蔓延するエボラ出血熱。WFP焼家直絵さんは、最貧国シエラレオネをどう救ったか

ミャンマーの現地支援にあたる焼家さん(中央)

国連世界食糧計画、通称WFP。食糧支援を通じてSDGs(持続可能な開発目標)のすべてに貢献することを目的に、灌漑の整備などの農業支援・インフラ整備、被災者や難民への緊急の食糧配給も行う機関です。昨年コロナ禍での取り組みが評価され、ノーベル平和賞を受賞したことで話題になりました。日本事務所代表を務める焼家直絵さんは、2014年に西アフリカで大流行したエボラ出血熱から、最貧国に数えられるシエラレオネをどう救ったのか。対策に奔走した体験と、感染対策におけるリーダーシップに迫りました。

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職員も現地住民も守り抜く――leave no one behind

〈焼家〉
私は国際基督教大学(ICU)とオーストラリアの大学院で国際問題や英語を学んだ後、民間企業を経て1998年に国内のNGOに転職しました。

そこは貧困の最前線で活動するNGOで、イラクやコソボ、東ティモールなど当時内乱状態で緊急支援を要していた国々で支援活動を行っていました。これが私にとって初めての現場経験となり、途上国の現状を目の当たりにして驚きました。

爆撃で崩壊した街や電気・水道が1日に数時間しか通っていない村などで生活を余儀なくされ、緊急避難のため船の上で生活したこともあります。3か国合わせて3年間の勤務でしたが、こうした過酷な生活の中で、体力や精神力、忍耐力を鍛えられました。

この経験が評価され、29歳の時にJPO(Junior professional officer)という、外務省を通じて国際機関で働ける制度に合格することができたのです。

――見事、国連で働くという夢を実現されたのですね。

〈焼家〉
NGOで活動していた時にWFPの理念に共感していたこともあり、希望通りWFPに配属していただき、3年間、本部のあるローマで働きました。

その後、正規職員のポストに合格し、ブータン、スリランカ、日本、シエラレオネ、ミャンマーと様々な地域で活動しましたが、最も試された期間だったと思うのは2013~2015年のシエラレオネでの勤務です。

西アフリカに位置するシエラレオネは1990年代の内戦により国が崩壊し、〝世界一平均寿命が短い国〟といわれていました。私が任務に就いた頃は経済復旧の兆しが見えかかっていたにも拘(かかわ)らず、2014年に突如、西アフリカでエボラ出血熱が大流行したのです。

いまは治療薬とワクチンの開発が進んでいますが、この頃の致死率は90%近くと非常に高く、また新型コロナウイルスと違って罹ったら必ず発症する恐ろしい感染症でした。

――あの大流行の時期に、現地にいらしたのですね。

〈焼家〉
ウイルスという目に見えぬ敵に対して、人々がパニックに陥り、国の基盤が瞬く間に崩れ去りました。日本政府から退避勧告が出たため、現地にいた日本人たちは一斉に撤退しました。

ただ、その時私はシエラレオネ事務所の副代表で、感染拡大により隔離された地域へ緊急支援を拡大する事業の統括官でした。国連職員に関しては国連の指示に従うようにとのことでしたので、重責を担っていた私は、「現地に残る」という選択をするのが当然だと思いました。

そして事業統括官として、政府から特別許可証をもらって感染者が多く隔離されていた村へ入り、支援を継続しました。というのも、その村の人たちにちゃんと食糧支援をしていないと、食糧を求めて村の外に出てしまい、感染が拡大してしまうからです。

――エボラ出血熱が蔓延している村で支援を行うことに、恐怖心はありませんでしたか?

〈焼家〉
リーダーである自分が怖がると、約360名の職員皆に伝播してしまいます。「leave no one behind」、誰も取り残さないという私たちの使命を確認し合い、活動に取り組みました。絶対に職員から感染者を出さないことを最重要事項に据え、感染症の専門家の指導の下、マスクの着用や消毒を徹底し、ソーシャルディスタンスを保って支援を続けていました。

皆、緊迫した状況で働いていますので、メンタルケアにも人一倍気を配りました。油断させないようにしながらも、私が率先して現場に行き活動の安全性を証明するなど恐怖心を緩和させるように心掛けました。

その結果、2015年11月にWHO(世界保健機関)がシエラレオネでのエボラ出血熱の流行の終息を宣言するまでの間、職員から感染者が一人も出なかったことは、本当に幸いでした。


(本記事は『致知』2021年1月号 連載「第一線で活躍する女性」より一部抜粋したものです)

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◇焼家直絵(やきや・なおえ)
昭和47年広島県生まれ。平成8年国際基督教大学教養学部国際関係学科卒業。13年から国連世界食糧計画(WFP)ローマ本部でジュニア・プロフェッショナル・オフィサー(JPO)として働いた後、ブータン、スリランカ事務所にてプログラム・オフィサー、支援調整官として勤務。21年から日本事務所にて資金調達を担当。25年からシエラレオネにて副代表としてエボラ緊急支援など現場を指揮。27年からミャンマー副代表、29年6月から現職。

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