女優・黒柳徹子さんの原点——父親の言葉と一つの詩

日本を代表する女優の黒柳徹子さん。持前のユーモアで見る人を魅了し続ける黒柳さんですが、幼い頃は病気で苦しんでいました。そんな当時に父親からかけられた言葉が、ユニセフや福祉活動にも注力されている現在の活動に繋がっていると言います。
今回は、黒柳さんが「心から尊敬してやまない」と讃える東京大学教授の福島智さんとの対談で、運命を切り拓く言葉の力について語り合っていただきました。

人生をひらく言葉の力

〈黒柳〉
いまはこんなに元気な私ですが、小さな頃は病気で苦しんでいたこともあったんです。

5歳を過ぎた頃、結核性股関節炎で入院し、石膏のギプスを腰から足の爪先までグルグル巻きにはめられて、上を向いて寝ているだけの生活が何か月も続きました。お医者様からは「よくなっても、将来は松葉杖をつくことになるでしょう」と親は言われたそうです。

〈福島〉
それは心配されたでしょう。

〈黒柳〉
そんな時、隣の病室に、同じくらいの年で同じ病気の女の子がいることを知りました。私はその後、奇跡的に全快しましたが、その子は後遺症で足が不自由になってしまったんです。

退院後しばらくして私が歩いていると、向こうからその女の子がやってきました。松葉杖をついていました。その子は、私の足を見ました。以来その子が見えるたび、私は急いで横道に隠れました。

ある時父と散歩をしていてやはり横道に入ろうとした私に父は「どうしたの」と聞きました。そして私が事情を話し終えるとこう言ったんです。

「そんなにかわいそうだと思うんなら、隠れないで行ってお話ししてあげればいいのに」。

その時はどうしても勇気が出なかったのですが、私がいましている福祉やユニセフなどのことを考えると、出発点はこの時の父の言葉ではなかったかと思うんです。

〈福島〉
大人に毒されない限り、子供たちはそういう素晴らしい感受性を持っているんですよね。

〈黒柳〉
ドイツの作家エーリヒ・ケストナーも「大切なことは、自分自身の子供の頃と、破壊されていない、破壊されることのない接触を持ち続けること。大人が子供と同じ人間だったことは自明でありながら、不思議なことに珍しくなっている」と述べています。

もう一つ、私の大好きな言葉に、イギリスの詩人ワーズワースがつくったこんな詩があるんです。

「草原の輝き 花の栄光
 再びそれは還らずとも
 嘆くなかれ その奥に
 秘めたる力を見出すべし」

緑の色がきらきらと光っていて、風がパアッとなびく草原の輝き。要するに若さですよね。

そして綺麗な花が一面に咲き誇っている様子。いまですよ、いま、見てください、とでも言わんばかりに。

でも、そうしたものがなくなったからと言って嘆いてはいけない。なぜなら、あなたは人生のもっと奥深くにあるものを見られるようになったのだから。逆に言えば、人生を深く見られなければ、花もなく、草原の輝きも失せた、ただのなんでもない人になってしまうということです。

〈福島〉
あぁ、心に沁みる詩ですね。

私が18歳で光と音を失った時、突然地球上から引き剝がされ、この空間に投げ込まれたように感じました。自分一人が空間のすべてを覆い尽くしてしまうような、狭くて、暗く、静かな世界。その暗黒の真空の中で呻吟していました。

失意の時、友人が私の掌に指先で書いてくれた文字がありました。

「しさくは きみの ために ある」

この言葉は、生きる意味を見失いかけていた心の暗闇を照らし、後に私に生きる力を与えてくれました。私の命は、そうしたいくつもの言葉によって裏打ちされている。私にとって言葉は命であり、命は言葉そのものです。


(本記事は月刊『致知』2013年10月号 特集「一言よく人を生かす」から一部抜粋・編集したものです)

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◇黒柳徹子(くろやなぎ・てつこ)
東京都生まれ。東京音楽大学声楽科卒業。NHK放送劇団に入団、NHK専属のテレビ女優第一号として活躍。その後、文学座研究所、ニューヨークのメリー・ターサイ演劇学校などで学ぶ。日本で初めてのトーク番組『徹子の部屋』は今年で38年目を迎える。昭和56年に著作『窓ぎわのトットちゃん』の印税で社会福祉法人トット基金を設立。その付帯事業である日本ろう者劇団の活動に力を注ぐ。59年より国連児童基金(ユニセフ)親善大使を務める。

◇福島智(ふくしま・さとし)
昭和37年兵庫県生まれ。3歳で右目を、9歳で左目を失明。18歳で失聴し、全盲ろうとなる。58年東京都立大学(現・首都大学東京)に合格し、盲ろう者として初の大学進学。金沢大学助教授などを経て、平成20年より東京大学教授。盲ろう者として常勤の大学教員になったのは世界初。社会福祉法人全国盲ろう者協会理事、世界盲ろう者連盟アジア地域代表などを務める。

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