【読書習慣が学力、創造性を高める】 読書が脳に与える驚きの影響 土屋秀宇×川島隆太

便利な情報端末の普及なども相俟って、かねて指摘されてきた若者、日本人の読書離れが一層進んでいます。しかし、近年の脳科学の目覚ましい発達により読書の重要性が改めて注目を集め始めています。長年にわたり独自の国語教育を実践してきた土屋秀宇さんと、読書が脳に与える驚くべき効果を実証してきた川島隆太さんのお二人に、読書習慣を育むことの重要性についてお話合いいただきました。

◎各界一流の方々の珠玉の体験談を多数掲載、定期購読者数NO.1(約11万8000人)の総合月刊誌『致知』。あなたの人間力を高める、学び続ける習慣をお届けします。

たった3分で手続き完了、1年12冊の『致知』ご購読・詳細はこちら
購読動機は「③HP・WEB chichiを見て」を選択ください

本を読めば創造性も高まる

〈川島〉 

脳科学的に見ても、読書を通じて語彙を蓄えるというのはとても大事なことです。

実験で一番驚いたのが、いわゆるクリエイティビティ、何か新しいものを創り出す創造性は脳のどこから生まれてくるのかを調べたら、語彙を格納する部位と言葉を扱う部位が一番よく働いていたんです。それは言葉ではなく、イメージを膨らませて何かを生み出す時もそうなんですね。

ですから新しいものを創造する高次な活動も、すべてその人の語彙がもとになっているというのが実験を通じての僕の結論なんです。

〈土屋〉 

湯川秀樹博士の「創造性の発現には相当大量の語彙の蓄積が必要だ」との言葉に通じますね。

〈川島〉 

きょうはせっかく土屋先生にお目にかかったので、新しいデータをご紹介しますと、僕は最近、脳を鍛えることをテーマに会社をつくりましてね。そこへある企業から「ホワイトカラーの創造性を伸ばしてほしい」というご依頼をいただいたんです。言われたことしかできない社員さんを何とかしてほしいと。

そこで僕が何をしたかというと、文庫本を二冊渡しただけです。これを一か月後までに読んでおいてくださいと。

一か月後に実験すると、ちゃんと読んでくれた社員さんは、見事にクリエイティビティが上がっていました。そのまま読書が習慣になって、課題の本以外にも読んできた人はもっとその伸びが顕著でした。しかし、さぼった社員さんは横ばいのままだったんです。

ですから、本を読めばクリエイティビティが高まるというのは既に証明済みなんですよ。

〈土屋〉 

大いに納得できるお話です。ちなみに、その時はどんな本を提供されたのですか。

〈川島〉 

何でもよかったんですけど、その時は井上靖の本をお渡ししました。

クリエイティビティというのはまさに語彙力であり、文章を読み、扱うところの脳から出てくるものですから、まず読書してもらうことでクリエイティビティが高まるだろうと。その上、普段使わない語彙が使われている少し古い本を読むとよりいい。ただ、明治や大正の文語文はいまの若い人は読めないので、口語に近い作品ということで井上靖を選んだんです。

子供は本能的に言葉を欲している

〈土屋〉 

それから、これは僕がやってきた言葉の教育とも深く関係する問題ですが、最近愛着障碍の子がとても増えているんです。発達障碍と症状がよく似ているのですが、赤ちゃんにとって母子密着が最も必要で母の愛語をたっぷり貰わなければならない時に、仕事などの都合で母子分離という養育環境に置かれ、しっかりした母と子の絆がつくれないところに原因があると言われています。

しかし、そういう子でも言葉の教育をやっていくと、薄紙を剥がすように徐々に徐々によくなっていくんですよ。先ほどからの川島君のお話から察するに、これはやっぱり語彙が増えてくることが大きいのではないかと思うのですが。

〈川島〉 

実はいま、読み聞かせのプロジェクトというのをやっていまして、読み聞かせをする際の親子の脳をそれぞれ測ってみたんです。

すると驚いたことに、母親の脳は前頭葉の真ん中の相手を思いやる領域、コミュニケーションを司る領域が一番働いていたんですよ。親にとって読み聞かせというのは、文章を読むというより、子供に高次のコミュニケーションを仕掛けて反応を読み取る脳活動が活発になっていることが分かりました。

ではその時に子供の脳はどうなっているかというと、話を理解する時に働く前頭葉ではなくて、辺縁系という感情を司る部位が活発に働いていたんです。

つまり幼い子への読み聞かせというのは、親が子供に心を寄せ、子供はそれを受けて感情を揺さぶられる、そういう作業だったことが脳科学で見えてきたんです。通常の文章を聴いている時の脳活動とは明らかに違う働きが見られるんですね。

〈土屋〉 

母親による読み聞かせは、他人のそれと異なり、特別な意味があるに違いないと思っていましたので、実に興味深いお話です。


(本記事は『致知』2019年9月号「読書尚友」より一部抜粋したものです)

◇土屋秀宇(つちや・ひでお)

昭和17年千葉県生まれ。千葉大学教育学部卒業後、県内で中学校英語教師を務める。13年間にわたり小中学校の校長を歴任し、平成15年定年退職。その後、日本漢字教育振興協會理事長、漢字文化振興協会理事、國語問題協議會評議員などを務める。30年一般社団法人「母と子の美しい言葉の教育」推進協会設立。著書に『日本語「ぢ」と「じ」の謎』(光文社)など。

◇川島隆太(かわしま・りゅうた)

昭和34年千葉県生まれ。東北大学医学部卒業。同大学院医学系研究科修了(医学博士)。同大学加齢医学研究所所長。専門は脳機能イメージング学。著書に『読書がたくましい脳をつくる』(くもん出版)『やってはいけない脳の習慣』(青春新書)『スマホが学力を破壊する』(集英社)など多数。共著に『素読のすすめ』(致知出版社)などがある。

 

◉月刊『致知』2021年9月号の特集テーマは「言葉は力」!
古典、経営、スポーツ、映画、育児……様々な分野の第一人者、プロフェッショナルの皆さんに、体で味わってきた〝言葉の力〟を存分に語っていただきました!!

人間力・仕事力を高める記事をメルマガで受け取る

その他のメルマガご案内はこちら

『致知』には毎号、あなたの人間力を高める記事が掲載されています。
まだお読みでない方は、こちらからお申し込みください。

※お気軽に1年購読 10,500円(1冊あたり875円/税・送料込み)
※おトクな3年購読 28,500円(1冊あたり792円/税・送料込み)

人間学の月刊誌 致知とは

閉じる