伝説の零戦パイロット・坂井三郎の 「死中に活を見出す」精神力

『大空のサムライ』の著者として世界的に知られる零戦のエースパイロット・坂井三郎さん。絶体絶命の危機から幾度も生還を果たした坂井さんは、死地の只中でいかに活路を見出してきたのか──。幼少期より「サムライの娘と心得よ」との教えを受けて育った愛娘の坂井スマート道子さんに、お話を伺いました。※記事の内容は掲載当時のものです

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死地から生還した驚異の意志

「大空のサムライ」と呼ばれた父・坂井三郎は、第二次世界大戦中に日本帝国海軍の戦闘機隊で、特に零戦の搭乗員として多くの空戦に臨みました。

戦後自らの軍務日誌を整理した『坂井三郎空戦記録』や、同書をもとに出版されミリオンセラーとなった『大空のサムライ』、英語版『SAMURAI!』などの父の著書を手に取られたことのある方もいらっしゃるかもしれません。

既に、亡くなって13年が経ちますが、娘の私の中には、父の懐かしい面影とともに、生死を分けた戦いによって培われたであろう、父独特の人生訓がいまも鮮やかに生きており、私を支え続けてくれています。

父は大正5年、佐賀鍋島藩家中の血筋に生まれました。貧しい農家の子として少年時代を過ごしながらも、士族の心構えを祖母から厳しく叩き込まれたそうです。

昭和8年、16歳で日本帝国海軍に志願入隊し、12年から航空部隊に所属。中国大陸や南太平洋方面で軍務に就きました。

昭和17年、ガダルカナルで出撃中、頭部に被弾しながらも奇跡の生還を果たした後は前線を退き、内地での療養を兼ねて後輩パイロットの指導育成や各種の実験飛行に携わっていましたが、昭和19年6月、小笠原諸島硫黄島での日米攻防戦で前線に復帰。その後、終戦を迎えました。

昭和17年8月7日、ガダルカナル上空で被弾してからの生還の様は、父の卓越した飛行技術と精神力を示して余りあると信じます。

その日、父は笹井醇一中尉率いる零戦隊の一員として中攻隊の擁護にあたった後、アメリカ海軍の新鋭機グラマンF4Fワイルドキャットと対戦し、1機を撃墜。

その直後、笹井中隊に戻ろうとしたところで、父は敵戦闘機の別の8機編隊を発見し、単機で急接近しました。ところが敵編隊に肉薄し、一撃を仕掛けようとした瞬間、

「しまったあ!」

父はそれが戦闘機編隊ではなく、後方にも強力な機銃を備えた爆撃機SBDドーントレスの編隊であることに気づいたのです。敵機は既に数千メートルも先から父の零戦を発見し、全機が後部砲塔機銃各2挺、合計16挺の銃口を、ぴたりと父の零戦1機に向け待ち構えていたのです。

もはや敵からの機銃射撃を回避できる段階ではない。咄嗟にそう判断した父は、空戦の最悪の結果である自機だけの敗北を避けるため、敵との相打ちを覚悟しました。

目をつぶる思いで編隊に突っ込みながら放った機銃弾で、敵機2機がいっぺんに炎上したように見えた瞬間、父も敵機からの集中砲火を浴びました。

コックピットは破裂し、風防は飛び、父は頭部に被弾。物凄い風圧で後頭部を激しく座席にぶつけ、機は墜ちていきました。意識を失った脳裏に、父は佐賀の母親の叱咤の声を聞き、我に返って機体を水平に戻すことに成功しました。

しかし、頭部への被弾で左半身は麻痺状態になり、右眼にも多数の細かい金属片が突き刺さって視界が利かなくなっています。頭のてっぺんの傷は指がズルッと入ってしまう裂傷で、指先に柔らかく脳みそを感じるほどです。

しかし傷の痛みでかえって意識がハッキリし、自機がなおも順調に飛んでいることに気づきました。

なんとか愛機を無事味方基地に着陸させようと決意した父は、マフラーで止血し、薄れる意識を懸命に奮い立たせ、被弾から4時間47分、560浬(かいり)の飛行を全うし、ラバウル基地に生還したのでした。


(本記事は月刊『致知』2013年12月号 特集「活路を見出す」より一部抜粋したものです)

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◇坂井スマート道子(さかい・スマート・みちこ)
東京都生まれ。米国テキサス州トリニティー大学芸術学部卒業。留学中に知り合ったアメリカ人、テレンス・スマート氏と結婚し、1987年再度渡米。アメリカ国内での坂井三郎氏の講演に通訳として多数同行。現在、米国ハワイ州在住。著書に『父、坂井三郎』(産経新聞出版)がある。

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