名著『代表的日本人』5人の中で唯一、自分の使命を探し続けた男・日蓮

日本が近代化への道を歩み始めて間もない頃、内村鑑三によって著された『代表的日本人』。5人の偉人を通して世界に日本人の本質を伝え、国内外で高い評価を得てきた名著です。同書を愛読してきたJFEホールディングス名誉顧問・數土文夫さんと、グロービス経営大学院学長の堀 義人さんは、5人の中で特異な人物として日蓮を挙げています。平安末期から鎌倉時代にかけて成立した日蓮宗の祖として知られる日蓮。そのどこが、お二人を惹きつけるのでしょうか。〔写真左が數土さん、右が堀さん〕

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逆境に遭遇しても悲壮感を感じさせない

〈堀〉
私は5人を自分なりにカテゴライズしてみたのですが、西郷隆盛はいわば革命思想家なんですね。上杉鷹山は再生型経営者、二宮尊徳はカリスマコンサルタント、中江藤樹は徳の高い教師、日蓮上人はゼロから一つの世界をつくりあげていったという意味で起業家といえると思います。

このうち日蓮上人を除く4人は、その時代、その場所において自らの使命を自覚し、それを成し遂げていく生き方をしました。自分が最初からそうなりたいと思ったわけではなく、いろいろな出会いの中で自らの天命を悟っていった。唯一、日蓮上人だけが自分の生き方を探し求めるんです。

〈數土〉
確かにそうですね。

〈堀〉
生き方を探し求めるものの、何をしていいか分からずに悩み続ける。それで比叡山などで修行を続けるわけですが、それでも答えは見つけられない。そういう時に『法華経』に出合い、『法華経』を軸にした新しい宗派をつくって、人々を目覚めさせようと決意する。マルチン・ルターがドイツで行った宗教改革と同じことを日本で行った人物が日蓮上人だと私は思っています。

日蓮上人はこうして新しい宗派を広めることに使命を見出したわけですが、その後の流れが凄まじいんです。人々から嘲(あざけ)り、罵(ののし)られながらも布教活動を推し進め、勢力の拡大を恐れた鎌倉幕府から死刑を宣告されたり、佐渡に島流しに遭ったりする。気がつくと、日蓮上人というたった一人の人間が幕府を恐れさせ、震撼させる存在にまでなってしまっていたんです。

(写真:日蓮宗総本山 身延山久遠寺)

内村鑑三は『代表的日本人』の中で、

「日本の仏僧で、ひとつの経典と仏法のために命を賭して立ち上がったのは、わたしたちの知る限り蓮長(日蓮)ただひとりであり、その後に続く例はひとつとしてありません」

と書いていますが、日蓮上人の不屈の信念と勇気、また大変な迫害の中で人々から尊敬の念を集めた感化力は、「死中活あり」という生き方そのものだと思います。

〈數土〉
そういう日蓮上人の命懸けの信仰に対する姿勢に、キリスト者である内村鑑三も大いに感じ入るものがあったのでしょうね。

〈堀〉
私がこの5人の生き方を通して思うのは、いろいろな逆境に直面しながらも、そこにはすごい悲壮感があったかというと、実は全くなかったのではないかということです。

試練を楽しむとはいかないまでも、自分がやっていることが正しいと確認しながら、使命に向かって黙々と歩いていく。その時、多くの共感する仲間を得、結果的に自分も成長できたことに喜びすら感じていたのではないでしょうか。

私たちグロービスも、試練を挑戦のチャンスとして受け止め、それを乗り越えた後にまた新たな挑戦をしてリーダーとして大きく成長していくという教育のサイクルをとても大切にしています。その手本となるのがこの5人の生き方なんです。

〈數土〉
いやぁ、示唆に富んだお話をありがとうございました。僕もこれまで人生にはチャンスがあるだけだと思って生きてきました。堀さんのお話のように、捉え方によっては逆境もすべてが成長のチャンスなわけですから。

さらに言えば、チャンスには偶然にやってくるものと自分からつくっていくものの二つがある。それを掴むには楽しむ心がなくては駄目だ、悲壮感でやってはいけないというのが僕の信念ですね。


(本記事は月刊『致知』2021年12月号 特集「死中活あり」より一部を抜粋・編集したものです)

西郷隆盛、上杉鷹山、二宮尊徳、中江藤樹、日蓮上人。彼ら「代表的日本人」5人の生き方について、経営体験を踏まえて縦横に語り合っていただきました。全文は「致知電子版」でもご覧いただけます。

◇日蓮上人
貞応元(1222)年~弘安5(1282)年

◇數土文夫(すど・ふみお)
昭和16年富山県生まれ。39年北海道大学工学部冶金工学科を卒業後、川崎製鉄に入社。常務、副社長などを経て、平成13年社長に就任。15年経営統合後の鉄鋼事業会社JFEスチールの初代社長となる。17年JFEホールディングス社長に就任。22年相談役。経済同友会副代表幹事や日本放送協会経営委員会委員長、東京電力会長などを歴任し、令和元年5月旭日大綬章受章、同年6月より現職。

◇堀義人(ほり・よしと)
昭和37年生まれ、茨城県出身。61年京都大学工学部卒業後、住友商事入社。平成3年ハーバード大学経営大学院修士課程修了。4年グロービス設立。8年グロービス・キャピタル(現グロービス・キャピタル・パートナーズ)設立。18年グロービス経営大学院設立、学長に就任。G1/KIBOW代表理事、水戸ど真ん中再生プロジェクト座長、茨城ロボッツ/茨城放送の取締役オーナー。著書に『日本を動かす「100の行動」』(PHP研究所)『吾人の任務』(東洋経済新報社)など。

『致知』2022年6月号では「伝承する」をテーマに、各界プロの体験談を掘り下げました。
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