一度は仏道を拒んだ和尚の話を、YouTubeで44万人が心待ちにする理由

 

YouTubeで44万人を超える方々がチャンネル登録をする人気YouTube人生相談「大愚和尚の一問一答」。一人一人の人生に寄り添い続け、「心が軽くなった」「生きるのがラクになった」と多くの方が心の灯とされています。僧侶、事業家、作家・講演家、セラピスト、空手家と5つの顔を持つ、大愚和尚に現在の活動に至った原点をお伺いしました。

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ある母娘との出会い

<大愚>
福厳寺の住職に就任する1年前、2014年のことです。
関東からある母娘が私のところに相談に来られました。

お母様から事情を聞くと、娘さんは恋人にひどい振られ方をし、受験にも失敗。拒食症、過食症を繰り返し、何度も自殺未遂を図るまで心身共に追い込まれた状態でした。

私のアドバイスなど聞く耳を持たず、「アンタに何が分かるのよ」と突然かばんの中からカッターナイフを取り出し、自分の手首を切ったのです。

私はその瞬間、反射的にバチンと彼女を張り倒しました。

腕をつかみ、傷口を確認。

幸い軽傷だったものの、彼女の手首に無数の蚯蚓腫みみずばれがあるのを発見し、こう伝えました。

「これを見なさい。あなたが死にたいと思って何度もつけた傷でも、体は生きたいと思って修復し続けているんだよ」

彼女はこの言葉から何かを感じ取ってくれたようで、ひとしきり泣いた後、母と共に寺を後にしたのでした。

YouTubeでの活動に込めた想い

<大愚>
この親子のように、誰にも言えない悩みを抱え、救いを求めている人がいる……私はそう実感し、若い頃、悩み苦しむ日々の中で出会った一人の言葉に希望を見出し、救われたことを思い出しました。

これまでの体験を織り交ぜながらお釈迦しゃか様の話を届けることが、誰かの命を救うことに繋がるかもしれない─―。

そう考え、匿名とくめいでも相談しやすいようにと、当時普及し始めていたYouTubeを使って「大愚和尚の一問一答」の配信を始めたのです。

仏教や僧侶の価値を社会に問うために、あえて広告宣伝をせずに始めた試みでしたが、冒頭のように多くの方々に視聴されるようになりました。

YouTubeの広告収入はすべて番組制作資金や次の活動資金にしていますが、「売名行為だ」「お金もうけだ」と中傷されることもあります。

私はそれでも構わないと思っています。

仏教の基本的な姿勢は人を縛りもせず押しつけもしない、簡単に言えば「どうぞ自由に見てください」という姿勢です。

番組を見るも見ないも、批判するのもすべて自由だと考えているからです。

番組を見た視聴者からよく「心が楽になった、救われた」とメッセージをいただきますが、それは決して私の力ではありません。

私の話を聞いて何かに気づき、自らの心をやして苦しみを乗り越えたその方自身の力です。

2年ほど前、YouTubeを始めるきっかけとなった親子から連絡があり、娘さんはその後、福祉関係の仕事に就き、いまでは2児の母として立派に成長されたと大変喜ばしい知らせを聞きました。

人は誰しも自分自身で心を成長させる力を持っています。

これからも人知れず悩み苦しむ人たちの心のり所となれるよう活動を続けていく所存です。


◇大愚元勝(たいぐ・げんしょう)=福厳寺住職

(本記事は月刊『致知』2022年4月号 特集「山上山また山」連載「致知随想」より一部を抜粋・編集したものです)

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