勇敢なだけでは生き残れない。プロ冒険家・阿部雅龍氏が恩師に学んだ「危機管理」の鉄則

2019年1月、日本人初のルートで南極点単独徒歩到達を成し遂げた阿部雅龍さん。幾度となく生死の狭間を超え冒険を続けてきたプロ冒険家に、命の危機をどう乗り越えたか、その危機管理の鉄則を、恩師である冒険家・大場満郎さんの教えを交えて振り返っていただきます。

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先人の英知を素直に学ぶ

――これまで様々な冒険に挑まれていますが、命の危機を感じることはありませんでしたか?

〈阿部〉
冒険ですから死の淵を覗く経験は1度や2度ではありません。

アマゾン川ではマラリアに罹って高熱が続き幻覚を見ました。北極では白熊にテントを襲撃されたこともあります。中でも最も自分が試されたと感じるのは、2016年にグリーンランドで北極圏単独歩行を行っていた時、凍てつく北極の海に落ちてしまったことです。

気温マイナス40度の世界から、凍る直前の水温ゼロ度の海に落ちると、落ちた瞬間は温度差から温泉に浸かったように暖かく感じます。ところがすぐに体の感覚がなくなり、焦りが出てくるんです。

氷の上では体重を分散するためにスキー板を履いているので、その板ごと慎重に海から上がらなければなりません。周囲の氷も薄く、匍匐前進するようになるべく表面積を増やして少しずつ這い上がって、何とか命拾いしました。

――そうした緊急時にパニックを起こさないために大切なことはありますか?

〈阿部〉
とにかく冷静に、落ち着いて淡々と自分ができることをしなければ生き残れない。それが恩師の大場さんの教えです。

冒険では思い込みで動くことほど怖いものはなく、バードビュー(鳥の目)で自分を客観視することが不可欠です。経験を積めば積むほど、「こうであってほしい」という願いが「こうあるはずだ」という断定に変わり、どツボに嵌まってしまいます。

大場さんは「冒険家として一番の資質は臆病なこと」とも言っています。死と隣り合わせの冒険の世界では、勇敢なだけでは生き延びられないと。

――含蓄のある言葉です。

〈阿部〉
冒険に出てようやく、大場さんが以前、自分を深める努力をしなさいと教えてくださった意味を実感しました。人間はすぐ驕りが生じる生き物ですから、素晴らしい先人の経験や英知を素直に学ぶことが大切なんです。

自然に対してもそうで、自然を自分の力で征服してやると思っても、人間は絶対に自然に勝てませんし、そうした驕りを抱いているとどこかで必ずしっぺ返しを食らいます。

僕は冒険の時、必ず瞑想から1日を始め、歩き出す前には二礼二拍手一礼をしています。最近は「太陽さんありがとう」と大自然に話しかけるようにもなりました。そうした謙虚な気持ちでいるほうがうまくいくのです。そう心掛けていると、人に対する態度も変わりました。人を自分の思うように動かそうと思わなくなりましたし、不平不満も言わなくなったんです。


(本記事は月刊『致知』2021年5月号 特集「命いっぱいに生きる」に収録されたインタビューを抜粋・編集したものです)


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◇阿部雅龍(あべ・まさたつ)
昭和57年秋田県生まれ。平成16年大場満郎氏主宰の冒険学校でスタッフとして働く。17年秋田大学在学中に南米大陸単独自転車縦断。22Continental Divide Trail単独踏破、24年乾季のアマゾン川の2000km単独筏下りを達成。26年から3年連続で北極圏単独徒歩。311月日本人で初めてメスナールートによる南極点単独徒歩到達918キロメートルを達成。現在、同郷の探検家・白瀬矗中尉の足跡を辿り、単独徒歩で南極点を目指している。著書に『次の夢への一歩』(角川書店)がある。

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