2021年11月14日
国内外に1,500店舗を構え、コロナ禍という苦境の中でも業績を伸ばし続けているカジュアルイタリアンレストラン「サイゼリヤ」。その創業者である正垣泰彦さんが、いまから26年前の『致知』1995年1月号にて語ったのは、サイゼリヤ独自のリーズナブルな価格を実現させた様々な工夫でした。社員の生産性を向上させる体系やコンピューターを活用した業務の効率化など、時代に先駆けた画期的な経営戦略の数々から、いかなる危機をも乗り越えてきた不易流行の精神を学びます。※記事の内容や肩書はインタビュー当時のものです
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徹底して仕事の無駄を省き、効率を上げていく
──低価格を実現するには、どのような工夫をしておられるのですか。
〈正垣〉
これはいまでは当たり前になっていますが、当社では早くから、仕入れコストを低く抑えるためにワイン、チーズ、パスタなどの食材の輸入は、輸入業者を通さずに、すべて自社で輸入してきました。これについては、今後200店、300店と増えていけば、スケールメリットが出てきて、もっともっと安く仕入れることができるようになるはずです。
また、低価格を実現するためには、さらに人件費をいかに抑えるかということが重要になってきます。それには一人あたりの生産性を高めればよいわけです。
──具体的には、どのようにして生産性を高めていらっしゃるのですか。
〈正垣〉
人間というものは、目標を持つことによって燃えます。そこで、一人ひとりに目標を設定させ、その目標の達成度によって、給料を支払うという給与体系をつくりました。だから、当社では、毎月給料が違うんですよ。
具体的には、社員一人ひとりが、何をやるのかという「職務」をきめ細かく定め、その達成度に応じて賃金を連動させていく。その結果、当社の社員一人の1時間あたりの生産性は5000円になり、これは他の大手ファミリーレストランの3500円を大きく上回っています。
──つまり人件費と仕入れコストを抑えることによって低価格を実現されたということですか。
〈正垣〉
ええ。しかし、それだけでは、これだけの低価格は実現しません。そのほかに、徹底して仕事の無駄を省き、仕事の効率を上げていくことが必要になってきます。
その効率化の1つとして、当社では積極的にコンピューターを活用しています。事業全体をコンピューターで統括することによって、相当効率化が図られています。
例えば、本部には私以外に、2人の社員しかいませんが、これで十分本部の機能を果たすことができ、日常業務も支障を来すことはありません。
──本部にたった3人しかいないというのは驚きました。
〈正垣〉
実際に、コンピューターを導入すれば、これだけの人数で十分なんです。そして、そのコンピューターを活用するためには、料理に関するあらゆる情報を数値化する必要があるんですね。
なぜなら、数字に置き換えることによって初めて、情報をコンピューターにインプットすることができるからです。
当社では数値化した情報を管理するために、例えば1分ごとの労働時間管理、さらには割れたお皿の枚数までも把握できるコンピューターシステムを自分たちでつくりました。そして、本部と各店をオンラインで結び、これらのデータを日々やりとりしているのです。
数字に置き換える
──でも、すべてを数字に置き換えられるとは限らないと思いますが。
〈正垣〉
私自身が大学で、物理学を勉強したものだから、どうしてもこのような数字というものにこだわってしまうのでしょうね。
でも、これからのフードビジネスは、とくにこのような理系的発想が重要になってくるんじゃないかと思うんです。なぜなら、どうしたらお客さまに喜んでいただけるかということを話し合うにしても、
「お客さまに感謝の気持ちを込めて」
といった精神論とか、抽象的な概念を持ち出してきても、どうもピンときません。
それよりは、お客さまからの苦情件数を一日50件から25件に減らすといったような、より具体的な数字に置き換えていく。そうすればより現実的な話し合いができるのではないでしょうか。
いままでのフードビジネスは、やはり職人さんの世界ですからね。うまいものというものはこういうものだ、お客さんへのサービスとはこういうものだと、長年の経験と勘でものをいっていました。
小さな食堂をやっていくのであれば、それでもいいのかもしれません。しかし、チェーン化して大きなビジネスにしていこうというのであれば、しっかりと数字に置き換えて把握していかなければ、ビジネスは成り立ちません。
理系的発想が肝要
──それにはやはり数字が理解できる人材を育成していくことが大切ですね。
〈正垣〉
私どもは、来春、大卒を250名採用しますが、そのなかで理科系の人が3割程度います。理科系ばかりでも駄目なんですけど、全体の3割程度理科系の人がいると、ものすごく物事が合理的に進むんですね。
業務の無駄を省き、効率的に運営していくためには、どうしても理系的な物の考え方ができる人材が必要不可欠です。理系的な物の考え方ができる人材とは、会社内のあらゆる現象を数字に置き換えて、考えられる人のことです。
当社では、社員教育の中でも、この「数字の教育」にとくに力を入れています。
──このフードビジネス業界で、理系の人というのは珍しいのではないですか。
〈正垣〉
珍しいというよりも、まず来ないですね。もっとも当社は、私がいろんなところでやたらと科学的にとか物理的にというものだから、それに引かれて当社に入ってくるんでしょうが、この理系集団は当社にとって大きな財産ですね。
これからは、いかに無駄を少なくするかということで、勝敗が決まる時代になってきます。そうなると理科系集団でないと勝てない。売り上げが下がっても利益が出るような会社でないとこれからは生き残っていけません。
現在は社長業に徹していますが、実は私自身、3年前まで実際にコックをしていました。そのような現場の経験があるからこそ、実際にお店に足を運ばなくても、本部に上がってきた数字を見れば、この店はこのような状態だな、ということがわかるんです。
──やはり現場の経験がものをいっているのですね。
〈正垣〉
その通りです。だから、大卒の人にもどんどん現場に出て行ってもらいます。まずは、科学的な発想のできる人が、いかにコック作業ができるかにかかっていると思います。
(本記事は月刊『致知』1995年1月号 特集「懸命不動」より一部を抜粋したものです)
◉月刊『致知』2021年12月号の特集テーマは「死中活(しちゅう かつ)あり」。正垣泰彦さんに再びご登場いただき、サイゼリヤと共に生きてきた半世紀を振り返りつつ、その原点にある母親の教え、体験を通して掴んだ成功の法則、リーダーの心得などについて語っていただいています。困難を乗り越えるリーダーのあり方とはいかなるものか、学ぶべき教えが満載です。記事詳細はこちら
◇正垣泰彦(しょうがき・やすひこ)
昭和21年兵庫県生まれ。42年東京理科大学4年次に、レストラン「サイゼリヤ」を千葉県市川市に開業。43年同大学卒業後、イタリア料理店として再オープン。48年マリアーヌ商会(現・サイゼリヤ)を設立、社長就任。平成12年東証一部上場を果たす。21年より現職。27年グループ年間来客数2億人を突破。令和元年7月国内外1500店舗を達成。同年11月旭日中綬章受章。著書に『サイゼリヤおいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ』(日経ビジネス人文庫)。