2023年01月25日
チアダンスに魅せられ、全くの未経験ながら全米チアダンス選手権大会優勝という目標を掲げ、新たに赴任した福井県立福井商業高等学校のバトン部をチアリーダー部へと変革した体育教師、五十嵐裕子さん。赴任から僅か3年後の2009年にフロリダ州オーランド開催の全米大会で初優勝を飾り、現在は通算9回の優勝を達成しています。「ウェルカムピンチ」を合言葉にチームを導いてきた五十嵐さんが掲げる指導理念から、チーム力を育てる秘訣を学びます。
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日本人はチーム力で勝つ
――毎年生徒が入れ替わる中、結果を出し続けられる秘訣はどこにあるのでしょうか。
〈五十嵐〉
結局、人づくりなんです。もちろん、優勝するのが目標ですけど、とにかく一人ひとりの人間的な成長に焦点を絞って日々取り組んでいたら、その結果、優勝できるようになりました。
いま部員は76名いますけど、みんな普通の高校生なんです。そもそもチアダンスのことなど全然知らない初心者の子たちが、「先輩たちの姿を見ていたらあまりに格好いいので、私もやりたいと思って入部しました」というのがほとんどなんですよ。フレッシュで、いいでしょう(笑)。
――皆さん、強い憧れを持って入部してくるわけですね。
〈五十嵐〉
本当なら、ダンスのセンスもあって、容姿端麗、運動神経のいい生徒たちが入部してくれるとありがたいのですが、実際にはダンスの経験がなくて体も硬い、しかもダンスのセンスやリズム感もないといった生徒たちがチャレンジしたいと扉を叩いてくるのが現状ですね。
――そういった生徒たちが成長して、チアダンスの本場でも勝てるというのは、どういった辺りが評価されているのでしょうか。
〈五十嵐〉
日本人の真面目なところ、協調性のあるところ、そして細やかなところまできちんと揃えられるところです。一方、アメリカの子たちはダイナミックで個人技はすごいのですが、みんなでまとまって一つの作品を演じるとなると、ちょっとバラついたり、若干雑な部分があったりする。
日本人は、チーム力で勝てるということがやはり大きいですね。その一方で、アメリカの大会でいいなって感じたこともありました。
――どんなことですか?
〈五十嵐〉
アメリカではいいものはいいと評価し合えるところがあって、例えば試合前でもライバルチームに対して、「グッドラック」って応援できるんです。しかも自分たちが本番直前でも、ライバルチームがいい演技をしたら拍手をする。これって日本では絶対には見られない光景だけに、私はとてもびっくりしました。
――生徒たちにとっても得るものがたくさんありそうですね。
〈五十嵐〉
だからこそ国内大会の優勝に満足して終わりにするのではなく、福井県という地方にいながら、しかもまだ高校生でありながらも、何か大きなものに挑戦していくっていう経験をさせたいなと思っているんです。
(中略)
高校生活って3年で終わりますけど、彼女たちの人生はその後もずっと続いていくわけじゃないですか。ですから長い目で見た時に、ダンスの上手いとか下手という物差しだけでは、人として上等かどうかは決まらないですよってことは、いつも言っています。
では、人として上等っていうのは、果たしてどんな人を目指せばよいのか。これまでずっと考えてきたんですけど、最近よく言っているのが「周りに喜びや幸せを与えられる人になる」ですね。
――周りに喜びや幸せを与えられる人になる、ですか。
〈五十嵐〉
それが中心軸です。それと感謝の気持ちを持てることが、根っこの部分になりますね。というのも、そういう気持ちのある子っていうのは、ダンスがすぐに上手になるんですよ。
こうしたことに気づけたのも実は『致知』のおかげで、どういう人が伸びるのかという問いに対して、技術が大事だと言う方は誰もいらっしゃらないですよね。ですから、もし私が本を読むことなしに生徒たちと向き合っていたら、きっと一所懸命になって筋トレとか技術のことだけを話していたと思いますね(笑)。
気持ちが一つになる瞬間
〈五十嵐〉
実はつい最近、そういった心の内面がいかに大切かを実感する機会があったんですよ。
――と言いますと。
〈五十嵐〉
今年(2018年)の冬は北陸を中心に大雪が降った影響で、福井もすごかったんですよ。あまりの大雪に物資の輸送が一時ストップして、どこの家庭も灯油や食料が底をつくなど本当に大変でした。
――それはニュースでも連日報道されていましたね。
〈五十嵐〉
そのせいで学校も1週間休校になったのですが、実はその時点でラスベガスの大会当日まで2週間を切っていたんです。
これには困りましたけど、正直なところとても大会どころの騒ぎではありませんでした。それでも3日も経つとちょっとは余裕が出てきたので、少しでも生徒たちの不安を取り除こうと、ある作戦を立てたんです。どんな作戦かと言うと、1日の練習時間を3分割にして、生徒同士が練習メニューを決めて出来栄えを動画で送り合うというものでした。
そんなこんなでようやく雪が収まって1週間ぶりに学校が再開したので、早速通しで演技の練習を行いました。久しぶりの練習でどうなることかと思っていたんですけど、この時の演技はびっくりするほど素晴らしかったんです。全然合わせる練習をしていなかったのに、息がピタッと合って本当に感動的な演技でした。正直に言いますと、ラスベガスで優勝した時よりも、その時の演技のほうが断然よかったですね。
――それほどすごい演技だった。
〈五十嵐〉
これっていうのは、一人では踊れない、仲間って必要なんだ、みんなと会えて嬉しいっていう気持ちが、その瞬間にピタッと合った。やっぱり気持ちなんだって思いました。彼女たちの気持ちが一つになる瞬間を、私は初めて味わいましたね。
私は生徒たちに対して、「ウェルカムピンチ」っていう言葉をよく教えているんです。
――ウェルカムピンチ。
〈五十嵐〉
「ピンチはチャンスだ」って言いますけど、これはその最上級なんです(笑)。ピンチはあったほうがいいんだと。
生徒たちはそのピンチを見事に乗り越えたわけですけど、その原動力になったのが、学校に来られることへの感謝とか、仲間に対する感謝の気持ちといったものが内面から溢れ出てきたからだと私は思いました。
(本記事は月刊『致知』2018年8月号 特集「変革する」の対談記事から一部抜粋・編集したものです)
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昭和43年福井県生まれ。福井大学卒業後、教職の道に進む。16年福井県立福井商業高等学校に赴任。18年チアリーダー部「JETS」を立ち上げる。21年フロリダ開催の全米チアダンス選手権大会のチームパフォーマンス部門で初優勝。同大会の優勝は25年から5連覇。30年ラスベガス開催の全米チアダンス選手権大会のバラエティー部門で初優勝。