自衛隊初「特殊部隊」を創設した伊藤祐靖が語る〝本当に強い〟人材と組織をつくるもの

1999年に能登半島沖で北朝鮮の工作船を追跡し、2001年には自衛隊初の特殊部隊として、海上自衛隊「特別警備隊」の創設を主導した伊藤祐靖(すけやす)氏。現場指揮のプロであり、自らも過酷な訓練を乗り越えてきた伊藤氏は、何があろうと与えられた任務を完遂する「本物」の人材、組織をつくる要諦を明かします。

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目的が一致した集団は強い

〈伊藤〉 
(※編集部注:1999年の)能登半島沖不審船事件を契機に、自衛隊初の特殊部隊(特別警備隊)を創設することが決まりました。そして不審船事件以来、特殊部隊への配属を熱望していた私は、希望どおり、特別警備隊準備室勤務を命じられました。

ただ、特殊部隊という全く新しい職種を自衛隊に初めて創るにもかかわらず、専任の担当は私を含めてたったの3人。しかも1期生の教育を3か月後に開始し、1年後に特殊部隊を編成、そのさらに1年後に実戦配備するという時間的にも余裕がない状況でした。

――そのような中、どのように創設を進めていかれたのですか。

〈伊藤〉 
当初は何から始めたらよいのかさえ分からない状況でしたが、特に心掛けたのは、とにかく嘘のない、理屈が立つ組織じゃないとだめだということでした。

誤解を招く言い方かもしれませんが、自衛隊というのは嘘の塊なんです。なぜなら、憲法九条第二項に陸・海・空の戦力を保持しない、国の交戦権は認めないと書いてあるんですよ。要するに実際の試合(戦争)には出られませんと。

ですから、ある部隊や基地を設置するにも、どこどこの国が脅威で、法的に隊員の定員が何人と決まっていて、というように、ばらばらの理屈を持ってきて、いろんな物事がぎりぎりの状態で決まっているのが自衛隊なんですね。

――理屈が一本通ってないと。

〈伊藤〉 
でも特殊部隊は、部隊が全滅しようが、何が何でも拉致された日本人を連れて帰る、試合で絶対に勝つことを目的にしたチームなので、どんなことを聞かれても嘘のない、一つの理屈が答えられる組織にしようと思いました。

具体的には、実際に起こった能登半島沖不審船事件をモデルにして作戦計画を立てました。もう一回同じ事件が起これば、必ず日本人を奪還できる組織をつくる。そのためには人員や予算、訓練はこれくらい必要だというように、常に具体的な作戦計画に戻るように進めていったんです。これなら変な嘘や理屈は必要ありません。

ただ、その作戦計画が実戦で実行可能なのかは誰にも分かりません。自分で何度も考え、いろんな人に意見を求めましたが、自信はないんです。不安の塊ですよ。

――どう解消されましたか。

〈伊藤〉 
ここで心掛けたのも、とにかく嘘はつかないということでした。実際に作戦を実行する隊員たちにも次のように伝えました。

「おまえらは誰もやったことがない訓練をやる。だから、疑問があれば聞く、納得いかないなら拒否する。それが訓練の最低条件だ」

――隊員にも嘘はつかない。

〈伊藤〉 
それでパラシュート降下やレンジャー行動、スキューバ潜水など、高度な訓練をいくつも行っていくのですが、隊員を教育する上で気をつけたのは、「何のためにするのか」という意識づけです。

例えば、初めて訓練に参加する隊員に「朝ごはんは食べてきたか? 何で食べたんだ?」って聞くんです。それで「お腹がすいたので食べました」と答えると、「違う。おまえはいまから特殊部隊の隊員になるための訓練を受ける。そのために必要な栄養を得るために食べたんだ。腹が減ったから食べる、食べないという問題じゃない」と。

――何事でも目的意識をはっきりさせることが大事なんですね。

〈伊藤〉 
ええ。極端に思えるかもしれませんが、これは特殊部隊に限らず、強い人材や組織をつくる上で他の分野にも通じることです。

なぜ自分は目覚まし時計を6時にセットして、毎日働きに行くのかを明確に意識している人と、そうでない人とでは、仕事っぷりが全然違います。ですから、本当に強い人材、組織をつくりたいと思うのなら、例えば入社試験の面接で「なぜ君は当社に入社しようと思ったの?」ではなく、「当社の経営理念、起業した目的は?」と質問したほうがいいんですね。

もし答えられないようなら、本当はその人材は採用しないほうがいい。自分の人生の目的と会社の目的が一致していない人材は、本気では仕事をしてくれません。

ただ、経営理念に合う理想的な人材はそうそういませんので、なるべく経営理念に近い考え方の人材を選び、入社後も考え方が近くなるよう教育すると。どの分野でも目的が一致した人の集まりになれば、組織は盤石になります。


◉月刊『致知』2021年7月号に伊藤さんがご登場!!◉
2004年、陸上自衛隊に「特殊作戦群」をつくり
初代郡長となられた荒谷卓(あらや・たかし)さんと
自分の頭で考え動く〝最強組織〟のつくり方について
「実戦経験」を踏まえて語り合っていただきました!


(本記事は月刊『致知』2018年4月号 特集「本気 本腰 本物」より一部抜粋したものです)

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◇伊藤祐靖(いとう・すけやす)  
昭和39年東京都生まれ。日本体育大学卒業後、海上自衛隊に入隊。「みょうこう」航海長在任中の平成11年3月、能登半島沖不審船事件を体験。これを機に自衛隊初の特殊部隊「特別警備隊」の創設に関わる。19年、2等海佐で退官。現在に至る。著書に『国のために死ねるか』(文藝春秋)など。

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