「WHY」を繰り返すのは2回まで! アドラー心理学に学ぶマネジメントのヒント

 日本では当時ほとんど知られていなかったアドラー心理学と出逢って35年――。船井総研の船井幸雄氏から「勇気づけの本物の伝道師」として称賛されるなど、アドラー心理学を日本に広めた第一人者として、経営者層からの支持も厚いヒューマン・ギルド社長の岩井俊憲氏。18万人以上にアドラー心理学の研修・カウンセリングを行ってきた岩井氏は、ビジネスの場での「WHY」には相手との距離を左右する2種類の使い方があるといいます。

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「WHY」の使い方一つで相手との距離が変わる!

「WHY」という問いは、現象・出来事がなぜそうなったのかを究明していくために役立ちます。そういうときは、WHYを使って原因の究明をすればいいのです。

「なぜこんな現象が起きたんだろう」「なぜこんなふうに壊れてしまったんだろう」というような人間の意思に関係ないような出来事についてはWHYを使うのは問題ありません。

たとえば、2019年は台風が各地に大きな被害をもたらしました。特徴的だったのは東日本への上陸です。千葉県や長野県は甚大な被害に遭いました。あの大型台風はなぜ起きたのか、なぜ河川の決壊があちこちで起こったのか、その原因を究明するためにはWHYが必要です。

ところが、ある人が特定の行動を選んで失敗したときにWHYを使って原因を追及するのは非常に問題があります。人間の行動は、必ずしも同じメカニズムで起きているわけではないからです。そこには必ず「こうしたい」という未来志向の意思や意図が介在します。ある目的を実現するのための手段として人間は行動しているのです。その結果として、失敗することもあるわけですが、そのときに「なぜ失敗したのか」と言われても正確に答えようがありません。

 ある心理学者は、WHYという質問に対して正しく答える割合は5割を切ると言っています。つまり、答えの中に半分以上の嘘が混じるというのです。また、WHYという問いを3回繰り返すと、それは人格否定につながります

「なぜそんなことをやったんだ」「なぜ確認しなかったんだ」「なぜ失敗するんだ」「なんなんだ、お前は」というように立て続けに言われると、相手は心を閉ざしてしまいます。当然のことながら人間関係は悪くなります。

だから、現象や出来事を究明するためのWHYは有益なのですが、人間の意図・意思がある行動についてWHYによって原因追及をするのはあまり好ましいとは言えないのです。

ただし、協力のWHYはあっていいと思います。たとえば、部下が上司に「ちょっと相談があるんですけれど……、実はこういうしくじりをしました」と申告してきたとします。私はそういうときにまず「よくぞ言ってくれた」「よく具合の悪いことを報告してくれましたね」と、ミスを報告してくれたことに感謝します。

そして、事情を聴いたあと、「そもそもこれはあなただけで処理してもいいことなんだけれど、わざわざ僕に言ってきたというのにはどういう意図があったのかな? なぜなんだろう?」と尋ねます。ここでWHYを使うわけです。

これは相手に話をさせて、現状回復と再発防止の方法について一緒に考えてみようという協力のWHYです。これだと相手も前向きになれます。協力・結合の力として「なんのために」「なぜ」こういうことをしてくれたのかと尋ねる。これは相手をより近づけるWHYです。

ところが、否定的な失敗話やしくじり話にWHYをつけて「なんで失敗したんだ」と言うと人格否定につながり、相手を離反させる。これは相手との距離を遠ざけるWHYです。

私はWHYをゼロにしろとは言いません。ただ、WHYを使うならば「一緒に何ができるだろうか」「僕がお手伝いできることはどんなことだろう」という前向きな行動につながる協力のWHYにしてもらいたいと思うのです。


(本記事は『経営者を育てるアドラーの教え』(岩井俊憲・著)より一部抜粋・編集したものです)

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◇岩井俊憲(いわい・としのり)
昭和22年栃木県生まれ。45年早稲田大学卒。外資系企業(GE社の合弁会社)に入社して翌年、受験者最年少の23歳で中小企業診断士試験に合格。26歳で販売会社のセールス・マネジャー、28歳で本社の総合企画室課長(30歳で人事課長も兼務)に抜擢された。しかし、企業の業績不振に加え、GE社の日本撤収に伴い、従業員半減のリストラ策を立案・断行。自らも辞意を決し、同時に仕事、家族、財産の三つを失う。
その後、13社からのオファーを蹴って、二間のマンションでゼロからの再出発を誓い、知人の紹介で不登校支援の塾を手伝うように。その傍ら、日本では当時ほとんど知られていなかったアドラー心理学との出逢いを果たし、3年のうちにアドラー心理学指導者資格を取得。1985年、アドラー心理学の普及などを目的にヒューマン・ギルドを設立。船井総研の船井幸雄氏から「勇気づけの本物の伝道師」として称賛されるなど、アドラー心理学を日本に広めた第一人者として、経営者層からの支持も厚い。35年間に及ぶ経営者体験に加え、カウンセリングやコンサルティングにも従事。アドラー心理学をベースとした研修や講演を受けた人は、これまで18万人以上に及ぶ。著書は『人を育てるアドラー心理学』(青春出版社)、『アドラー流リーダーの伝え方』(秀和システム)など50冊を超える。最新刊に『アドラーに学ぶ70歳からの人生の流儀』(毎日新聞出版)がある。本書は、経営者を対象としたアドラー心理学の初の著書となる。

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