「命を支えるプラットフォーマー」を目指す──クボタはなぜSDGsに取り組むのか

長期ビジョン「GMB2030」を策定し、SDGsの推進に努めるクボタ。農機メーカとして世界的に知られる同社ですが、食料、水、環境の社会課題の解決に向けた取り組みは1890年の創業以来の伝統だといいます。同社は「GMB2030」によって何を目指すのか。会長の木股昌俊氏にお話しいただきました。

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SDGsは創業以来の伝統

〈木股〉
地球温暖化や気候変動など環境問題が叫ばれる昨今、弊社では2020年、10年後の企業のあるべき姿を見据えた長期ビジョン「GMB(Global Major Brand)2030」を策定し、現在その実現に向けてグループを挙げて取り組んでいます。

近年、SDGs(持続可能な開発目標)という言葉が広く浸透してきました。しかし、1890年の創業以来、食料、水、環境に関わる社会課題の解決に取り組んできた弊社にとって、これは何も特別なことではありません。

「技術的に優れているだけでなく、社会の皆様に役立つものでなければならない」「国の発展に役立つ商品は、全知全霊を込めて作り出さねば生まれない」という創業者・久保田権四郎の思いは、弊社のDNAとして今日まで連綿と受け継がれているからです。

132年前の創業時、日本は現在のような感染症の拡大に見舞われていました。創業者は安全な水を広く国民に供給する必要性を痛感し、苦労の末に日本初の水道用鉄管の量産化に成功、国内のインフラ整備の一翼を担いました。

入社当時の私は、お恥ずかしながら創業者の功績は知りませんでしたが、「仕事を通して砂漠を緑化したい」「農業の軽労化を図りたい」と志を語り合う同期に感化され、いつしか創業者の思いを受け継がねばという強い思いを抱くようになりました。

弊社の事業は水道管の製造を手始めとして、トラクタを中心とする農業用機械、建設機械の開発と製造、上下水道や高度浄化処理施設などの環境整備事業と、国境を越えて世界各国へと広がりを見せてきました。

これらの事業を推進することがそのまま美しい地球環境を守りながら、人々の豊かな暮らしを支えていくという企業理念の実現に繋がり、図らずもそれはSDGsが掲げる目標と同一だったのです。

世界的な食料不足の改善に貢献

〈木股〉
「GMB2030」は、以上述べた伝統を踏まえた上で、目指す姿として「豊かな社会と自然の循環にコミットする〝命を支えるプラットフォーマー〞」を掲げました。その柱として特に力を入れているのが弊社の特性を生かした食料、水、生活環境の各分野の取り組みです。

食料分野に関しては、農業機械のさらなる普及を通じた生産への貢献、例えば「スマート農業」の推進が挙げられます。

弊社では農作業の効率化や生産性の向上など長年、世界の農業を支えてきましたが、近年、最先端のロボット技術を駆使して作業の超省力化、無人化を図るスマート農業の実現に努めており、既にタイでの実証実験に取り掛かりました。

世界的な食料不足や農業労働人口の減少が懸念される中、伝統的農法にとらわれない弊社の取り組みは、豊かで安定的な食料の生産に貢献できるものと注目を集めています。

二つ目の水分野では、自然災害に強い上下水道インフラへの貢献に力を入れています。弊社は世界トップクラスの水関連総合メーカーとして知られ、日本の水インフラ構築に貢献してきました。

「GMB2030」では長年蓄積された技術を元に、IoT活用による上下水道施設のさらなる効率的な運営を進めています。上下水道を管理する全国の各自治体では人的資源の減少に頭を抱えており、インターネットを使った管理の効率化によってこの弊害を補いたいというのが私たちの思いです。
 
三つ目の生活環境分野の取り組みは、以上と関連することですが、農業も上下水道もそのキーワードとなるのがカーボンニュートラル。電力の削減や資源の再利用によってCO²を抑え込むことは「GMB2030」の大前提です。
 
と同時に弊社では環境循環型社会の実現に貢献すべく大掛かりな事業にも着手しています。瀬戸内海に浮かぶ豊島(香川県)に不法投棄された約90万トンもの産業廃棄物を資源として再生し、汚染された島を蘇らせた実績はその好例でしょう。

この技術は現在、福島県双葉町にある原発の放射性廃棄物減容化施設にも応用され、稼働しています。

以上、「GMB2030」のいくつかをご紹介しましたが、私共はその推進に当たってステークホルダーと共に歩みを進めるという姿勢を大切にしています。札幌の北海道ボールパークビレッジに設けられる農園エリアでの交流や、最新の農業機械を用いた小中学生の農業体験など魅力的な活動の場を提供し、SDGsの意義を啓発する場にしたいと考えています。

世界で活躍するクボタの最新トラクタ

社会貢献ができると社員の意識は変わる

〈木股〉
ありがたいことに、SDGsに関する弊社の長年の取り組みは広く知られるようになり、ブランドイメージの高まりにより入社希望者が増えるという好循環も生まれています。事業を通して社会貢献ができることに働きがいを覚える社員は、さらなるレベルアップを目指して前進していきます。

弊社を退職する時に「ああ、クボタに勤めてよかった」「自分の大事な人をクボタに勤めさせたい」。

社員たちにそう思ってもらえることが会長である私の理想であり、弊社のSDGs推進の大きな目標はそこにもあると言っていいかもしれません。

国連が定めるSDGsの達成目標の一つに、「平和と公正をすべての人に」とあります。しかし、現実の世界に目を向けると、ロシア・ウクライナ戦争に象徴されるように、世界平和とはほど遠い状況です。

食料、水、生活環境の保護も平和を前提としてこそ意味のあることです。戦地では多くの農地や上下水道などのインフラが破壊されており、いたたまれない思いに駆られますが、いずれ戦争が終結した後、弊社が世界に誇る諸々の技術によって側面的な復興支援を行い、世界平和にいささかでも貢献できたら、というのがいまの私の大きな夢でもあるのです。


(本記事は月刊『致知』2022年10月号 掲載「地球環境との調和のとれた世界を目指して」より一部抜粋・編集したものです)

◇木股昌俊(きまた・まさとし)
昭和26年岐阜県生まれ。北海道大学卒業後、久保田鉄工に入社。筑波工場長、海外の子会社社長などを経て平成26年副社長、同年社長に就任。令和2年創業130年を機に社長を退任し会長に。関西経済連合会副会長、日本産業機械工業会副会長などを歴任。令和3年フランス共和国国家功労勲章シュヴァリエを受章。

株式会社クボタ 
設立/1890年2月
事業内容/農業機械をはじめとする産業機械、鉄管、産業用ディーゼルエンジンなどを製造。農機メーカとしては国内首位。食料、水、環境に関わる諸問題の解決を目指し、美しい地球環境と人々の豊かな暮らしを支えることを目指す。
本社/大阪市浪速区敷津東1丁目2番47号
社員数/43,293名(連結)
問い合わせ先/ 06 – 6648 – 2111

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