2021年03月09日
毎週水曜日19時からお届けしている週刊『致知』Facebook Live。このたびは『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』が発売1か月で10万部(現在は20万部)を突破したことを記念して、本書にご登場の方々をゲストにお招きしてお届けしています。第4回にご登場いただいたのは、公認会計士・税理士であり、ドラッカー学会理事の佐藤等さんです。本書の味わい方から、ドラッカーから学ぶべきことまで、人生・仕事のヒントを語っていただきました。
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主体と客体、二つの側面からの学び
――第4回となる今回はドラッカー学会理事・佐藤等先生をお迎えしてお届けしてまいります。
佐藤先生は弊誌月刊『致知』で、2019年2月号から「仕事と人生に生かすドラッカーの教え」を連載してくださっています。佐藤先生の連載は毎回大好評で、本当にありがとうございます。
〈佐藤〉
こちらこそ、ありがとうございます。
――では、さっそく最初の質問です。佐藤先生の記事は「11月11日」に掲載されていますが、この『365人の仕事の教科書』を読んで、佐藤先生ご自身はどのような気づきや学びがございましたか。
〈佐藤〉
本当に毎月、毎月、一冊、一冊の『致知』の内容が濃縮されて手元にあるような貴重な本だなと思います。「主体的」という言葉の反対は「客体的」ですが、実は「主」と「客」というのはほとんど同じなんですね。実は同じことを側面を変えて言っているだけなんです。
それで、この『365人の仕事の教科書』の記事は、主体側からアプローチしてる話と客体側からアプローチしてる話に綺麗に分かれるんです。致知出版社の藤尾秀昭社長も「人物から学ぶ」「歴史から学ぶ」「古典から学ぶ」ということをよくおっしゃってますけど、この場合でいえば、主体的なアプローチというのはどちらかというと「人物」、その人物の営みである「歴史」にテーマを当てて書かれてる記事になると思うんですね。
そして客体側からのアプローチは「古典」になります。人生や仕事の法則的なことがたくさん書かれているのが古典。なぜ古典を読むかというと、それはものごとの法則を明らかにするためだと思うんです。
ですから、主体側の人物・歴史の学び、客体側の古典の学び、その両方が混然一体となって、エネルギーを発してるような本が『365人の仕事の教科書』だなと思います。
――ありがとうございます。『365人の仕事の教科書』の中で印象に残る記事はございますか。
〈佐藤〉
いまの分類でいえば、ドラッカーのことを取り上げた私の記事は、どちらかといえば客体的です。つまり、私の存在、体験談は出てこないんですよ。ドラッカーから学んだ法則的なものが書かれている。それと同じような記事が、前野隆司先生の「幸福になる4つの因子」(「8月4日」に掲載)ですね。去年「4つの因子」から「7つの因子」になったようですが、これは「こういうところに目を向けると人生うまくいくよ」という、まさに客体的、法則的なことが書かれた記事だと思います。
それに対して主体的だと思うのは、「3月22日」に掲載の中村富子さんの記事。この記事を読むと、中村さんの体験談から感謝の心を深く知り、学ぶことができる。中村さんの主体者としての言動が物語のように書かれていて、それを通して感謝の心を深く学べるんです。
もう一つ主体的な記事で言えば、「7月18日」に掲載の「種田山頭火という生き方」。これもすごい記事ですね。客体的な記事だと「なるほど、それを大事にすれば人生がうまくいくんだ」という感じで受け取りますが、主体的な記事だと、まさにそれを実践されてる方の物語・体験談なので、ものすごく肚落ちしますね。
ドラッカーが教えてくれること
――佐藤先生ならではの視点で本の魅力を語ってくださり、ありがとうございます。ちなみに、佐藤先生の記事が掲載されている「11月11日」は、ドラッカーの命日だそうですね。
〈佐藤〉
ええ、実は編集者の方にお願いしてこの日に掲載していただきました(笑)。
――私たちも、佐藤先生の思い入れのある日にちに掲載できて本当によかったです。佐藤先生の記事の全文は『致知』2019年6月号に掲載されていますが、その中に、ドラッカーのいう成果は、組織が手にするものではなく、外の世界における変化だと書いてあります。このことに関して詳しくご解説いただいてもよろしいでしょうか。
〈佐藤〉
ドラッカーが説く成果は、私たちが知ってる成果とは少し違うんですね。成果というと、どうしても自分が手にしたいものというように理解してしまいます。私もドラッカーに出会う前はそうでした。
ところが、ドラッカーの成果の定義は「外の世界における変化」です。もちろん、ドラッカーは企業、組織の成果のことをいってますから、これはお客様の変化はどうかということなんですね。『致知』のお仕事でも、雑誌を購読してもらえるから嬉しいのではなく、記事を読んだことでお客様の人生や仕事が変わるからこそ価値があるわけですね。それを考えれば、どんな記事を掲載すればよいのかを考える視点も変わってくるはずです。
先ほど客体という話をしましたが、やはり自分がどうかということよりも、外に向かってどうあるべきかを問いかけなければ、自分がどう変わればよいのかも分からないと思うんですよ。その点、ドラッカーの成果の定義は、自分の外に目を向けさせるという点がとても学びになります。
――なるほど、外に視点を向けることで見えてくるものがある。
〈佐藤〉
例えば、「我われ組織にとっての成果は何か」という問いがあります。これは、ある組織が主体者だとすれば、その客体、お客さんに目を向けさせる問いですね。つまり、その組織の成果を実現するために、一人ひとりはお客様のためになにをやればいいのかを問うているわけです。
自分がやりたいことを仕事にしたらいいとよく言われますけど、やっぱり、お客様あっての仕事です。ですから、お客様をスタートラインにして、なすべきことは何かを考えるのが、一番成果に直結しやすいんじゃないかなと思います。
――他に印象に残った記事がございましたらご紹介いただけますでしょうか。
〈佐藤〉
これは本当に迷いに迷って選んだのですが、「3月25日」に掲載されている福島令子さんの記事と、「3月30日」に掲載されている、玲子さんの息子さんの福島智さんの記事ですね。これはそれぞれ非常にインパクトのある親子の物語なんですけども、お母さんの物語は対象が息子さんという客体でありながら、親としての主体的な思いがすごく滲み出てるんですね。一方で、息子さんである智さんの物語は、むしろ外に目を向けた客体的な物語なのです。偉人の話などを引っぱってきて、自分自身を客観視しています。
その性格の違う二つの物語が、絶妙に25日と30日に配置されてるのは、本当にすごいなと思いながら読みました。ですから、主体、客体をどう見るか、一つの物語が違った側面から描かれているところを含めて、皆さんにもぜひ本書を味わっていただきたいですね。
――確かに、福島智さんは両目が見えない、両耳が聞こえないという障碍を持たれた立場でありながら、その状況を客観的に捉えられてます。「障碍を持ったことや病気をしたこと自体に意味があるのではなく、それをどう捉えるかということ」「それを通してその人が自分自身や他者、あるいは社会、あるいは生きるということをどのように見るかが問われているのだと思います」と智さんはおっしゃっていますね。
〈佐藤〉
これはもう人生の法則を語ってますよね。本当にすごいと思います。
――お母様の令子さんも、智さんが9歳で両目を失明した時のお話しをされていて、涙なしには読めないですね。
〈佐藤〉
本当に、その時の情景が浮かんでくるような素晴らしい物語です。
我に『致知』を与えよ、さらば人生も動かさん
――『365人の仕事の教科書』には、書名のとおり365人のお話が掲載されています。佐藤先生はこの365人に共通するものは何だと思われますか。
〈佐藤〉
365人の共通点……難しいですね。ただ、私が記事の中で取り上げているドラッカーのことを考えた時、やっぱり、一貫した持続性を持って何かに取り組んでいるなと思うんです。それがそれぞれの運命の結晶となって、一つの読み物として残ったんではないかという気がしています。別の言葉で表現すれば、『365人の仕事の教科書』の登場者は、皆「人生のテーマ」を持って生きているといえるかもしれません。
ドラッカーに、「何によって憶えられたいか」という極めて重要な問いがあるんですけど、これも「人生のテーマ」を問うているのではないかと思います。やっぱり、人に何か影響や変化を与えなければ、記憶に残してもらえないと思うんですよ。ただ、自分が憶えてほしいと思っているだけではいけない。ですから、「何によって憶えられたいか」という問いは、相手がいて初めて成立するものでもあるんです。その「人生のテーマ」を持った方々が365人集まっている、そこを本書の共通点として挙げさせてもらいます。
本書の記事は、月刊『致知』から抜粋して掲載させていただいております。佐藤先生は2003年から『致知』をご愛読くださっていますが、最後に『致知』を愛読する理由、その魅力などをお聞かせいただけますでしょうか。
〈佐藤〉
やっぱり、『致知』には人生を動かす支点があります。古代ギリシアの数学者・物理学者であるアルキメデスに、「我に支点を与えよ、さらば地球も動かさん」という言葉がありますが、要するに「てこの原理」ですよね。ですから、「我に『致知』を与えよ、さらば人生も動かさん」ってことですね(笑)。『致知』は人生の支点になる本だと思ってますので、これからも読み続けていきたいと思ってますし、これから手に取られる方にもぜひ年間購読をお勧めします。
きょうは貴重な機会をいただきありがとうございました。
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※本記事は『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』発売記念!週刊『致知』Facebook Liveの内容を編集したものです。