「とにかく離さない」妹を失った悲しみを抱いて、出所者を雇い続ける草刈健太郎さんに訊く

何とも悲しい数字があります。日本では罪を犯し、刑期を終えた出所者のおよそ二人に一人が再犯に走り、獄中に戻ってしまうというのです。そんな現実を前に奮い立ち、法務省や日本財団と協力して出所者雇用に向き合う経営者の一人が、カンサイ建装工業(本社:大阪府)の社長・草刈健太郎さんです。決して一筋縄ではいかない社員をいかに受け入れ、更生へと向かわせるのか。その根本たる信念に迫りました。

「俺がおまえの親になったる」

――草刈さんは大阪で事業を営む傍ら、犯罪を起こした人の社会復帰支援にも力を注いでおられるそうですね。

〈草刈〉
はい。2013年に法務省、日本財団と私たち民間企業が協力して立ち上げた「職親(しょくしん)プロジェクト」で、刑務所や少年院から出てきた人の就労と更生を支援しています。

日本にはいま、刑務所に入っている人が約5万人いて、その二人に一人が出所後に再び犯罪を起こすといわれています。せっかく塀の中で反省してやり直そうとしても、所持金が少ないため新たに部屋を借りるお金もなく、以前過ごしていた環境から抜け出せなかったり、受け入れてくれる企業が少なく、働き口がない中で再び罪を起こしてしまうことが多いんです。

ですから私たちは、彼らの住む場所と仕事の世話をし、再チャレンジの後押しをすることを通じて再犯防止に繋げていきたいと考えています。「俺がおまえの親になったる」という気持ちで、行き場のない彼らを引き受けているんです。

受刑者の就労支援について意見を述べる草刈さん

人として愛情を込めて向き合う

〈草刈〉
私自身は、建設会社と塗装会社と人材派遣会社の三社を経営していて、これまで30人以上をそこで雇ってきました。

――雇った人は、うまく職場に馴染んでいますか。

〈草刈〉
現場監督をやりたいと言う子がいましてね。現場監督というのは職人さんと違って大勢の人をまとめる管理職なので、結構勉強しないといけないんですが、一所懸命努力して、いまは立派に務めを果たしてくれています。

それから、うちで雇った後で仲の悪かった兄と和解し、いまはその兄が営む防水工事の会社に移って、うちの下請けで仕事をしてくれている子もいます。

ただ、仕事が続かずに辞めていく子が大半ですね。中には、仮釈放を早く取るためにうちを利用して、すぐに逃げ出してしまうケースもあったり。後のことが気になるので、辞めた子とは連絡を取り続けていますけれども。

もちろんうちの仕事が合わない場合もあるので、別の就職口を探してあげたり、精神疾患だったら治療を施しながら仕事に順応させたりすることもあります。とにかくいろんなタイプがあるので、入所している時から様子を見に行って、どういう人間なのかを把握した上で、その子に合った更生の道筋を考えるようにしています。

とにかく離さないこと。愛情を込めて向き合うことが大事だというのが実感です。


(本記事は月刊『致知』2021年8月号 特集「積み重ね 積み重ねても また積み重ね」より一部を抜粋・編集したものです)

◉草刈さんのインタビューは「致知電子版」でも全文をお読みいただけます。詳細はこちら

◇草刈健太郎(くさかり・けんたろう)
昭和48年大阪府生まれ。近畿大学法学部卒業。カンサイ建装工業、日之出塗装工業、オープンブックマネジメントの社長を務める傍ら、日本財団の再犯防止プロジェクト「職親プロジェクト」の立ち上げメンバーとして、受刑者の社会復帰促進就労支援を実施。また、自ら設立したOMOIYARIプロジェクトの代表理事として、就労支援以外に被災地支援や発展途上国支援などにも邁進。著書に『お前の親になったる』(小学館集英社プロダクション)がある。

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