2021年11月09日
日本最大のビジネススクールとして知られるグロービス経営大学院。いまから28年前、30歳で同校を立ち上げた堀 義人氏は、最も経営が厳しかった創業期に書物を渉猟し、経営者としての核を築き上げたと言います。延べ2000冊以上にも及ぶ圧倒的な読書量を支える氏の読書法、そして最も心に残っている1冊とは――。
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腑に落ちるまで徹底的にまとめ読みする
僕はノンフィクションしか原則として読みません。なぜなら事実を綴ったもののほうが作り話より迫力をもって伝わってきて、断然面白いからです。成功者が過去にどんな逆境や試練、挫折、苦悩を乗り越えてきたのか。その体験を知ることが、各人の人生にとって重要な意味を持つと思うのです。
もっとも、読書の入り口としてはフィクションが適当でしょう。僕自身、小学生の時は探偵小説をよく読んでいましたし、高校時代も三島由紀夫の『仮面の告白』をはじめ、長編小説を随分読み耽ったことを覚えています。
高校では、進学校には珍しく選択制のゼミがあり、僕は現代国語のゼミを受講しました。受験勉強と全く関係なく、全員が自分の好きな本を読んできた上で、感想や印象に残った言葉などを1冊あたり1枚のレポートにまとめ、発表及び意見交換をする。それが僕には非常に刺激的でした。
ところが、京都大学工学部に進学して以降、住友商事に入社してからも、社内留学制度でハーバード・ビジネス・スクールに2年間留学した時も、読書から遠ざかった生活を送っていました。そんな僕が本当の意味で読書の面白さに目覚めたのは、グロービスを立ち上げた平成4年、30歳の時です。80万円を元手にアパートの一室に事務所を設け、ほぼ毎日徹夜の連続で仕事をしながらも、本を読み漁るようになったのです。
やはり志を立て、そこに向かって寸暇を惜しんで必死に打ち込んでいる時ほど本を求めるし、その言葉に力をもらえるのでしょう。
ハーバードで体系的に経営学は学んでいたものの、実際に会社を経営するとなると分からないことが山ほど出てくる。いまのようにインターネットがなかったため、一つのテーマにつき、関連する本を10冊から20冊、多い時は100冊以上、徹底的にまとめ読みをしていきました。
人はなぜ生まれて、何のために仕事をするのか。リーダーとして必要な素養は何か。人がついていく人間的な魅力とは何か。日本の歴史とは何か。日本人のアイデンティティーとは何か。密教とは何か。陽明学とは何か……。
このようなまさに『致知』が説く世界から、よい文章の書き方、スピーチが上手になる秘訣といった実用的なものまで、僕が求めてきたテーマは多岐にわたります。
シャワーを浴びるようにまずは頭の中に膨大な知識を入れ、そこから自分に必要な知識を取捨選択していく。自分にとっての「解」が見つかるまで、つまり腑に落ちるまで一つのテーマについて本を読み続ける。確固たる考え方が定まって初めて、次の違うテーマに移っていくという具合です。気がつけば、本棚には2000冊を超える書物が並んでいました。
この読書法はいまでも実践していることですが、最もハードワークだった創業期から経営が軌道に乗るまでの約5年間、真理を求めるために広く書物を渉猟したことは、僕の血となり肉となり、経営者としてのベースになる固有の視点をつくり上げたと思っています。
100回以上繰り返し読んだ本
僕は延べ2000冊以上の本を読んできたわけですが、その中で一番好きなのは『代表的日本人』です。
お読みになった方も多いと思いますが、この本は明治41(1908)年、キリスト教指導者の内村鑑三が日本人の素晴らしさを世界に知らしめようと、英語で書いたもので、その後、日本語をはじめデンマーク語やドイツ語に翻訳されました。第35代アメリカ大統領ジョン・F・ケネディの愛読書としても知られています。
取り上げている人物は、明治維新の立役者・西郷隆盛、米沢藩主・上杉鷹山、農政家・二宮尊徳、近江聖人・中江藤樹、日蓮宗の開祖・日蓮上人の5人。欧米人に分かりやすいよう、『聖書』の言葉や西洋の歴史的人物を例に挙げ、5人の生い立ちから時代の中で果たした役割までが綴られている名著です。
『代表的日本人』は日本や日本人を理解するのに最良の書ですし、ここに描かれている一人ひとりの生き方が実に深く、僕自身、100回以上繰り返し読みました。
例えば、西郷隆盛の次の言葉が紹介されています。
「命も要らず、名も要らず、位も要らず、金も要らず、という人こそもっとも扱いにくい人である。だが、このような人こそ、人生の困難を共にすることのできる人物である。またこのような人こそ、国家に偉大な貢献をすることのできる人物である」
これは命や名声、権力、お金などの欲を削ぎ落としていった時に、何が生きる目的、原動力になるかということを言っているのだと思います。自分の使命、生きる目的は何か。グロービスでは受講生にこのことを常に問い掛けています。(後略)
(本記事は月刊『致知』2016年7月号 特集「腹中書(ふくちゅう しょ)あり」より一部抜粋したものです)
◉月刊『致知』2021年12月号の特集テーマは「死中活(しちゅう かつ)あり」。堀義人さんに再びご登場いただき、これまで100回以上も繰り返し読んだという『代表的日本人』5人から具体的に何を学んだのか、熱く語っていただきました。同じく古典を愛読し、経営の第一線を歩んでこられた數土文夫さん(JFEホールディングス名誉顧問)との対談で、その学びは深まるばかりです。記事詳細はこちら
◇堀 義人(ほり・よしと)
昭和37年茨城県出身。61年京都大学工学部卒業後、住友商事入社。平成3年ハーバード大学経営大学院修士課程修了。4年住友商事を退社し、グロービスを設立。8年グロービス・キャピタル、11年エイパックス・グロービス・パートナーズ(現グロービス・キャピタル・パートナーズ)設立。18年グロービス経営大学院を設立、学長に就任。著書に『日本を動かす「100の行動」』(PHP研究所)『吾人の任務』(東洋経済新報社)など。