったからこそ構造改革ができたということです。

——ああ、大変だったからこそ。

一歩どころか半歩退いたら会社が潰れるという危機感があったから、むしろ思い切って踏み出せたんです。そこから、痛みを伴う様々な経営構造改革に着手していきました。
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社長に就任した途端に窮地に立たされた栗原会長。そこで腐ることなく、境遇を呪うことなく、思い切った改革を断行していかれたところに、若い頃から培ってきた人格の確かさを感じずにはいられません。そんな改革の裏側を次々と忌憚なく話される栗原会長に魅了される取材でした。

本記事では、栗原会長が先導した日本電子再建劇について、ご自身の体験を交えた組織論・リーダーシップ論を語っていただきました。

◉『致知』9月号 特集「時代を拓く」
インタビュー〝科学技術立国 日本の前途を照らす〟
栗原権右衛門(日本電子会長)

  ↓ インタビュー内容はこちら!

◆ノーベル賞 陰の立役者
◆未知なる世界に飛び込む
◆傾いていく会社の共通項
◆ゼロ球三振からの構造改革
◆弱みと強みを併せ呑む風土改革
◆創業のDNAを守り抜く

電子顕微鏡を主力とする同社では異例、営業畑出身のトップとして現在も経営に携わる傍ら、講演活動などにも精を出されている栗原会長。技術の向上・深化に力点が置かれすぎ、会社存続に欠かせない利益が軽視されがちな日本メーカーの通弊を打破していった軌跡と、その背景にある創業者・風戸健二氏への敬慕の念、氏が遺した祖業のDNAを守り抜く気概に溢れた歩みに学ぶものは多くあります。

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▼『致知』2023年9月号 特集「時代を拓く」
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時代を拓くとは自分を拓くこと、自分の運命を拓くこと。一つの時代に対し、自分の運命を拓いていける人にして、初めて時代を拓くことができる――各界でそれぞれの〝時代〟を拓いてきた人物に登場いただきました。

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