KDDI・小野寺正相談役が驚嘆した稲盛和夫の「部下との接し方」

電電公社(現・NTT)に対抗する、新しい電話会社を一緒につくらないか?――1983年夏、まさにその電電公社に勤めていた小野寺正さんは、先輩の千本倖生さんに持ち掛けられた誘いに心を動かされます。当時、中曽根内閣の主導で進められていた公社改革の流れに乗り、稲盛和夫氏が陣頭指揮を執るKDDIに入社。そこで驚嘆したのは、上司、経営者、そして人間としての稲盛氏のすごさだったといいます。

部下の意見にも真摯に耳を傾ける

〈小野寺〉
気持ちが固まったのは同(1983)年秋でした。

千本さんに指示されるまま参加した京都の会合で、新しい電話会社の設立に情熱を燃やす稲盛和夫さん(当時・京セラ社長)と元通産省資源エネルギー庁長官で京セラ副社長の森山信吾さんに初めてお目にかかり、いろいろ話をする中で「よし、やってみようか」と思い至ったのです。

その時に稲盛さんから、

「生半可なことでは困る。公社を辞めて退路を絶って来てくれ」

とはっきり言われたことをいまでも覚えています。

ただ、それまで私は京セラという名前は知っていたものの、稲盛さんについてはほとんど存じ上げませんでした。初めて稲盛さんにお目にかかった時も、電気通信事業に対する思いや熱意・情熱を強く感じましたが、それだけでは事業はうまくいかないだろうというのが正直な印象でした。

むしろ、森山さんと「電話会社をつくるのであれば郵政省から人をもらわないとだめだ」との話題が出た時に、森山さんがそのように動いていると伺ったので、「それなら大丈夫だ」と安心したのが本当のところです。

電電公社を退社し、稲盛さんが新たに立ち上げた第二電電企画(現・KDDI)に入社したのは1984年11月です。以後、私は事業の相談のため月に何度も稲盛さんにお目にかかるようになったのですが、そこで稲盛さんの人間性や経営者としてのあり方に触れ、多くのことを学んでいきました。

特に驚いたのが、稲盛さんは自分が詳しくない事業領域については、部下の意見に真摯かつ徹底的に耳を傾けてくださること。そして一度決定した事項をひっくり返す時にも、

「自分は考え違いをしていた。申し訳ないがこういうふうに変えてくれないか」

と、素直に謝り、その理由をしっかり説明してくださることです。

特に大会社のトップともなれば、部下に対して頭を下げることなどほとんどないでしょうし、決定事項を変更する理由を一つひとつ丁寧に説明することもないと思います。稲盛さんは、それを当たり前のように実践されていました。


(本記事は月刊『致知』2021年4月号 特集「稲盛和夫に学ぶ人間学」より一部抜粋・編集したものです)

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【著者紹介】
◇小野寺 正(おのでら・ただし)
昭和23年宮城県生まれ。東北大学工学部電気工学科卒業後、旧日本電信電話公社(現・NTT)に入社。59年、後のDDIの母体となる第二電電企画に転職。平成9年DDI副社長。13年KDDI代表取締役社長に就任。会長などを経て30年より現職。京セラ取締役、大和証券グループ本社取締役などを歴任。

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