2021年06月19日
発売から5か月で28万部を越えるベストセラーとなった『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』。本書の内容に深く感銘を受け、熱烈なご支持をいただいている〝書籍販売の匠〟3名に、本書の魅力やヒットの要因などについて熱く語り合っていただきました。
(※この座談会は、2021年5月20日に行われたものです)
『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』とは?
創刊から40年以上、1万本を超える月刊『致知』の人物インタビューと弊社書籍の中から、仕事力・人間力が身につく記事を精選。稲盛和夫氏、井村雅代氏、王貞治氏、羽生善治氏、山中伸弥氏……など、各界で活躍する人物の逸話を1日1話形式で読むことができる永久保存版。詳しい内容はこちら、また下の動画でもご紹介いただいています。
出席者
心を動かされない人はいない
――弊社から昨年11月末に出版した『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』が発売から5か月で28万部を突破しました。400ページ以上ある分厚い本で定価も高めですから、正直これまでの反響を呼ぶとは想像していなかったのですが、皆様の目にはどのように映っていますか。
極めて異例のベストセラーだと思います。僕の古巣の三省堂有楽町店はビジネス街にあって女性のお客様が非常に多いのですが、このお店でも凄まじい売れ行きです。
いろんな分析ができると思うんですが、まず『仕事の教科書』というタイトルでビジネスパーソンが手に取りやすかったということがあります。しかし、現在はそのコアな客層を超えていることは明らかですし、おそらく「人生の教科書」として手に取る方が増えているのだと思います。各界の超一流の方たちの言葉が有名無名問わず、1日1ページに凝縮されている。この密度の濃さは魅力ですし、365日のカレンダー式になっているためどこからでも読みやすい。索引や目次も工夫されています。そういう造本の良さから買っていく方も多いように思います。
いまはコロナ禍で生身の人との接点が少なくなっています。ダイレクトな人間の言葉、メッセージが求められているときに、この本が一番身近な上司となり、人生の師となっていると言えるかもしれません。同じくコロナの影響で在宅ワークが多くなり、分厚くて高価な「鈍器本(どんきぼん)」が売れていると言われています。その点では、この厚さでこの値段でも、家でじっくり読みたいという読者心理にぴったり当てはまったということもありそうです。いろいろな要素が重なって、絶妙な時期に出版されたといっていいと思います。
あと、忘れてはならないのは熱の連鎖ですね。この本を読んで心を動かされない人はいないと思うんです。この本は世代を越えて、主婦の方たちにも読まれています。僕も読んだ後にはうずうずして、「この本のことを誰かに伝えたい」と、自然に体と心が動きました。
梅田 蔦屋書店はJR大阪駅上のルクアイーレの9階にありまして、いらっしゃるお客様は20~30代の女性が多いです。私、この本の発売時期からだいぶ遅れて発注させていただいたのですが、2か月ほどで100冊以上売れました。
経験的に言うと、この厚さでこの値段ですから、20代~30代の女性にはなかなか買ってもらえるような本ではないけれど、やっぱり中身がいいですね。時代の先駆者の人たちの生きざまが1ページの中に凝縮されている。それが年齢を問わず、ぴたっとはまったと思います。
私、涙もろくて、読んでいたら半分くらいは次のページが読めなくなることもありました。登場する著名人の全員を知っているわけではないんですけれど、こんな人生を歩まれてきたんだなぁと思うと同時に、自分の仕事と重ねてしまうことがありました。
私は書店で本を案内するコンシェルジュなので、本の中身を説明していますけど、お客様にお渡しして「これ読んでください!」というほうが伝わるのかなという気もします。それほど熱量のある書籍です。書店員になる前は、スーパーマーケットに20年ほど勤務しておりました。ものを売るのは同じですが、人の心に響くのは書籍、ミュージシャン、アーティストだと思っていまして、この本はいま28万部ですけれど、稲盛和夫さんの『生き方』のように10数年かけて100万部売れるとか、松下幸之助さんの『道をひらく』のように50年以上かけて500万部以上売れるというような本になってほしいし、なるべきだと思います。20代の人が読んで、あと20年したら自分の部下や家族に引き継がれるような本であってほしいと願っています。
確かに、ここまで早く28万部まで行くのは異例ですね。やはりコロナ禍で本を読む時間が増えたことが一つの理由でしょう。それと中身があらゆる層に刺さる内容であるということ。普通だと400ページもある本は読むのに時間がかかりますし、区切れ区切れで読むと忘れてしまったりします。でも、この本は1日1話ずつ読んでもいいし、目次を見て気になったところを読んでもいい。主婦の方でも忙しい中、短い時間で読める。それがいまの人たちに突き刺さったんじゃないかなと感じました。
あとはアマゾンの売れ筋ランキングで安定して100位以内に入っているせいか、レビュー数が急激に増えたんですよ。ここまでレビューが増えるのは、この本に込めた思いが読者に響いているのかなと感じました。
書店人としての使命に燃える
――梅田 蔦屋書店さんでは稲盛和夫さんの『生き方』や松下幸之助さんの『道をひらく』と一緒に並べていただいていますね。
稲盛さんと松下さんの本は、書店員になるまで私の座右の書でした。これは経営する人たちの基本だと思っていたので、書店員になってからも売れる売れないを別にして、絶対、棚に並べないといけない本と思いました。この本を一緒に並べたのは、この本が松下さんや稲盛さんにも通じると思ったからです。平台に置いているんですけど、その前の棚に「経営哲学」の棚があって、この本の中に出てこられる方の著作を見ていただけるように繋げています。
それによって、人としてどうあるべきか、どうやって人間力を高めるかということを読者に知っていただきたいと思っています。単に仕事として与えられたものをやるのではなくて、そこから一歩先に進んだ人たちの体験談を一人でも多くの方に読んでいただきたいですね。この本はこれから長く読んでもらえるんじゃないかと思っていますから、多くの方に知ってもらいたい。
購入していただけるかどうかは別として、この本をご案内するときに「お客様、誕生日は何日ですか?」とお聞きして「その日にはこういうことが書いてありますよ」とお伝えする。そういうお客様との会話ができる本でもありますね。この本は特に気に入った本だから拡販したいし、一人でも多くの方にその素晴らしさを感じていただきたいと思っております。
丸善丸の内本店の篠田晃典店長の話がすごく頷けるんですよね。これはもうお店として、自分として、なんとしても売らないと気が済まないという思いで最初から大量に仕入れをしたと。発売から5か月間も1階の入ったところで平積みをして重点重陳されていたのですが、一時期はこの本のポスターだらけになっていました。SNSで「これ売れてるよね」と、発売して何か月かたっても話題に上ってくるというのもすごい。もはやビジネス街の書店の平積みは当たり前で、郊外のショッピングモールでも、売れている本、話題の本のコーナーに置かれていて、次のステップヘの広がりを肌で感じています。
書店関係の人の話ですと、置き場所を変えるだけで売れたとよく聞きますね。いままで奥に置いていたのを手前に持ってきたら売れ行きが変わったと。あと、社長さんから社長さんへのプレゼントという感じで買う方がおられるんですね。いま、経営者でも悩んでいる人が多いそうで、この本がもう少し頑張ろうというきっかけになったという話は何人からか聞きました。
人生を教えてくれる
――感銘を受けられたのはどのお話でしょう?
それを聞かれると困っちゃうんですよ(笑)。もう座右の書になっているものですから。僕の場合は、まず今日の日付を見て、何が書かれているかなと見ています。渡邉さんじゃないですけど、僕も涙もろくなっていて、だんだん文字がかすんじゃうようなところがあります。
経営の心得であったり、仕事の仕方だったり、そういうのもいいんですけれど、僕は親と子供の絆について触れた言葉がすごく心に刺さります。その意味では、2月5日の大畑誠也さんの「教室中の親子が涙した最後の授業」とか7月5日の小嶺忠敏監督の「麦は踏まれて強くなる」は心を惹かれました。8月3日のコロッケさんの「『あおいくま』の教え」や8月11日の是松いづみさんの「あづさからのメッセージ」なども、子供から教わることがすごくいっぱいあるなと思うとともに次の世代にも伝えていきたい話です。
どうしても一つだけ選べといわれたら、7月31日にある塩見志満子さんの「どこまで人を許せるか」を挙げます。子供さんが学校のプールの時間に事故で亡くなった、それを人のせいにするかどうかという話です。これは「許すことの哲学」にもつながるところがあって、涙なしには読めません。
先にも言ったように「仕事の教科書」としても読めるんですけれど、僕の中では「人生の教科書」です。僕は学校や図書館に行ってワークショップを開いているので中学・高校生に会う機会が多いのですが、この本の中から先生、子供、親の話をピックアップしてお話ししてみたいと思っているんです。
内容的には子供にも読めますから、いろんな人のことを知る入り口になりますし、ゴールにもなる。そういう深みのある本ですね。
学生時代、柔道をやっていたので、5月26日の山下泰裕さんの「人の痛みがわかる本当のチャンピオンになれ」という言葉に惹かれました。オリンピックで3連覇した野村忠宏選手が、金メダルを取った次の日に負けた選手の柔道着をきれいにたたんでいたという話が書いてあります。レベルは全然違いますけど、柔道をやっていた者として、自分がその立場になったとき、後輩や先輩にそういう思いやりを持つことができるかなと考えさせられました。
それからもう一つは、9月2日にある元キャピトル東急 エグゼクティブコンシェルジュの加藤健二さんの「すべて私にお任せください」です。加藤さんはお客様の名前を1万人以上覚えていると言われます。私も今コンシェルジュという肩書で働いていますけれど、お名前を知っているのは100人にも満たない程度です。だから、万のレベルでお名前を憶えられていて、その方たちがご指名でご来店するというのはすごいことだなと思いました。私は社会人を40年近くやって、今年、還暦を迎えるんですけれど、仕事に対する考え方を改めて、60歳でもまだ見習いの気持ちでやらないといけないと思いました。自分にとってはすごく糧になる話でした。
気になる話は他にもたくさんあります。とにかくいろんな人がいろんな切り口で「人生とはこういうものだ」と教えてくれる。長いこと生きていくと必ず浮き沈みや波がありますよね。そういうときに「今は辛くても前向きに明るく行けるときが必ず来るよ」と励ましてくれる。その意味では、生まれたときから死ぬまでの人生がわかるような本なのかなと感じています。毎日読んでも、そのときの気持ちで受け止め方が変わると思います。だから、カレンダー形式にしたというのはすごく意義があるんじゃないですかね。
共感が連鎖的に広がっていく
私はこれを1冊の本としてとらえてなくて、本当に365人の気持ちや想いが入った塊(かたまり)だと思っているんですよ。だから、ページを開いていても本という感じがしないんです。小説とか漫画とか他のビジネス書と比べても、読むたびに何か発見があって、かつ感動があり、考えるきっかけがあります。
感銘を受けた話を一つ挙げると、6月8日にある中村豪(たかし)監督の「やらされている百発より、やる気の一発」。イチローさんの話ですが、これは読んですごく響きました。私自身、本を広めるというのは会社に言われてやっているわけではありません。やらされてやるより自分からやるほうが楽しいし、何かその先につながるものが絶対あるというのは深く心の中に感じた内容でした。これはたぶんどんな方にも当てはまると思うので、自分のいる立ち位置や場所によって、いろいろなことを考えるきっかけになる話じゃないかと思いました。
――それぞれの立場、人生経験によって響いてくるものが違うんですね。読者も女性や主婦にまで広がっているという話ですが、これから果たしてどこまでいきそうか、専門のお立場からの予測を聞かせていただけませんか。
さっき渡邉さんもおっしゃっていたんですけど、どこまで長く売り続けるかということですよね。いま、本の寿命ってどんどん短くなっていて、単行本といえども雑誌のように次々に入れ替えられてしまう。棚は限られているけれど、出版点数は変わらないので、必然的に売りっぱなしになっている本が増えています。だから、たくさん売るということよりも、どうしたらこれを長く伝え続けられるかというところに主眼を置いたほうがいいと思っています。今は売れている本だから必然的にいろんな場所に置かれるようになって広がっているわけですけれど、今後はどうすれば読者により深く刺さっていくかを考えたほうが、売上にもつながっていくんじゃないでしょうか。
プレゼント需要がものすごくある本なので、企業や学校などに採用してもらう可能性もあると思いますし、そういうアプローチをすべきだと思います。そうすれば、おのずから50万部、100万部も見えてくるのではないかと感覚的に思っています。
内田さんがおっしゃったように、長く売るコツというのは難しい事だと思います。この本は月刊『致知』(ちち)に掲載された1万人以上のインタビューから抜粋したものですけれど、ここには掲載されなかった中にも素晴らしい話はたくさんあって、これを選ぶのに大変なご苦労をされたそうですね。
この中にある話が小学校の教科書に載って、その出典がこの本だと分かれば親御さんも買うでしょう。また、子供がこの中にある話を親から聞いて、道徳や国語の授業で話をすれば、そこからも広がっていくでしょう。昔から偉人の話に生き方を学ぶということはありますが、ビジネス書から人生を学ぶ教育があってもいいと思いますし、出版社の枠を超えて教科書的なことができればいいんじゃないかなと思います。
コロナ禍の中、昔のロングセラーが売れているんですが、この本も時代に左右されない中身があるので、内容の素晴らしさを広めていくことができれば、自然と50万部、100万部へとつながっていくのではないかなと思っています。
以前は情報本がよく売れていたのですが、そういうものは長続きしないんですね。読者の共感が入っていかないと、売れ行きが持続することはないんです。その共感をつくっていくために、今回のような座談会を、例えば学生だけ集めてとか主婦だけを集めてやってみる。そういうものを積み重ねて発信していくといいのではないでしょうか。レビューだけでは語り尽くせない、いろいろな層の人たちの声を集めて発信していけば、共感が連鎖的に広がっていって途切れることなく続いていくように思います。そういうふうにできればすごくいいですよね。
(本記事は2021年5月20日に行われた特別座談会を編集・書き下ろしたものです)
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