石原慎太郎氏「拭い去れない」原体験を語る ~ 誇りある豊かな日本への道

令和2年も残すところあと1か月。新型コロナウイルスの世界的感染拡大、アメリカ大統領選挙の迷走、中国の台頭……先行き不透明ないま、この現状を打破するためには日本の国家としての見識が強く求められます。誇りある豊かな日本を取り戻す活路はどこにあるのか。作家にして元東京都知事・石原慎太郎さんと、憂国の論客であった故・渡部昇一さんの対談をご紹介します。

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父に連れられて行った東京裁判

〈石原〉
実は私は、東京裁判を2回見に行ったんです。親父がどうやったか知らんけれど、切符をもらってきたので、隣の大学生のお兄さんに連れて行ってもらってね。〈渡部〉
ほう。

〈石原〉
最初に行った時は雨が降っていて寒い日だったんだけど、市谷の法廷に行って階段をカタカタ上っていたら、MP(憲兵)が「うるさいから履いているものを脱げ!」って言う。それで私は濡れた階段を下駄を抱えて上って、指定席に座って聴いていました。

あの時、買収されて検事側の証人として立ったのがいたでしょう、怪物と呼ばれてた……。

〈渡部〉
田中隆吉だ。

〈石原〉
そうそう。彼が証言をしていたのだけは微かに覚えているけれども、後はほとんど忘れてしまった。ただあの時の雰囲気というのは、非常に陰惨で屈辱的で、何ともやり切れないものがありましたね。

屈辱的な体験というのは他にもたくさんあって、例えば私の住んでいた逗子(神奈川県)には、当時は珍しい建坪百坪以上もある2階建ての海軍士官のクラブ水交社の建物があったけれども、そこが一朝にして変わってしまった。

戦争中は若い将校の遺骨を抱いた美しい未亡人がお葬式をやっていて、そこへ少年団の代表としてよくお焼香に行ったんだけど、そこが黒人の兵隊相手のパンパン宿になってしまった。通学でそこを通りかかると、腰巻き一枚でおっぱい出した女が黒人とふざけているんです。

それから終戦の翌年の夏に、逗子の商店街をアメリカの若い兵隊たちがアイスキャンディーをしゃぶりながら闊歩していてね。買い物をしている人がみんな軒に隠れるので、彼らはそれがおもしろくて大手を振ってやってくるわけです。

私は悔しいから、通りの真ん中を知らん顔して向かって行ったら、いきなり殴られた。アイスキャンディーでね。だから怪我も何もしなかったんだけれども。

ところが、あの頃の逗子は1万5千人ぐらいの町ですからね。噂がたちまち広がって、次の日に電車に乗ると、「石原大丈夫か、怪我しなかったか」といろんな人から声を掛けられた。石原は死んだという噂まであったんです(笑)。

〈渡部〉
それはおおごとだ。

〈石原〉
それが5日ぐらい遅れて私の通っていた湘南中学にも伝わりましてね。教頭と4人の先生に呼びつけられて、

「おまえ、なんてことしてくれたんだ。学校に迷惑がかかるじゃないか」

と言うから私は、

「あなた方はこの間まで、海軍士官になって玉砕しろと言ってたじゃないですか。随分おっしゃることが変わったものですね」

と言ったら、返事がなかった。そこに兵隊から帰ってきたばかりで僧籍のある先生がいて皆をたしなめ、

「我慢しろ石原、いまは我慢だ」

と言われてその場を収めてくれたけれども。

〈渡部〉
それに似たような悔しい思いをした人は、たくさんいたでしょうな。

〈石原〉
それから、終戦間近の下校時に艦載機に襲われて、仲間と麦畑の中に逃げ込んだことがあるんです。地上スレスレに迫ってくる爆撃機を見たら、若い10代のアメリカ兵だった。おそらくハンティング目的に襲ってきたんでしょう。私の友達はその時に撃たれて一生脚が不自由になりました。

私の中ではそういう原体験がどうしても拭い去れないから、戦後のいまの形の日米関係はどうしても素直には許容できないんです。

〈渡部〉
8月になると原爆慰霊祭があるでしょう。ところがいまジュネーブにいるうちの娘の話では、そこにくるジュネーブ勤務の日本人たちの子供は日本の学校で、日本が悪かったから原爆を落とされたと教わってきているそうです。そういう洗脳をやっているんです。

昔読んだ本に、原爆にやられて虫の息になった少年に兵隊さんが水をあげたら、「兵隊さん、きっとこの仇はとってください」と言って息を引き取ったとありました。だから原爆投下で亡くなった方々の一番の鎮魂になるのは、「仇を討つ」ことなんですね。

ところがこっちが原爆を落とすことはできない。落とした奴を捕まえて裁判することもできない。だから慰霊祭では何をすべきかといったら、復讐できないことを亡くなった方々にひたすら謝る式であるべきなんです。〈石原〉
ますます激しいね、あなたの発言も(笑)。

〈渡部〉
私が原爆で死んでいたとしたら、そうでもないと浮かばれないと思いますよ。

〈石原〉
私の家内のお父さんは、彼女が生まれる前に戦死して、お母さんも40代で亡くなったんだけれども、後から往復の書簡が出てきたんです。

それが美しい書簡でね。性の体験をしたばかりの初々しい若い夫婦が引き裂かれた時の、性への憧れも含めた愛着、煩悩、それを戦争がどんどん深みに追い込んで二人を切り離す過程がよく表れていて、涙が出るくらい美しい内容なんです。

そういうものが間近にあったりすると、先ほどからお話ししているような屈辱や過酷な体験とも重なって、それを一方的に強いたアメリカがお母さん然として、それに日本がずっとまとわりついてきたプロセスというのはとにかく耐え難いんだな。

現代史を教えよ

〈石原〉
なぜ日本がこんなことになったのかというと、やっぱり学校で現代史を教えていないからですよ。

私は外国人記者クラブのメンバーで、講師に招かれた人のおもしろい話をよく聴きに行くんだけれども、議員を辞める少し前に聴いた坂井三郎さんの話が非常に印象に残っているんです。

〈渡部〉
零戦のエースといわれた人ですね。

〈石原〉
坂井さんは、自分はあの戦争で片眼を失ったけれども悔いてはいない。敵をたくさん撃ち落としたことを誇りに思っておりますと。なぜなら、あの戦争のおかげで我々黄色人種も、中東やアフリカの人も独立して一国を構え、国連に参加できるようになったじゃないですかとおっしゃっていました。

他にもいろいろ印象的な話をされたけれども、その中にこれは大変だと思って後で坂井さんに電話をして、本当の話かと確かめたものがあるんです。

〈渡部〉
どんな話ですか。

〈石原〉
ある日、坂井さんが中央線に乗ったら通学で学生がたくさん乗っていた。最近の学生はどんな話をするのかと瞑目して聞いていたら、

「おい、日本とアメリカが40年前に戦争をしたそうだ。おまえ知ってたか?」
「えっ、まじぃ? で、どっちが勝ったの?」

と。いたたまれなくなって途中で電車を降り、ホームの隅で立て続けにタバコを2本吸いましたと。

〈渡部〉
本当の話なんですね。

〈石原〉
だから東京都の教育委員会に言って、来年から都立の学校では現代史、近代史の教科書を必ず教えさせるようにするんです。

〈渡部〉
あぁ、それはいいですね。

〈石原〉
何も礼賛することはないけれど、事実を事実として受け取ったらいいんでね。それをどう受け取るかは子供たちに判断させたらいい。

つまりね、まず自分のお父さんお母さん、祖父さん祖母さんが、自分が生まれる前に何をしたかということを知ること。

そこから国家社会というものも体感できるんだし、歴史に対する興味も湧いてくるんであって、これまでの歴史の授業のようにいきなり神武(じんむ)天皇や卑弥呼(ひみこ)の話をしたって、ちっともおもしろくないから何も身につかないと思うんです。


(本記事は『致知』2010年4月号 特集「発展繁栄の法則」より一部を抜粋・編集したものです)


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◇渡部昇一(わたなべ・しょういち)
昭和5年山形県生まれ。30年上智大学文学部大学院修士課程修了。ドイツ・ミュンスター大学、イギリス・オックスフォード大学留学。Dr.phil.,Dr.phil.h.c. 平成13年から上智大学名誉教授。幅広い評論活動を展開する。著書は専門書のほかに『これだけは知っておきたいほんとうの昭和史』『渡部昇一の少年日本史』『渋沢栄一 男の器量を磨く生き方』『国民の見識』など多数。平成29年逝去。

◇石原慎太郎(いしはら・しんたろう)
昭和7年兵庫県生まれ。一橋大学卒業。31年同大学在学中に執筆した『太陽の季節』で芥川賞受賞。43年参議院全国区に出馬。史上初の300万票を得てトップ当選。47年衆議院に転じ、以後環境庁長官、運輸大臣を歴任。平成7年衆議院辞職。11年東京都知事選挙に出馬、当選。現在3期目。主著に『化石の森』『生還』(いずれも新潮社)『弟』(幻冬舎)『国家なる幻影』(文藝春秋)など多数。共著に『「NO」と言える日本』(光文社)がある。

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