2024年07月22日
2019年、NBA(北米プロバスケットボールリーグ)のワシントン・ウィザーズから日本人として初めてドラフト1巡目指名を受け、いまもなお活躍を続ける八村塁選手。恩師の明成高等学校(宮城県)佐藤久夫ヘッドコーチ(写真右)は、高校時代の八村選手にも「心」をベースとした指導を行っていました。古川商業高校(現・古川学園高校、宮城県)女子バレーボール部元監督の国分秀男氏(写真左)とともに、「心」に重点を置いた選手指導、チームづくりの要諦を語り合っていただきました。
◎各界一流プロフェッショナルの体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。人間力を高め、学び続ける習慣をお届けします。
たった3分で手続き完了、1年12冊の『致知』ご購読・詳細はこちら。
※動機詳細は「③HP・WEB chichiを見て」を選択ください
「心」を優先したチームづくり
〈国分〉
佐藤先生は、選手の皆さんに「あくまで高校生らしく、一生懸命さは日本一になろう」と常におっしゃっていると聞いています。私はそこに仙台高校や明成高校の強さの秘密があるように思うのですが、いかがですか。
〈佐藤〉
私が高校スポーツの指導者として選手たちに伝えたいことをひと言で言えば心を教えることです。ひたむきにディフェンスをする、ひたむきにボールを追う、ひたむきに頑張る、正々堂々と戦う。私はそれが高校生としての戦う姿勢だと思っています。
「心・技・体」という言葉がありますよね。「心・技・体」か「体・心・技」か、それとも「技・体・心」か、どの順番でチームづくりを行うのがよいのか。私もいろいろと悩んできました。
結果的に私は「心」を優先したチームづくりをしてきました。つまり、「高校生らしさだけは日本一になろう」というテーマで指導してよい結果に繋がったことです。
バスケットで技術面の遅れを取り戻すのは容易ではありません。だけど、文武両道、勉強もスポーツも全力で頑張っていこうという姿勢を身につけさせることはいますぐにでもできます。そこに重点を置いて日本一になるための練習をスタートしました。
〈国分〉
順番としてはやはり「心・技・体」なのですね。
〈佐藤〉
私はそう思います。まずやる気がなかったら、力は十二分に発揮できません。もちろん気持ちだけでは勝てませんから、技術や体づくりを高める努力は怠ってはいけませんが、技術面では誰もができることがしっかりできていれば、それだけで絶対に結果が出せます。その技術を発揮させるために心の持ち方が大事になってくるのです。
〈国分〉
私も佐藤先生と同じように心が最優先だと考えて指導に当たってきました。女子選手は中学三年生までで、ほとんど体ができあがってしまっています。高校に入って3センチ身長が伸びればいいほうです。
当然厳しい練習を課して技術を高め、体はウエイトトレーニングをして鍛えますけれども、心の持ち方が勝敗を大きく左右するのは私の実感でもありますね。
〈佐藤〉
極端な言い方をすれば、私は技術は未熟でもいいと思っています。技術が劣る分、心の持ち方と体力で補う。体が疲れているのだったら負けん気と技術で補うというように常に心技体のバランスを取りながら、ピンチを乗り越えることが何度もありました。
褒めるとは本気にさせること
〈佐藤〉
国分先生は選手を褒めて育てる主義ですか?それとも叱って育てる主義ですか?
〈国分〉
最初は、大松監督張りに「俺についてこい」というまさにスパルタ式の指導者でしたね。しかし、優勝回数を重ねると、怒ってばかりでは選手のモチベーションが維持できないと分かってくる。怒り過ぎて駄目になる選手はいても、褒め過ぎて駄目になる選手はいないわけですから。逆に褒められると「自分もできる」と意欲が湧いてきて、期待以上に伸びてくれる選手が多くいました。
〈佐藤〉
そうでしたか。それに私も学ばなきゃいけない(笑)。
私は選手を褒めることはしませんが、認めるということは多々あるのですよ。いまのプレイは全国大会で十分使えると思えば、「いまのはよかった」という認め方をしています。
〈国分〉
要は本気にさせることが大事なんですね。
私の経験から人が本気になるのは、夢や生き甲斐を実感している時、褒められたり認められたりした時、何か大切なものを守ろうとする時、褒美をもらえる時、恐怖を感じた時。この5つです。
褒めることは大切な要素の1つだと考えています。
(本記事は月刊『致知』2016年11月号 特集「闘魂」から一部抜粋・編集したものです)
◎各界一流プロフェッショナルの珠玉の体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。あなたの人間力を高める、学び続ける習慣をお届けします。
たった3分で手続き完了、1年12冊の『致知』ご購読・詳細はこちら。
※購読動機は「③HP・WEB chichiを見て」を選択ください
◇佐藤久夫(さとう・ひさお)
昭和24年宮城県生まれ。日本体育大学卒業後、教員として宮城県内公立高校で女子バスケットボール部を11年指導。泉松陵高校で男子を3年指導した後、母校・仙台高校へ赴任。16年間の在任中は常に全国トップクラスの成績を維持し、ウインターカップ優勝2回など数々の好成績を収める。退職後、日本バスケットボール協会強化本部選任コーチ。ヤングメン日本代表コーチ、ユニバーシアードヘッドコーチ、日本代表コーチを歴任。現在、明成高校男子バスケットボール部ヘッドコーチ、仙台大学体育学部准教授。著書に『普通の子たちが日本一になった』(日本文化出版)がある。
◇国分秀男(こくぶん・ひでお)
昭和19年福島県生まれ。慶應義塾大学卒業後、京浜女子商業高等学校(現・白鵬女子高等学校)を経て、48年宮城県の古川商業高等学校(現・古川学園)に奉職。商業科で教鞭を執る傍ら、女子バレーボール部を指導。全国大会出場77回、うち全国制覇10回。平成11年には史上5人目の3冠(春、夏、国体)の監督となる。8年から春夏ともに4年連続決勝進出という高校バレー史上初の快挙を成し遂げる。