絶望のどん底から介護の道へ。クラスター感染の極限状態で定まった覚悟

長引くコロナ禍の下、家族や友人、恋人、恩師など大切な人と同じ空間を共有する機会が減りました。それは、医療や介護の現場で顕著です。人生百年時代という言葉が耳慣れたいまの時代に、幸福に老いるとはどういうことか――。そんな人々の思いに寄り添い、愛知県岡崎市で、デイサービス「ふくろう」や介護付き有料老人ホーム「ふくろうの家」などを運営する有限会社のぞみ・水野園美さん〈写真〉です。

月刊『致知』愛読者でもあり、同施設を約4年前に立ち上げた水野さんは、創業数年でこの未曽有のパンデミックに直面。極限状態の中で大切なことを学んだといいます。本記事では、去る9月3日に東京・新宿で開催された「第11回 社内木鶏全国大会」〈木鶏会とは:『致知』をテキストにした勉強会〉で、水野さんが涙ながらに思いを訴え、会場から割れんばかりの拍手が沸き起こったスピーチの内容をお届けします。

「死」と向き合う、命の現場から

本日お伝えしたいこと、それは「自らの死をどう迎えるのか」、家族が「弱る」そして「看取り」をどう考えていくのか。

あまり考えたことがないし、考えたくない事かもしれませんが、自分のこと、あるいは、ご自身の家族の事としてイメージしてみてくださいませんか。

私どもの仕事はここが舞台になるのです。

家族が高齢であったり、仕事をしていたり、日々四六時中介護することは大変で、自分や家族だけでは解決できない問題がたくさん出てきます。

自分や家族が介護状態になる、看取り期になる、死に向かっていく。その時の自分や家族はどんな思いでしょうか、そしてどんな状態でしょうか、どこで最期を迎えたいでしょうか。

私どもの仕事は「死」と共にあります。最期の瞬間をどこで迎えて頂くのか「人はいつか必ず死ぬ」この事を目の当たりに見てきている私どもは、最期の最期まで真摯に向き合う覚悟があるのです。

介護業界では介護される当事者やそのご家族の事をどれだけ考えられているのでしょうか。同じ業界でも私どもは明らかに違うと思っています。

なぜなら、私どもは家族の代わりになるという強い覚悟があるからで、世間一般に言う「介護サービス」ではなく、言うなれば「家族サービス」と定義しているからなのです。

家族との相次ぐ離別で荒んだ心を癒やしたもの

私には両親がいません。3歳の時、父が事故で他界し、女手一つで苦労して育ててくれた母も私が25歳の時、交通事故で亡くなりました。喪失感と無力感しかなく、なぜこんなにも不公平なんだと世の中を恨みました。1年後に離婚し、大切な子供とも離れ離れになってしまいました。

自分を否定し絶望する日々。その頃、書店で偶然手に取った本に「人生は自分次第」と書かれてあり、「こんな私でもやり直しが出来るかもしれない」と地元を離れる決心をしました。何があっても生き切る――ここから人生の再スタートを切りました。

4年後、知人から「介護の仕事をやってみないか」と声をかけて頂きました。未経験でしたが、役に立てればと始める事にしました。

そこで運命的な出逢いが訪れます。その方は難病で体を自由に動かせず、呼吸器をつけて辛うじて命を保っていました。その患者さんと母の姿が重なり、お世話を続けるうちに母の死を次第に受け入れられ、沈み切った心が癒されていったのです。

私を救ってくれたお年寄りの方々に恩返しをしていこう、この仕事を天命として一生続けていこう。そう心に誓い、平成17年に㈲のぞみを設立。ケアプランセンターを立ち上げ、介護支援の提案や相談に24時間対応で奔走する中、素晴らしい方々とのご縁に恵まれ、平成30年、関わるお年寄りの最期を看取る事のできる、念願の老人ホームを開設したのです。

「絶対にスタッフのためになる」

私はこの介護業界に「人間学の大切さを広げなければならならない」と思い始めた時に、尊敬する経営者仲間から『致知』を紹介して頂いたのです。

『致知』は私の心に大きく響きました。経営者として何を使命とするのか、誰のためにやるのか。足元を掘って掘って掘りまくり、経営理念を刷新しました。

「利用者さんを笑顔に
スタッフを笑顔に
それぞれの家族を笑顔に
地域を笑顔に
私たちは笑顔あふれる企業を目指します」

 ▲「第11回 社内木鶏全国大会」にて、社員様方が仕事への思いを語る迫真のパフォーマンス

理念を掲げて程なく木鶏会の存在を知り、すぐに導入を決めました。この理念をスタッフと共に分かち合いたいと思ったからです。

最初はスタッフも「社長何やるんだろう」といった感じでしたが、私は絶対にスタッフのためになると思っていたので、何の躊躇もありませんでした。

逆境のただ中で気がついた大切なこと

木鶏会を始めて7か月目に、施設内でクラスターが発生。利用者様とスタッフが次々に感染していく極限状態の中で、私は本当に理念を全う出来ているのか自問自答しました。

丁度その時、『致知』3月号「巻頭の言葉」に釘づけになりました。

「変える勇気と変えない勇気」

事象面においては変える勇気を、そして理念においては変えない勇気を。この一文を読み、リーダーである私が舵を切る時だと覚悟し、自ら現場の最前線に立ち何とか苦境を乗り越えました。

覚悟を決めてからは、『致知』の教えがより深く入ってくるようになりましたし、私にとって生き方や経営の道標となっています。『致知』のおかげでスタッフ全員と理想の施設に向かって歩み始めています。

木鶏会を通して、自分を知り相手を知ることで、お互いを認め合えるようになり、現場ではスタッフから利用者様に優しさが溢れていく。回を重ねるごとにそれがどんどん大きくなり、自信をつけ、スタッフ自らが考えて行動できるようになっています。

『致知』と木鶏会に出会い、改めて考えさせられたこと。それはスタッフ・利用者様・ご家族様・地域の方々への感謝です。沢山の方々に支えられて今がある。そのような思いから昨年より「地域木鶏会」も開催しています。

今後も『致知』を通して関わらせて頂ける方々と共に成長し、一人でも多くの方が生きる意味を感じて頂けたらと願っています。


◉運命を呪いたくなるような境遇から、一人のお年寄りとの出逢いで人生を取り戻し、多くのご縁を生かして地域の砦となっている水野さんと「ふくろう」「ふくろうの家」……。事業と利用者様、そしてその家族、社員と共に前進しようという心意気に感動を禁じ得ません。

〔ご案内〕
現在「社内木鶏会」は全国1,280の企業、学校で導入されています。
トップの思いが伝わりやすくなった、社員が育ち、雰囲気がよくなった、などのお声が届いています。
「社内木鶏会」を詳しく知るガイドブック(無料)はこちらからお取り寄せいただけます。 

▼企業紹介「たくさんの人の助け・応援を力に」

~『致知』・そして社内木鶏と出逢えたおかげで、スタッフ・ご利用者様・ご家族様・地域の方々への感謝に気づくことができました。高齢者福祉に携わる人間として経営理念を根幹にこれからも人のために取り組んでまいります~

有限会社 のぞみ
代表取締役 水野園美

●業務内容:有料老人ホーム(特定施設)、デイサービス、居宅支援事業
●住所:愛知県岡崎市羽根町字若宮30-1
●社員数:53名
●社内木鶏会導入歴:1年

◎各界一流の方々の珠玉の体験談を多数掲載、定期購読者数NO.1(約11万8000人)の総合月刊誌『致知』。あなたの人間力を高める、学び続ける習慣をお届けします。

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