日本人初の宇宙飛行士・秋山豊寛が語った、恐怖の中で自分を支えた言葉

本日12/2は「日本人宇宙飛行記念日」。1990年12月2日にTBS記者の秋山豊寛さんを乗せたソ連のソユーズTM11号が打ち上げられ、日本人初の宇宙飛行に成功したことに由来します。『致知』2011年2月号では秋山豊寛さんにご登場いただき、人類史上稀なる経験を通して得た多くの知見や人間力的学びについて、遺伝子工学の世界的権威である故・村上和雄さんに迫っていただきました。※記事の内容や肩書は掲載当時のものです

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宇宙飛行士に求められる資質

〈村上〉
宇宙へ行かれたのはTBSの企画としてでしたね。

〈秋山〉
はい。飛行までの14か月間訓練を受けましたが、最初の3か月はロシア語学習の特訓です。行く前はロシア人にも英語は通じるだろうと思っていましたが、ああいう大国は違いますね。外国語を知らなくても自国の技術で宇宙に人が送れてしまう。

国として力があるとは、こういうことなんだな、と。要するに外国語を学ばないと研究が進まないようでは、国として力がないということです。

〈村上〉
TBSからはお一人でロシアに行かれたんですか。

〈秋山〉
私と、同じくTBSの社員だった菊地涼子さんの2人のうちどちらかが行くことになっていて、ともに訓練を受けていました。まあ、最終的には私が行くだろうと思っていたんですけど(笑)。

〈村上〉
自信があった?

〈秋山〉
優秀な人でしたが、若かったですからね。宇宙飛行士に求められる資質にはいくつかあると思いますが、一番重要なのは忍耐力です。それから、臨機応変力というのかな。

僕らがやっていた訓練の9割は緊急事態への対応なんですよ。宇宙船の空気が漏れはじめた時はどう対応するか、とか。

こちらは特派員として乗っけてもらうだけだと思っていたら、もう本格的な訓練でね、話が違うだろって(笑)。おかげでソビエト第3級宇宙飛行士の資格をもらいました。

〈村上〉
宇宙飛行士になるには忍耐力とか有事に臨機応変に対処する力、言ってみれば総合的な人間力が必要なんですね。

〈秋山〉
そういうことです。だから、人生経験が豊富な人間のほうが適役だと思います。

「後は野となれマウンテン」

〈村上〉
秋山さんが宇宙に行かれる少し前、アメリカのチャレンジャー号が打ち上げからすぐに爆破して、乗組員7名が犠牲になりましたね。ご自身は恐怖や不安はありませんでしたか。

〈秋山〉
人間はいつ死と出合うか分かりませんからね。信用はしていましたけれど、万一、チャレンジャー号のような事故が起こったら自分は打ち上げの日に死ぬことになるな、と。あの時初めて死というものと真剣に向き合ったと思います。

打ち上げの2週間前にバイコヌール基地に行って、これから俺の前にある十数日間は一体なんだろう、と考えてみたりしました。

〈村上〉
哲学的になったんだ。

〈秋山〉
そうですね。ただ、恐怖はなかったです。割と合理的な発想をする人間なので、自分の積算の中で誤差が出てくるならば出ないように努力して、自分以外のところで誤差が出るならば、後は「野となれマウンテン」だと(笑)。

大体、マスコミの世界がそうなんですよ。偶然に任せていたのでは中継なんて絶対に成功しないですからね。あらゆるミスの可能性を計算した上で、この線でやると決めるわけです。それ以外のことが起きたら、運が悪かったね、と。

取材なんかもそうです。毎日朝回りして、夜回りしていても何も掴めないけれど、たまたま代わりに行った奴が特ダネを掴んだりすることもある。

学者の世界などは一人の人間の研究の積み上げが大きいと思いますが、マスコミの世界はチームで動いているうちに、運のいい奴が当たるという要素が強い。

〈村上〉
学者の世界もたまたまの要素はありますよ。私にも、99パーセントもうダメだという時、偶然酒場で出会った人と意気投合して、それがきっかけで一気に局面が打開したという経験があります。

そういうのをナイトサイエンスというんです。一所懸命努力して理論を積み上げていくのが昼の科学というのに対して、運とかたまたまの世界を夜の科学、と。

〈秋山〉
でも、それは頭の中でずっと積み上げてきて、何かの拍子で渦がガーッと回転し始めたということなんだと思います。そういう人は酒場に行かなくても、翌朝トイレに行って転んでも、同じことを閃くんじゃないかなと(笑)。


(本記事は月刊『致知』2011年2月号 連載「生命のメッセージ」より一部を抜粋したものです)

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◇秋山豊寛(あきやま・とよひろ)
昭和17年東京都生まれ。41年国際基督教大学卒業後、東京放送(TBS)入社。平成元年宇宙特派員となり、2年12月にジャーナリストとして世界で初めて宇宙を飛んだ。7年依願退職後、福島県で農業を営む。著書に『宇宙と大地』(岩波書店)『鍬と宇宙船』(ランダムハウス講談社)など多数。

◇村上和雄(むらかみ・かずお)
昭和11年奈良県生まれ。38年京都大学大学院博士課程修了。53年筑波大学教授。平成8年日本学士院賞受賞。11年より現職。23年瑞宝中綬章受章。著書にスイッチ・オンの生き方』『人を幸せにする魂と遺伝子の法則』『君のやる気スイッチをONにする遺伝子の話』『〈DVD〉スイッチ・オンの生き方』『〈CD〉遺伝子オンの生き方(いずれも致知出版社)など多数。令和3年4月逝去。

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