障碍者も「ありがとう」を言ってもらえる社会を実現する——吉藤健太朗×佐藤仙務

分身ロボット「オリヒメ」を開発し、その普及とさらなる進化に情熱を傾けている吉藤健太朗さん。脊髄性筋萎縮症(SMA)という重度障碍にも屈することなく、僅かに動く指で会社を起業し、「ひさむちゃん寝る」の配信など多方面で活躍する仙拓社長の佐藤仙務さん。時代をリードする若きリーダーのお二人に、誰もが生き生きと働ける社会の実現への熱い思いを語り合っていただきました。

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番田の思いを継いで

〈佐藤〉
……開発したオリヒメを世の中の人に広めていくのは大変だったのではないですか。

〈吉藤〉
オリヒメをつくった時、これをどうやったら皆が使ってくれるだろうか、大学に残ってアカデミックな方向で行くのか、どこかの企業に売り込む方向で行くのか考えたんですけど、どちらも何か違うというか、まぁ、なかなか思い通りにはいきませんでした。

そうした中で、大学の後輩であり、いまオリィ研究所の副代表を務めている結城明姫にこう言われたんですよ。

人々の孤独を解消するために人生を使う、そのことを誰も否定しないし、一人で頑張ることもいいと思う。でも、体が弱い吉藤さんが途中で倒れてしまったら、プロジェクトはそこで終わってしまうし、その先に進んでいかないよね。だから、倒れてしまった後も、吉藤さんの活動が維持される社会システム、お金の循環をつくらないといけない。それを実現するのが起業なんだよと。

彼女のその言葉から、ああ、一人でロボットをつくっているだけではだめなんだと気づいて、2011年頃からビジネスについて勉強し始め、2012年にオリィ研究所を株式会社化したんです。

でも、最初の2年ほどは全然お金がなくて、もういまにも潰れそうな状態が続きましたね(笑)。

〈佐藤〉
事業が軌道に乗っていく転機などは何かあったのですか。

〈吉藤〉
それも、いい人と出会えたことが大きいですね。営業にばんばん出て行くようなことはなかったんですけど、ポイント、ポイントですごく面白い人と出会ったり、一緒に何かやろうよって次に繋がることがよくありました。その中で私にとって最も大きかったのは、やっぱり、重度障碍で寝たきりだった番田雄太との出会いです。

番田は四歳の時に交通事故に遭ったことで寝たきりになり、学校などにも20年以上通っていなかったんですが、2013年12月に、「自分は寝たきりだけど、とにかく働きたい」「障碍者が働けない社会はおかしい」って、私のところにメールしてきたんですね。

彼が面白いのは、我儘で我慢弱くて、世の中に対して仕方がないとか、諦めるっていう考えがなかったところです。それは、彼が学校に全く行かなかったことによって、先生など大人たちから「あなたは××なんだから」「あなたはこう生きなさい」みたいな教育を受けなかったからだと思います。

本当に自分が思ったことをそのまま口に出せる、おかしいことはおかしいって言える。そういうところで意気投合し、私は番田をパートナー、秘書として一緒に活動していくようになったんです。

〈佐藤〉
心通じ合うものがあった。

〈吉藤〉
盛岡にいる番田には、オリヒメで東京のオリィ研究所に毎日出社してもらい、メールやスケジュールのチェックをはじめ、一緒に講演もしました。その中で、番田ができることが増えていくようにとオリヒメを改良していったんですね。そうすると、彼も自宅のベッドの上にいながらいろんなことができるようになって、「自分も番田さんのようになりたい」「オリヒメを使ってみたい」という声や講演依頼が増えていったんです。

〈佐藤〉
事業や開発のよい流れ、よい循環ができていったのですね。

〈吉藤〉
そして、もっと大きなオリヒメがあれば、一緒に散歩をしたり、喫茶店でウエイターもできるし、将来は一緒に喫茶店でもやろう。体が動かなくてもどこに住んでいても、皆が一緒に働ける世の中を実現していこう。そう番田と話し合う中から、ものを運べて移動ができる120センチメートルの新型オリヒメの構想が生まれていきました。

ところが、2017年に、番田は突然この世を去ってしまうんです。まだ27歳でした。

〈佐藤〉
これからという時に……。

〈吉藤〉
ただ、番田と話し合った構想は、後に難病や障碍で動けない方などが分身ロボットを操作して接客し、いろんな人と出会うことができる「分身ロボットカフェ」として結実していきました。

分身ロボットカフェは、2018年11月と2019年10月・12月に都内のカフェで公開実験を行って、多くの課題はありましたが、寝たきりの人でも接客ができ、人と出会い、繋がり、仲間を増やせることが実証できました。

誰もが働ける社会へ

〈佐藤〉
僕も番田さんとはビデオ通話で何度かお話しさせていただいたことがあるんですけど、本当に吉藤さんのことが大好きなんだなってことがものすごく伝わってきました。

吉藤さんが番田さんの心を変えた一番のポイントは、やっぱり、障碍者も周りから「ありがとう」と言ってもらえる状況をつくったことだと思うんですよ。

僕もそうですが、障碍者は誰かに助けられて「ありがとう」と言わなくてはならない場面が多いんです。でもある時から、どうして自分ばかり「ありがとう」を言わなければいけないのかな、僕も「ありがとう」を言われたいって思うようになって……。

実際、会社を立ち上げ、社会で働くことを通じて初めて「ありがとう」を言ってもらえた時、いままでにはない充実感を味わうことができた。

だから、番田さんも吉藤さんと一緒に働いて、いろんな人と関わって、「ありがとう」って言われる場面がたくさんできて、本当に幸せだったのだと思います。障碍者でも、どんな状況にある人でも、「ありがとう」って言ってもらえる環境をつくっていくことが、これからの時代には本当に大事になってくるのだと思うんですね。

〈吉藤〉
佐藤さんのおっしゃる通りで、私も引きこもりで思うようにならなかった時、同じような経験をしています。

親しい人でも、いつも何かをお願いする、手伝ってもらってばかりいたら、だんだん申し訳ない、頼んだら舌打ちされるんじゃないかっていう恐怖心が出てきて、いつの間にか「私なんかのためにすいません」って謝るようになるんですね、本当に。

要するに、人間は誰かに必要とされたいのだと思うんですよ。誰かに必要とされている限り、人は生きていける。これは自分の体験からも感じています。だから、とにかく誰もが「ありがとう」と言われる社会、誰もが必要とされる機会、チャンスをつくりたい、そういう思いが根底にあります。

〈佐藤〉
自分は誰かに必要とされているんだという感覚が生きる力になる。僕も本当にそう思います。


(本記事は月刊『致知』2020年12月号 特集「苦難にまさる教師なし」の記事から一部抜粋・編集したものです)


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◇吉藤健太朗(よしふじ・けんたろう)
昭和62年奈良県生まれ。県立王寺工業高等学校卒業後、早稲田大学創造理工学部に進学。中学生の時、虫型ロボットコンテスト関西大会で優勝。高校時代は車椅子の開発で文部科学大臣賞、世界大会でエンジニアリング部門3位を獲得。自身が開発した分身ロボット「オリヒメ」は若者から高齢者まで幅広く活用されている。著書に『「孤独」は消せる。』(サンマーク出版)『サイボーグ時代』(きずな出版)などがある。

◇佐藤仙務(さとう・ひさむ)
平成3年愛知県生まれ。4年SMA(脊髄性筋萎縮症)と診断される。22年愛知県立港特別支援学校商業科卒業。当時、障碍者の就職が困難であったことに挫折を感じ、ほぼ寝たきりでありながら、23年にホームページや名刺の制作を請け負う合同会社「仙拓」(25年に株式会社に変更)を立ち上げ、社長に就任。著書に『寝たきりだけど社長やってます』(彩図社)『寝たきり社長佐藤仙務の挑戦』(塩田芳享著、致知出版社)などがある。公式YouTube「ひさむちゃん寝る」で情報発信中。

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