「星は国籍を超えて同じ姿を見せてくれる」 理論物理学者・佐治晴夫博士の心を育てた教え

宇宙研究の第一人者である佐治晴夫さんは、長年の研究を通して、宇宙の摂理は人間の生き方にも応用できることを発見されました。人類の平和を願いつつ研究に打ち込んできた佐治さんの原点は、世界の先端を行く学者たちの〝言葉〟だったといいます。宇宙に魅せられた男たちの言葉に、果てしないロマンを感じずにはいられません。

◎【残り僅か!3/31まで】お申込みくださった方に『渋沢栄一 一日一言』プレゼント!新生活応援CP実施中。この春、新たなステージに挑戦するあなたの「人間力」を磨き高めるために、人間学を学ぶ月刊誌『致知』をぜひご活用ください。

たった3分で手続き完了、1年12冊の『致知』ご購読・詳細はこちら

憧れの彗星探索家・本田実先生のひと言

〈佐治〉
私が宇宙に関心を抱くようになったのは、小学校(当時は国民学校)2年生の頃に遡ります。日本は戦争の只中でしたが、担任の先生が児童を集めて、当時、東京の有楽町にあった東日天文館に連れて行ってくださったのです。

そこには日本に2台しかないプラネタリウムの一台があり、星の知識は戦争の役に立つというので、上映が続けられていました。

シューマンの夢幻的な名曲『トロイメライ』が静かに流れる中、徐々に日が暮れるとそこは満天の星空。その神秘的な光景に惹き込まれていったことをいまでもよく覚えています。

お彼岸になると、家族で多磨墓地にある佐治家の墓参りに行っていましたが、近くに東京天文台(現・国立天文台)があり、その構内でお弁当を開くのが常でした。ドーム型の施設には大型の望遠鏡が収納されていて、父や兄が

「あの望遠鏡で遠い宇宙を研究しているんだよ」

と説明をしてくれる度に、宇宙の遥か彼方に夢を馳せましたが、幼い頃のそういういくつかの体験が私の宇宙への目覚めを促してくれたように思います。

終戦後、宇宙への関心は一層高まりました。

世界的な彗星探索家・本田実先生に憧れた私は、ある時先生に手紙を書きました。驚いたことに、先生はどこの誰とも分からない子供の手紙に丁寧なお返事をくださり、その時の感動は私の人生に大きな影響を与えました。

大学や学校などで講義や授業をする立場になってからは、どんな聴講者も大切にしよう、子供たちから届く質問にも必ず返事をしようと心掛けるようになったのも、その感動がきっかけになっています。

その後しばらくした頃、私はどうしても本田先生にお会いしたいという衝動に駆られ、単身、岡山県倉敷市のご自宅天文台を訪問したことがあります。「星を見るのが、どうしてそんなにお好きなのですか」という私の質問に先生はこうお答えになりました。

「まぁ、考えてごらん。星というのは富める人にも貧しい人にも、国籍を超えて同じ姿を見せてくれるでしょう」

子供心にも胸に刺さるひと言でした。

後で知ったのですが、本田先生は岡山県の長島愛生園というハンセン病患者の療養施設に天文台をつくられています。一度、この施設に入ったら生涯、肉親とも会えないであろう人たちに、分け隔てなく姿を見せてくれる星空の神秘を体験してもらうことで、生きる力の源になればと願っておられたのかもしれません。

そんな思いを言葉だけでなく行動で伝えられたのが本田先生だったのです。

逆境に研究の幸せを見出したビレンキン博士

さらに、先生は太平洋戦争のさなか、ニューギニアの激戦地最前線にも彗星探索用の単眼鏡を持参されていて、彗星を発見されています。命の危険に晒される戦場でも彗星の探索をやめなかった理由をお聞きしたところ、

「私が彗星を見つけたら、そのことが新聞でも報道されるでしょうから、自分の無事を両親に伝えられますからね」

と微笑みを浮かべて答えられました。忘れ難いひと言です。

本田先生の他にも後年、「無からの宇宙創生」という有名な論文を書いたウクライナ生まれの物理学者、アレキサンダー・ビレンキン博士とのご縁も忘れられません。

ビレンキン博士はモスクワ大学をトップで卒業しながら、社会主義とは思想的に相容れず、若い頃、やっと得られたアルバイト先がモスクワ郊外にある動物園の夜警の仕事だったそうです。驚いて「大変でしたね」と言う私のひと言に、ビレンキン博士からは意外な答えが返ってきました。

「いや、僕にはとても幸せな時間でした。夜の動物園には秘密警察は来ません。そして、空を見上げれば、全宇宙にある半分の星が見えるし、ニュートンやガリレオ、アインシュタインが見たであろう同じ星を見ていると思った時、元気が出ましたね」

厳しい逆境に遭っても、宇宙への夢を馳せ続けたビレンキン博士の姿に、学者としての毅然とした信念とロマンを感じた一瞬でした。

このように幼少の頃から出会ってきた多くの人や研究者たちとの交流が、研究者としての現在の私の生き方やものの考え方の基礎を形づくっていったことは間違いありません。
 ・
 ・
 ・


(本記事は月刊『致知』2021年10月号 特集「天に星 地に花 人に愛」より一部を抜粋・編集したものです)

◉佐治博士が回想される原体験は、宇宙にさほど詳しくない人にもその魅力を説いて余りあります。
『致知』2021年10月号では、たゆまぬ研究を通して見えてきた、宇宙の摂理と人間の生き方の驚くべき関係について、分かりやすく語っていただきました。
ぜひ記事を通して、その奥深い世界に触れてください。

▼全文は〈致知電子版〉で閲覧いただけます▼

◇佐治晴夫(さじ・はるお)
昭和10年東京生まれ。理学博士(理論物理学)。松下電器東京研究所、東京大学物性研究所、玉川大学教授、県立宮城大学教授、鈴鹿短期大学学長を歴任。現在同大学名誉学長、大阪音楽大学客員教授、JAXA宇宙連詩編纂委員会委員長。無からの宇宙創生に関わる〝ゆらぎ〟の理論研究で知られる一方、宇宙研究の成果を平和教育の一環と位置づけるリベラルアーツ教育の実践を全国的に展開している。著書は『14歳のための宇宙授業』(春秋社)『詩人のための宇宙授業』(JULA出版局)など80冊を超える。日本文藝家協会所属。

人間力・仕事力を高める記事をメルマガで受け取る

その他のメルマガご案内はこちら

『致知』には毎号、あなたの人間力を高める記事が掲載されています。
まだお読みでない方は、こちらからお申し込みください。

※お気軽に1年購読 10,500円(1冊あたり875円/税・送料込み)
※おトクな3年購読 28,500円(1冊あたり792円/税・送料込み)

人間学の月刊誌 致知とは

閉じる