2022年03月21日
世界情勢が混迷を極めています。様々な報道が飛び交う中、真実がどこにあるのか、自分たちはどう行動すればいいかが分かりにくくなっています。日々変転する国際情勢に向き合うための普遍的なヒントは何か。京都大学名誉教授・中西輝政先生の見識に学びます。
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現実を直視し、長期的な視点を持つ
〈中西〉
いま日本を含めて世界の時流はかつてない速さで動いています。同時に、大きな変革期とも言える歴史の曲がり角に差し掛かってきています。そういう意味で、次から次へと起こる目先足下の出来事、現実を直視すると共に、長期的な視点を持つことが非常に大切な時期に来ているのです。
『論語』に「学びて思わざれば則(すなわ)ち罔(くら)し。思いて学ばざれば則ち殆(あやう)し」とある通り、大きな視野で長期的なことに思いを巡らす半面、謙虚に世の中の道理、原理原則を学びつつ、目の前のことにも堅実に対処する。収穫の秋を稔りある季節にできるか否かは、この両方をバランスよく行うことにかかっていると言ってよいでしょう。
現実を直視するというのは意外と難しいものです。そこでは特に大事な心得が2点あると思います。
1つは「人と同じ見方をしない」。皆がこう言っているからというだけで、ある見方を固定的に思い込んでしまう。これは最も忌避すべきことです。「実事求是」という言葉をご存じでしょうか。漢代から伝わる中国の四字熟語で、事実を見極めて物事の道理を求めていくという意味です。人の意見を鵜呑みにして、本質的な点を見落としてしまうようではいけません。
2つ目は、「自分にとって都合の悪い嫌な事実こそ大切」だということです。古代ローマ皇帝のジュリアス・シーザーは「人間は自分の見たいものしか見ない」と言っています。見たいものだけを見ていては、いつしか大失敗に繋がりかねません。自分にとって都合の悪い嫌な事実を受け入れるには、感情を抑制する理性を働かせることが肝要です。
一方、長期的な視点を持つために大事だと思うのは、一つは「世の中の時流には必ず周期があると知っておく」こと。国家や組織にせよ主義や思想にせよ、どんなに滔々たる勢いで発展しているとしてもいつかは衰退し、別の流れに取って代わられていく。こういう見方を持っておくと、比較的遠くまで物事を捉えることができるでしょう。
もう一つは、「未来から現在を見る」。いまを起点として将来を展望するのではなく、むしろいま立っている時点を飛び越えて、あるいはあえて脇に置いて、未来から現在へと視点を戻しつつ投射する。これを「ビジョン」と言います。
これは未来予測をする上で大切な視点ですが、日本人には苦手な業かもしれません。ですから私は、それについて多くの示唆を与えてくれる北宋の文人・王安石やオーストリア生まれでユダヤ系の経営学者ピーター・ドラッカーらの知恵に努めて学ぶようにしています。
このように、ひと口に「現実を直視する」「長期的な視点を持つ」と言っても、具体的な方法として心得なければならないことが多く、非常に奥が深いのです。
(本記事は月刊『致知』2019年10月号 連載「時流を読む」より一部を抜粋・編集したものです)
◉連載「時流を読む」は、世界情勢から政局の動きまでを中西輝政氏が切れ味鋭く“先読み”する全6ページのリポートです。最新の情報を交え、日本そして日本人が進むべき道を示していただきます。〈2022年現在、隔月掲載中〉 ◎各界一流プロフェッショナルの体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。人間力を高め、学び続ける習慣をお届けします。
◇中西輝政(なかにし・てるまさ)
昭和22年大阪府生まれ。京都大学法学部卒業。英国ケンブリッジ大学歴史学部大学院修了。京都大学助手、三重大学助教授、米国スタンフォード大学客員研究員、静岡県立大学教授を経て、京都大学大学院教授。平成24年退官。専攻は国際政治学、国際関係史、文明史。著書に『国民の覚悟』『賢国への道』(共に致知出版社)『国民の文明史』(PHP文庫)など。近著に『日本人として知っておきたい世界史の教訓』(育鵬社)がある。