日本の防衛はこれでいいのか? 織田邦男・元空将が喝破する「平和」への道筋

混迷を極めるウクライナ危機と並行して、いよいよ溝を深めているアメリカとロシア。時を同じくして中国や北朝鮮など核保有国が存在感を増し、日本人も決して対岸の火事を眺めていられる状況ではなくなってきました。

果たして、日本の防衛はこれまで通りでいいのか? 航空自衛隊で空将、またイラク派遣航空部隊指揮官を任じられた織田邦男さんにいただいた、日本が平和への道を歩む現実的・建設的な提言です(情報は『致知』2021年12月号 掲載時ママ)。

グレーゾーンの戦いに対応できない日本

……前略 ※全文は致知電子版より
〈織田〉
ここまででお分かりいただけるように、いまの日本は危機に的確に対応できる体制になっていない。

戦争といえば、宣戦布告をして華々しく戦闘が始まるイメージがあるが、世界はいま、平時と有事の区別がつきにくいグレーゾーンの戦いに入っている。7年前(編集部註:掲載時)、クリミア半島がロシアに侵略された時は、現地の人が朝起きるとインターネットもテレビも通じなくなっており、政治経済の中枢やメディアなどの施設は、国籍の分からない軍(後でロシア軍と判明)に占拠されていたという。

ロシアが戦いの参考にしているのは、中国の掲げる「超限戦」だろう。超限戦というのは、軍事力だけでなく、外交、経済、心理、世論なども含めたあらゆる非軍事的手段を駆使して戦いを仕掛けるのである。

その中国は、日本の尖閣諸島にグレーゾーンの戦いを仕掛けてきている。彼らは今年、海警局の船が武力行使を可能にする海警法を改正した。つまり、軍を出さずに日本の領土を奪える体制を着々と整えているのである。

ところが日本では、グレーゾーンの戦いにどう対応するかという議論すら起こらない。

国民の皆様にはよく認識しておいてほしいことだが、いまの日本の法律の下では、自衛隊は防衛出動が下令されない限り警察権しか行使できず、軍としての自衛権行使ができない。いざ事が起こってから、国会で防衛出動の可否を議論しているようではとても国を守れない。平時か、有事か判断し難い状況下で、自衛隊が速やかに対応できるよう、早急に法律を見直す必要がある。

もう一つ求められるのは、日本の防衛といえば自衛隊という固定観念から脱却することである。我が国には自衛隊ばかりでなく、警察も海上保安庁もある。グレーゾーンの戦いでは、この三者が綿密に連携を取って、事態の進展にきめ細かく対応できる体制を整えておかなければならない。

部屋の照明には、オン/オフのスイッチだけでなく、次第に明るさが増していくディムスイッチもある。自衛隊への防衛出動を下令することは、戦いのスイッチをいきなりオンにすることであり、いたずらに事態をエスカレートしかねない。

例えば、尖閣諸島の近辺に侵入を繰り返す海警局の船に対処するため、あるいは島に民兵が上陸した際に自衛隊を派遣すれば、中国は「日本が先に戦争を仕掛けてきた」とここぞとばかりに世論戦を仕掛けるだろう。人民解放軍を投入する口実を与えかねない。

これを防ぐためには、法律を改正して海上保安庁がグレーゾーンで対応できるようにしなければならない。自衛隊の出動は、あくまで最終手段である。

日本は先般、有事法制や安全保障法制を実現し、一部限定的な集団安全保障体制を整えたが、これはようやく冷戦時の戦いに対応できる体制が整ったに過ぎない。世界の現状に対して、日本は周回遅れの位置にいることを自覚しなければならない。

▲記事全文は『致知』2021年12月号〈致知電子版〉でお読みいただけます。
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北朝鮮、中国の攻撃からいかに日本を守るか

こうした世界の現状に鑑みるに、国家は、平時の小競り合いから核兵器の使用に至る最終段階まで、あらゆる局面に対応できる抑止力を備えておかなければならないことを、改めて実感させられる。

抑止力には、懲罰的抑止力と拒否的抑止力がある。懲罰的抑止力というのは、例えば核攻撃を受けた際に核で報復することだが、これは現状ではアメリカに依存するしかない。日本が早急に整備すべきは、拒否的抑止力である。拒否的抑止力とは、威嚇、恫喝を仕掛けてくる相手に対して、その脅しが効かないことを示し、相手の意図を拒否するための防衛力である。

急ピッチでミサイル開発を進める北朝鮮は先日、変則軌道で飛行する弾道ミサイルを発射した。従来の弾道ミサイルと異なり、迎撃は極めて困難なため、にわかに議論が高まっているのが、敵基地攻撃能力である。ところが、「敵基地」の認識が政府の中でもまちまちな印象があり、速やかに体制を確立するためにもこれを明確にしておく必要がある。

攻撃すべき「敵基地」は三つに分類される。一つ目は相手国の政治・経済の中枢、二つ目は貯蔵庫や通信施設なども含めた軍事施設、そして三つ目が、発射前のミサイルである。

一は報復攻撃であり、アメリカに依頼するしかない。二は攻撃対象が多岐にわたるため、相当な防衛力が必要となる。とはいえ、拒否的抑止力でありアメリカに丸投げというわけにはいかない。日米共同作戦を念頭に腰を据えて取り組む必要がある。

三は日本が単独で取り組まねばならない。2017年策定された米国の国家安全保障戦略には、三はミサイル防衛に含まれると定義されており、とっくに日本は着手していなければならない拒否的抑止力である。小型の偵察衛星で構成される衛星コンステレーションを整備してリアルタイムで情報収集できる体制を整えれば、実行可能性は十分ある。

中国の弾道ミサイルにも早急な対処が求められる。アメリカは冷戦時代に旧ソ連とINFを締結して中距離核戦力を全廃したが、この間隙を縫って中国は中距離ミサイルを量産した。その数は現在1,250発にも達するといわれ、日本全域が攻撃対象となっている。これに対応できる現実的手段は、アメリカが開発中の中距離弾道ミサイルを日本に持ち込む以外にないだろう。

繰り返しになるが、国を守るためには、平時の小競り合いから核戦争まですべてに対応できる抑止力を備え、相手に付け入られる力の空白をつくらないことである。平和は、力の均衡によって保たれるものなのである。


(本記事は月刊『致知』2021年12月号 連載「意見・判断」より一部を抜粋・編集したものです)

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◇織田邦男(おりた・くにお)
昭和27年愛媛県生まれ。49年防衛大学校卒業、航空自衛隊入隊。F4戦闘機パイロットなどを経て、58年米国の空軍大学へ留学。平成2年第301飛行隊長、4年米スタンフォード大学客員研究員、11年第6航空団司令などを経て、17年空将。18年航空支援集団司令官(イラク派遣航空部隊指揮官)。21年航空自衛隊退職。27年東洋学園大学客員教授。

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