心奮い立つ、稲盛和夫氏のリーダーシップ(大田嘉仁×北康利)

世のため人のため、善きことを思い、善きことを行う。この信念のもとに京セラを世界的優良企業に育て上げ、第二電電(現・KDDI)の創業や日本航空の再建を成功に導いた稲盛和夫氏。その稲盛氏のリーダーとしてのあり方を、稲盛氏に長年仕えてきた大田嘉仁さんと、評伝の執筆を通じて稲盛氏の実像に迫ってきた北康利さんに語り合っていただきました。

希望を与えるリーダーシップ

〈大田〉
稲盛さんと接してきて実感するのは、人に希望を与える力があることです。特命秘書を命じられた時、稲盛さんは躊躇する私に「二人で日本を変えよう」とおっしゃいました。稲盛さんはそういう、人を奮い立たせるような言葉を自然に言える人なんです。

〈北〉
非常に力のある言葉ですね。

〈大田〉
京セラがまだ零細企業でしかなかった時には、

「京都一、日本一、世界一のセラミックメーカーになるんだ」

と皆に説いて希望を与えました。第二電電、JAL、盛和塾でも同様に、こういう考え方をすれば絶対いい人生が送れると確信に満ちた言葉で導いていく。稲盛さんは、多くの人に希望、つまり生きる力を与えることができるリーダーだと思います。

なぜそのような力があるのかというと、強さと優しさ、プラス人間臭さというものを非常にバランスよく持っておられるからだと思うのです。

しかし、それは先天的なものではなく、希望を与えられる自分になろうと努力を重ねたことで養われたものだと私は思います。どんなに厳しい環境にあろうと、人を引っ張っていくためには夢や希望を与えなくてはならない。だから自分が辛くても明るく振る舞おう、相手の善いところを見つけてそれを伝えていこうと。

稲盛さんは、社員の心を一つにするためにコンパを頻繁に行ってきましたが、業績が悪い時は、いつもはあまり言わない冗談を言ったりして、明るく振る舞うんです。帰りがけに「きょうは楽しかったですね」と言うと、

「いや、しんどかった。皆を励まさないといかんかったからな。しかしそれが俺の役割なんだ」と。

〈北〉
そんなことがありましたか。

〈大田〉
盛和塾にあれだけ多くの人が集まったのも、稲盛さんが希望、エネルギーを与えてくれたからだと思うのです。

普通のコンサルタントならここがダメ、あそこがダメと言うところを、稲盛さんは「君は考え方をこう変えれば絶対成功する」と確信を持って言ってくれるので、この人を信じて頑張ろうと心が奮い立つんです。

再建を行ったJALの皆さんも、そんな稲盛さんのことを太陽のような人だと話していました。一緒にいたらきっといい人生が訪れそうだと思わせる魅力を持っている。それは稲盛さんがそういう人間になろうと努力した結果だと思うんです。ですから私も、少しでも人に希望を与えられる人間になろうと思っているところです。


(本記事は月刊『致知』2021年4月号 特集「稲盛和夫に学ぶ人間学」より一部抜粋・編集したものです)

★北康利さんには、2024年4月号より、弊誌の連載「二宮尊徳 ~世界に誇るべき偉人の生涯~」をご担当いただいています。詳細はこちら

★『致知』2023年10月号「出逢いの人間学」には、稲盛和夫氏に薫陶を受けた石田昭夫さんと大田嘉仁さんがご登場!貴重な実体験を交えて、稲盛哲学の神髄を語っていただいています。詳細はこちら

【特集「追悼 稲盛和夫」を発刊しました】

去る8月24日、稲盛和夫・京セラ名誉会長が逝去されました。35年前、1987年の初登場以来、折に触れて様々な方との対談やインタビューにご登場いただくのみならず、たくさんの書籍の刊行、数々のご講演を賜るなど、ご恩は数知れません。
生前のご厚誼を深謝し、月刊『致知』12月号では「追悼 稲盛和夫」と題して特集を組みました。豪華ラインナップは以下特設ページよりご覧ください。
【著者紹介】
◇大田嘉仁(おおた・よしひと)
昭和29年鹿児島県生まれ。53年立命館大学卒業後、京セラ入社。平成2年米国ジョージ・ワシントン大学ビジネススクール修了(MBA取得)。秘書室長、取締役執行役員常務などを経て、22年日本航空会長補佐専務執行役員に就任(25年退任)。27年京セラコミュニケーションシステム代表取締役会長に就任。現職は、㈱MTG取締役会長、学校法人立命館評議員、鴻池運輸㈱取締役、㈱新日本科学顧問、日本産業推進機構特別顧問など。著書にJALの奇跡(致知出版社)がある。

◇北 康利(きた・やすとし)
昭和35年愛知県生まれ。東京大学法学部卒業後、富士銀行入行。富士証券投資戦略部長、みずほ証券業務企画部長等を歴任。平成20年みずほ証券を退職し、本格的に作家活動に入る。『白洲次郎 占領を背負った男』(講談社)で第14回山本七平賞受賞。著書に『日本を創った男たち』(致知出版社)『思い邪なし 京セラ創業者稲盛和夫』(毎日新聞出版)など多数。近著に『乃公出でずんば 渋沢栄一伝』(KADOKAWA)がある。

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