【限定連載 第2回】松下幸之助に学ぶ中博の経営問答 ——「変革の時代こそ、人生・経営の使命を持て」

松下電器産業(現・パナソニック)で経営の神様・松下幸之助の薫陶を受け、その教えの神髄を多くの人々に伝導している一般社団法人「和の圀研究機構」代表の中博氏。中氏はコロナ禍に直面するいまだからこそ、松下幸之助の教え、経営哲学はより一層の輝きと真理をもって私たちに迫ってくるといいます。連載第2回は、変革の時代にあるいま、改めて松下幸之助に使命を持って生きる、経営に向き合うことの大切さを学びます。連載第1回⇒「真剣さから新たな知恵が生まれる」

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いまは250年に一度の変革の時

連載第1回でお話ししたウィーン・フィルハーモニー管弦楽団は、昨年の来日公演の際、ドイツの作曲家・ベートーヴェンの交響曲を演奏しました。なぜベートーヴェンの曲が選ばれたかといえば、もちろん、誰もが知る偉大な作曲家だということもありますが、それはやはり、昨年2020年はベートーヴェン生誕250年の節目の年だったことが大きいでしょう。

占星術などでも、よく250年を一つの周期、宇宙のサイクルとして考えますが、昨年2020年はまさにその250年の周期に当たる節目の年であり、大きな変革と転換の年であると言われてきました。実際、その通り、昨年は新型コロナウイルスが世界中を席巻し、これまでの生き方、価値観が一変しました。

音楽の世界においても、250年前にベートーヴェンが現れたことによって大転換が起こりました。それまでの音楽は、貴族が食事や談笑をしながら聴くようなバックミュージックとして扱われていました。しかし、例えば、ベートーヴェンの有名な交響曲第5番「運命」は、「ダダダダーン!」という非常に印象的なメロディから始まります。しかも「運命」の楽譜を見ると、冒頭には休符が置かれています。つまり、いったん休符ですべてが止まる、聴衆が静まった後、「ダダダダーン!」と演奏するように作曲されているのです。このような音楽、交響曲を書いた人はベートーヴェンより以前にはいませんでした。

ですから、いま私たちは250年に一度の大転換期に生きている、新しい変革の時代が始まるスタート地点に立っているんだということをまずしっかりと心に留めなければなりません。たとえ、これまで人生や仕事がうまくいかなかったとしても、悲観せず、新たな使命、ミッションを抱いて、前向きに強気に挑戦していけば、必ず新しい可能性、道がひらけていく生成発展の時代がいまなのです。

そしてその変革のサイクル、宇宙のサイクルというべきものを自らの人生、経営に取り入れ、常に使命感を持って生きたのがまさに松下幸之助だと言えます。

人間を突き動かすのは理念と使命

松下幸之助は、父親の事業の失敗により尋常小学校を中退、10歳で大阪の火鉢屋に丁稚奉公に出るなど、苦労に苦労を重ねて育ちました。さらに20歳頃、当時、不治の病といわれた肺カタルに罹り、医師から「もうほとんど命はないと思ってくれ」と告げられます。しかし、松下幸之助は病弱な体、様々な艱難辛苦にも決して屈することなく、たった四畳半の一室で松下電器産業を起業し、日本を代表する世界企業へと成長させていくのです。

その歩みの中で、会社はある程度大きくなったけれども、それ以上は思うように成長していかない、社員とも関係がうまくいかないという時期がありました。そんな時、松下幸之助は「お前は宗教心がないから経営に悩むんだろう」と、先輩に連れられてある宗教団体を訪れます。そこで信者の方が一銭のお金ももらうことなく、これまで見たこともないほど嬉々として働いている、奉仕活動に取り組んでいる光景を見て松下幸之助はびっくりするのです。

思わず「なぜ皆さんは一銭ももらわずこんなに嬉々として働いているのか?」と聞いてみると、信者の方は「この宗教の教え、使命を信じて働いているからだ」という答えが返ってきます。その答えを聞いた松下幸之助は、「ああ、そうか」と、人間にとって理念や使命を持って生きる、働くことがどれだけ大事であるかがストンと肚の底に落ちたのでした。

そうして松下幸之助は、商品やサービスを提供する、お客様に奉仕する……企業活動にも使命がなければならないと思い至り、日本企業としては初めて企業の使命、「経営理念」をつくります。具体的には、後に「水道哲学」といわれる、「生産をしよう。生産につぐ生産をして、物資を無尽蔵にしよう。無尽蔵の物資によって、貧窮のない楽土を建設しよう」という壮大な理念、使命を掲げます。松下幸之助はこの年を「命知元年」(真使命を知る第一年)としました。

昭和7年5月5日、当時の幹部社員百数十人に向けて、その使命を発表すると、皆大いに賛同し、一人ひとり壇上に上がって自分の決意を発表したといいます。やはり、自分が働く意味、即ち使命感こそが人間を突き動かすのです。

そして、その使命を達成するために打ち建てたのが宇宙のサイクルに則った「250年計画」です。これは250年を10節に分割、さらに25年を3期に分け、最初の第1期の10年は基礎をつくる建設時代、第2期の10年は活動時代、最後の5年は世の中への貢献時代とし、それを10回繰り返しながら一つひとつ積み上げていこうというものです。

さらに、命知元年に発表した250年は第一期であり、これが終わると第二期の250年があると述べています。まさに宇宙的思想、宇宙的発想の経営です。事業を250年というサイクルで考え、実行に移したのも、おそらく松下幸之助が世界で最初ではないかと思います。

なぜ250年だったのか、残念ながら松下幸之助自身がその理由を明確に語っている資料は見当たりません。密教の僧侶や星占術師からヒントをもらい、それを自分流に換骨奪胎して「250年」という数字を活用したのでしょう。どんなことでも松下流に取り入れ、人生・仕事に生かしていくのも松下幸之助のすごいところです。

もちろん、人間は250年も生き続けることはできません。しかし、松下幸之助が壮大な理念・使命を定め、250年という長期サイクルで経営を行った松下電器という企業体は、いまもパナソニックとして100年以上存続しています。また、松下幸之助自身も、若い頃に医者から「長くは生きられない」と言われ、実際3日寝て、4日起きて出社するというくらい体が弱かった人ですが、94歳の長寿を全うしました。

ですから、私たちも松下幸之助のように、自らの使命は何か、会社の使命は何かといま改めて自分自身に問い掛けて、自分なり、その会社なりの「250年計画」を立て、このコロナ禍を危機ではなく変化のチャンスと捉えて何事にも積極果敢に挑戦していくことが求められると思うのです。

また、その際にもう一つ大事なことが「徹底する」ということです。掃除をするにしても、そこに一つのゴミもないぐらいに徹底して掃除をする。そうして初めて掃除は本当の掃除になるのです。カメラマンでも、プロならフィルムが最後の一枚になる最後の最後までシャッターを切り続けるはずです。もっといいものが撮れるかもしれない、もうこれくらいでいいだろう、ということは絶対にないはずです。そうして初めて本当に納得する一枚が撮影できる。

松下幸之助もとにかく何事も徹底する人でした。先ほどの理念と使命の話でも、日頃から徹底的に経営について考えに考えて考え抜いていたからこそ、宗教団体を訪問した時にはっと気づくことができたのです。もちろん、常に完璧主義ではもちませんから、徹底さといい加減さのバランスは必要ですが、ここぞという時にはもう極限まで徹底する。その徹底した「最後の一滴」こそが成功への扉をひらくのです。

(※連載第3回は3月上旬に更新予定です月刊『致知』にプラスで学ぶ!「WEBchichi限定」記事はこちらから


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◇中 博(なか・ひろし)
昭和20年大阪府生まれ。44年京都大学経済学部卒業後、松下電器産業入社。本社企画室、関西経済連合会へ主任研究員として出向。その後、ビジネス情報誌「THE 21」創刊編集長を経て独立。廣済堂出版代表取締役などを歴任。その間、経営者塾「中塾」設立。令和2年には一般社団法人和の圀研究機構を立ち上げ代表を務める。著書に『雨が降れば傘をさす』(アチーブメント出版)がある。

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