若者よ、「運」と「勘」と「度胸」を磨け! エステー会長・鈴木喬が語る、大胆な経営改革の原動力

業績不振に陥っていたエステーを立て直し、今日の発展を築いた鈴木喬氏。「消臭力」「脱臭炭」「米唐番」……ヒット商品を連発し、創業以来最高益を達成するなど経営改革を断行してきました。その豪胆無比、勇猛果敢な人格はいかにして培われたのか――。新卒で入社した日本生命保険営業時代からの足跡、若い人たちへの率直なエールを伺います。

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営業の極意は喋らないこと

〈鈴木〉
(前略)とはいえ、仕事は非常に面白く、成果も上げてきた。ニッセイは個人保険では国内トップを誇っていたものの、法人保険では後塵を拝していた。そこに目をつけ、持ち前の型破りな思考で、40歳の時に法人事業を立ち上げた。そして社員数1万人以上の会社をリストアップし、何度追い返されようとも訪問を続けた結果、年間1兆円超の企業保険契約を受注するトップセールスマンへと駆け上がった。

僕の営業力はどこで鍛えられたのか。そう考えると、学生時代のグランドホッケー部の経験は大いに活きた。OBを回って活動資金を掻き集めたり、新入部員を集めるために大風呂敷を広げて勧誘していたからか、自然と営業力、組織力を肌で学ぶことができていた。

営業力とはつまるところ調査と情報だ。重要な人に会ったら、黙って相手の話に耳を傾ける。そして「なるほど」「それで」「さすが」、この三言しか口にしない。相手に話をさせることで、相手が望む情報が何なのか、何を求めているのかを引き出すのだ。

できればその企業の社史や有価証券報告書、10年分の新聞記事を読み込んでから臨むといい。相手以上に相手の企業を熟知できていれば、掴んだ情報を小出しにするうちに、「こいつは使える」と思ってもらえる。結局、営業の極意は喋らないことに尽きる。どの業界を見渡しても、よく喋るトップセールスマンはいないだろう。

情報は偉い人からしか取れない。これも僕の営業の鉄則で、だから常に役員クラスの人のところへ押しかけた。おかげで随分と図々しさだけは鍛えられたものだ。

そうした無茶苦茶な営業ができたのは、「運と愛嬌」があったからだろう。フランス革命期の英雄・ナポレオンも「将軍を選ぶ基準は運が強くて愛嬌のあること」と言ったというが、僕は人に恵まれた。大企業の社長は大抵猫の手も借りたいほど忙しいが、社長から「こいつを何とかしてやらなくちゃ」と思ってもらえる愛嬌は重要なポイントだ。

運と勘と度胸

〈鈴木〉
兄に請われる形でエステーに入社したのは1985年、51歳の時だった。エステーでも自己流のスタイルを押し通したため、反対者は多かった。しかし、バブル崩壊後の業績不振を立て直すためには、あの〝とんでもない奴〟に任せるしかないと社内の意見がまとまり、63歳で社長になった。以降、有無を言わせず、会社に大きくメスを入れてきた。

役員を半減させた他、860種あった商品を280に絞り、工場も2か所閉鎖するなど、筋肉質の会社にするため、思い切った決断をした。生き残りをかけて、年間60種出していた新商品を一つに絞り込み、経営資源を一点集中させた。そうして誕生したのが「消臭ポット」である。当初反対意見ばかりで、誰もが1千万個という年間販売目標を信じなかったが、一点集中という戦略が時代に合致し見事達成。異例の大ヒットとなって、会社は窮状を脱した。

その後発売した「消臭力」、特に冷蔵庫の脱臭剤「脱臭炭」やお米の虫よけ「米唐番」といった新商品はおかげさまで現在8割のシェアを占めている。最後発で市場に参入したエステーがそれを成し遂げられたのは、選択と集中ができていたからだろう。経営者の仕事とは、畢竟「決断」だ。

加えて大切なのは「運と勘と度胸」、ドシッと肚を据えること。ちょっと図太いほうが、何事もうまくいく。ひと昔前には「盲蛇に怖じず」と言ったように、無知ゆえに恐れを知らず、常識に囚われることなく突き進むことができた。いろんな修羅場を潜り抜けた経験があれば、勘も度胸も磨かれる。

とにかく僕がいつも言うのは、最悪の場合を考えろということだ。仕事に失敗したからといって、命までは取られない。会社に勤めていたら、命どころか給料がなくなる心配もない。そう思えば、気楽なものだ。失敗したって首の皮一枚で繋がる。いけしゃあしゃあと厚かましく生きればいい。

こんな持論でこれまで生きてきたが、リーダーシップ論としては、『君主論』をはじめ、マキャベリの著書には多くの示唆を得てきた。

「国を護るためには道徳なんかにこだわるな」

「偉大な事業を起こしてみずからを類稀な規範として示すこと以上に、君主の名声を高めるものはない」

いまの若い人に必要なのは、根拠がなくてもいいから自信を持つこと。最近は優秀な若者が増えたが、そういう人に限って失敗を恐れる傾向が強い。失敗してもまた立ち上がる。その繰り返しで度胸も自信もつくものだ。だからちょっと図太くホラでも吹いているほうが案外うまくいくと、いまを生きる若者にアドバイスを贈りたい。


 

◎博多一風堂社長・河原成美氏、ジャパネットたかた創業者・高田明氏、USJ再建のマーケター・森岡毅氏、パティシエ・辻口博啓氏……。
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(本記事は、月刊『致知』2021年2月号 連載「二十代をどう生きるか」を一部抜粋・編集したものです。)


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◇鈴木 喬(すずき・たかし)
昭和10年東京生まれ。34年一橋大学商学部卒業後、日本生命保険相互会社入社。60年3月エステー化学(現・エステー)入社、平成10年社長就任後は、商品の品種を3分の1に絞り、新商品を年間1品に集中して売り出すなど大胆な経営改革により、高収益体質に変革させた。19年に社長を退くも、リーマン・ショックを機に21年会長兼社長に就任。24年より現職。著書に『社長は少しバカがいい。』(WAVE出版)。

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