卵を投げつけられた王貞治が放った驚きのひと言——福岡ソフトバンクホークス監督・小久保裕紀が振り返る

3度の日本一を経験、400本塁打・2000本安打を達成して2012年、19年間の現役生活にピリオドを打った小久保裕紀さん。2017年に行われた第4回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)では監督として侍ジャパンを率い、ベスト4。2023年10月からは福岡ソフトバンクホークス1軍監督に就任し、チームを2024年シーズンの日本シリーズ進出に導きました。そんな小久保さんが師と慕う、王貞治監督(当時)の知られざるエピソードをご紹介します。

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練習の時に楽をするな 練習の時に苦しめ

〈小久保〉
僕がプロで成功した一番の要因は王監督との出会いだと思っています。

亡くなられた根本陸夫監督の後を引き継いでダイエーの監督に就任されたのは僕がプロ2年目の時でした。その出会いからトータルで15年、王監督の下でプレーさせてもらったんですけど、僕はその教えを忠実に守ることを心掛けてきました。

王監督からは例えば「楽をするな」って教わったんですよ。

「練習の時に楽をするな。練習の時に苦しめ」と。

練習は普通センター返しが基本と言われていて大方の選手はそうしているわけですけど、僕の場合は王監督から「ボールを遠くに飛ばせ。それにはバットを振った時、背中がバキバキと鳴るくらい体を120%使え」と言われました。皆、練習の時は適当にやって、試合で100の力を発揮しようとするのですが、これは間違いだということがいまはよく分かります。

王監督のことでは強く印象に残っていることがあります。

怒ったファンからバスに卵をぶつけられたことがありました。96年5月の日生球場での公式戦最終日です。

負けが続いていて、怒ったファンの方がたくさんの生卵を僕たちのバスに投げつけられたんです。卵が飛び散って外の景色が見えないくらいだったのですが、そんな時でも王監督はどっしり構えて絶対に動じられなかった。後ろをついていく人間としてリーダーがここまで頼もしく思えたことはなかったですね。

帰ってからのミーティングでも

「ああいうふうに怒ってくれるのが本当のファンだ。あの人たちを喜ばせるのが俺たちの仕事なんだ。それができなければプロではない」

とおっしゃいました。僕はまだ人間が小さいですから「あんなやつらに」とついつい思っていたのですが、それだけに絶対に言い訳をしようとしない監督の姿には学ばされました。

これは原辰徳監督から聞いた話なんですが、ジャイアンツの監督だった頃のミーティングはきつかったらしい。選手たちは内心「それは王選手だからできたんでしょ」と反発したことが結構あったらしい。おそらく王監督はそこで何かを感じ取られたんだと思うんです。

ダイエー時代、王監督は自分の話をする時、必ず最初に一言「手前みそで申し訳ないけど」と断っておられました。これは上に立つ人が下の人に話す時にとても大切なことではないでしょうか。

目の前のことに100%力を注ぎ込め

どんな小さな仕事であっても、それを天職と自分で思って全身全霊をかけてぶつかり、目の前の課題を一個一個クリアする中で次の展開が見えてくる。僕の座右の銘である「この一瞬に生きる」はそこに繋がってくると思っています。

王監督からは「二度とないこの一球という意識を強く持て」と教わりました。同じ一球でもなんとなく見逃すのと確信を持って見送るのは大変な違いです。

ただ、野球は勝負なのでこの言葉がピンと響くんですが、ユニホームを脱いだ後は、よほど強く意識しない限り、一瞬一瞬の勝負がなくなってしまう。だからこれからは、講演でも取材でも野球教室でも、すべての仕事を試合と考えて全身全霊で打ち込もうと思っています。

それに一つ加えるとしたら、プロ野球でもなんの世界でも「思い」の強さはとても大事だと思います。

プロに入ったことで夢を叶えたと考えるような選手はやはり育たないですね。僕の場合は「絶対にレギュラーになる。絶対に名を残してやる」という思いが半端でないくらいありました。だからこそプラスになると思うものはなんでも吸収してきました。

いまの若い選手には「僕は将来、絶対にホームラン王になる」と言い切る者が少ないんですよ。逆に結果が出ていないのに謙虚な選手ばかり増えてきました。僕はそんな選手に

「俺は天狗になって、その鼻を折られた。それでも折れた鼻を再び生やしたから成長したんだ。伸びもしないうちから謙虚になるな」

と言うんです。特に若い頃は寝ても覚めても夢でも、常に願望を抱いていることが伝わってくる迫力が必要だと思います。


(本記事は月刊『致知』2013年3月号 特集「生き方」より一部を抜粋・編集したものです

◎王貞治さんも、弊誌『致知』をご愛読いただいています。創刊46周年を祝しお寄せいただいた推薦コメントはこちら↓↓◎

『致知』と出逢ってもう二十年になる。

現状に満足せず、人の生き方に学びながら、自分を高める――。これは私が野球選手として、また監督として、常に心懸け実践に努めてきた姿勢であり、『致知』を読み続ける中で、毎月教えられていることでもある。

人は時代の波に振り回されやすいものだが、『致知』は一貫して「人間とはかくあるべきだ」ということを説き諭してくれる。本当に世の中に必要な本だと思う。

 

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◆小久保裕紀(こくぼ・ひろき)
昭和46年和歌山県生まれ。青山学院大学時代にはバルセロナ五輪で銅メダル獲得、大学野球日本一に輝く。平成6年福岡ダイエーホークス入団。翌年レギュラーを獲得し本塁打王に。その後も本塁打を放ち続けてリーグ優勝に貢献。平成15年巨人にトレード。19年古巣のソフトバンクに移籍し23年には日本シリーズMVPを獲得。24年通算400本塁打2000本安打を達成し10月に引退。著書に『一瞬に生きる』(小学館)がある。

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