紙屑はその国の文化の象徴。伝説の教育者・森信三師に学んだ「実践」する生き方

教育活動に生涯を捧げ尽くし、「国民教育の師父」と謳われた森信三師。人としていかにあるべきかを説いた代表的著作『修身教授録』は教育者のみならず、経営者やビジネスマンまでいまなお多くの人々に支持されています。師の高弟であり、NPO法人福岡実践人の創立者として地域の清掃活動に尽力した帆足行敏(ほあし・ゆくとし)さんに、森信三師との交流を振り返るとともに、未来を担う子供たちを指導するにあたっての心構えについて語っていただきました。
 ※記事の内容や肩書はインタビュー当時のもの

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人生を変えた森信三師との出逢い

「森信三という素晴らしい教育哲学者がいる」

そんな話を伝え聞いたのは昭和52年、私が福岡の教育委員会で指導主事を務めていた時でした。

当時は全国各地に校内暴力の嵐が吹き荒れ、教育の荒廃が深刻化していました。私の地元でも、生徒がトイレを壊したり、教室のガラスをたたき割ったりするような中学校が何校もあり、教育をいかに基本から立て直すかということが喫緊の課題になっていました。

森先生が福岡の仁愛保育園で母親を対象にお話をされると聴いた私は、早速聴講させていただくことにしました。驚いたのは、そこでは大の哲学者が、

「呼ばれたら大きな声で〝はい〟と返事をしましょう。〝はい〟という返事が人間の我を断つのです」

と、実に単純極まりないことを熱心に説かれていたことです。

「腰骨(こしぼね)を立てましょう。腰骨イコール主体で、腰骨を立てない限り真の人間にはなれません」

「しつけの三大原則というものがあります。

 一、朝のあいさつをする子に

 二、「ハイ」とはっきり返事のできる子に

 三、席を立ったら必ずイスを入れ、ハキモノを脱いだら必ずそろえる子に」

人間をつくっていく上での基本を見事に捉えたお話に、目から鱗が落ちる思いがしました。

指導者は「実践人」でなければならない

先生の教えが私の心を捉えて放さなかったのは、その内容の素晴らしさはもとより、それら一つひとつがすべて実践に裏打ちされており、ご自身の体にはまり込んでいたからだと思います。

いまでも忘れられないのは、一日の講演が終わり、中洲で夕食をご一緒した帰りに近くの那珂川を散歩していた時のことでした。辺りにたくさんの紙屑やゴミが落ちているのをご覧になり、先生はおもむろにそれらを素手で拾い始められたのです。

私たち同伴の一行もしばらく先生に従い紙屑を拾いましたが、一区切りついたところで森先生はこうおっしゃいました。

「紙屑は、その国の文化の象徴ですからね」

私には、紙屑はその街の文化の象徴と言われたようで大変恥ずかしい思いがしました。それを機に月に一度博多駅の早朝清掃を始め、もう20年継続しています。

紙屑の教えは学校にもあてはまり、乱れた学校は決まって規律が乱れ、校内も汚れています。

私自身、生徒の半数が遅刻をする学校に赴任したことがあります。問題は生徒ばかりでなく、先生方まで遅刻をするという深刻な状況でした。

私は指導めいたことは一切せず、毎朝一番に登校すると、森先生の教えに倣ってまず校長室の掃除を励行しました。そこから隣の事務室、さらには保健室と日ごとに掃除場所を拡大していくにつれ、手伝ってくださる先生が現れ、掃除の輪は全校に広がっていきました。結局、1か月も経たないうちに学校は規律を取り戻したのです。

森先生がお亡くなりになって早20年以上が経ちます。その後も私は様々な教育理論を学びましたが、いまだに森先生の右に出るものには出会いません。

教育の現場ではいまも挨拶や掃除の指導が行われていますが、それらをただ口先で言い聞かせるだけでは決して子供たちの訓導はできません。彼らの行く末を心底願って指導すること、そして何よりもそれを説く指導者が自ら実践する人であること。森先生の在りし日の姿を思い返す度に、その感を強くします。


(本記事は月刊『致知』2014年6月号 連載「致知随想」〝実践の人〟より一部を抜粋・編集したものです)

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