2021年11月16日
先進的なマーケティング手法で数多くの企業に活路をもたらし、日本のトップマーケターにも選出された神田昌典氏。IoTの普及や超AI時代の到来、そしてコロナ禍に伴うリモートワークの普及――経済・産業ともに大転換期を迎えているいま、未来に向かって進化していく企業はどのようにして生まれるのでしょうか。新時代のビジネスに求められる視点と会社に新しい命を吹き込む道を伺いました。
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未来へ向かうビジョンをいかに言語化するか
〈神田〉
コンサルタントとしての私の役割は、企業の進化を速やかに一貫性を持って根づかせることである。
私がお手伝いをさせていただいている年商400億円の中堅企業様は、2年間で株価が4倍になり、『日本経済新聞』の急成長ビジネスランキングでトップになり、さらに1年間で新入社員の離職率は半分に減った。
こうした実績を上げる際に最も重要な作業は、その会社の秘めている未来に向かうエネルギーを言語化すること、価値探索である。トップが会社のビジョンについて潜在意識で感じている、言語化できない言葉を引き出すのである。うまく引き出されたトップは、「そうなんだよ神田さん、私はそれをやりたいと思っていたんだよ」と顔を輝かせる。
その上で今度は幹部の方々にも同じ作業を行い、それまで声にならなかった思いを吸い上げていく。そこで自分たちの考えていたことが、社長の思いと同じであることに気づけば、会社は未来へ向かって力強く歩み始める。方向性が違う人は自然にいなくなるので、その下にいる若手が動きやすくなり、新しい価値の創造に力を発揮し始めるのである。
その会社が長い間積み重ねてきた歴史を、そのまま未来へ振り向けようとしてもなかなかうまくいかない。しかし、これを価値探索によって新しい形にリニューアルすることで、新しいマインドを持った若い世代が活躍できるようになり、そこへMAなどの新しい仕組みを導入すると簡単に売り上げは上がる。旧来の企業文化で凝り固まっていては、いつまでも新しい一歩を踏み出せないので、その企業文化を未来に向けてスイッチしなければならないのである。
ある人気外食チェーンでは、2年前に創業者から2代目へと事業が継承された。創業者は、営業エリアを関東に限定するドミナント戦略で、同社の成長を見事に実現させた。しかし、今後も成長を持続していくためには、アジアを視野に入れた営業展開が必須であったが、二代目は提供するメニューが外国人の嗜好に合わないと考え二の足を踏んでいた。
そこで、創業者が築いた企業文化を改めて突き詰めていくと、その本質は関東に留まることでもなく、ドミナント戦略を実施することでもなく、同社ならではのお客様がくつろげる空間、従業員が安心して働ける環境にこそあることが分かった。加えて、メニュー開発が各店の店長に一任されていたことで、地域に根ざして積極的に料理のイノベーションが行われる強みもあった。
海外でも十分通用する強い遺伝子を持っていることを認識した同社は、アジアへの進出を決断。当初は苦労もあったが、現地にうまく溶け込むことができ、店はたちまちブレークした。
このように、それまで培ってきた企業文化の検証を進めていけば、停滞した会社もまだまだ伸びる力を秘めていることが分かる。特に、事業継承を機に若い世代を生かせる場をうまくつくることができれば、会社を再び成長の軌道に乗せることが可能なのである。
2033年には会社がなくなる
企業文化を未来へ向けて再構築していく上では、今後の社会の趨勢について的確な見通しを持っておくことも重要である。
ちなみに私は、2033年には会社がなくなるという大胆な予測を立てている。いま政府が進めている働き方改革が浸透していくと、各人が場所を選ばず自由に働くことができるようになる。お金をもらうために、行きたくもない会社に無理して通う必要がほとんどなくなってしまうのだ。
そうなると、企業文化がしっかりしていない魅力に乏しい会社は、どんどん淘汰されていくだろう。居心地のよい、自分に明るい未来をもたらしてくれる会社にしか人は集まらなくなるだろう。それはもはや、宗教的な組織に近いものになるかもしれない。会社は、そのくらいに魅力に富んだ企業文化を構築していかなければ、存続が難しい時代になると私は考える。
短期的に売り上げを伸ばすことは簡単である。例えば、それまで自社の商品に使っていたキャッチフレーズを変え、それまで見えなかったその商品の隠れたよさに光を当てれば、成約率はすぐに上がるだろう。ただ、それは一時的に疲労感を忘れさせるだけの栄養ドリンクのようなものである。
それよりも大事なことは、いかにして会社全体をよくしていくかである。そこを怠ったまま売り上げだけ伸ばしても、たちまち「うちの会社はブラックだ」といった不満が噴出するばかりである。
マーケティングの神様と呼ばれるフィリップ・コトラーは、マーケティングは1.0、2.0、3.0と進化を遂げ、最近は4.0のフェーズに至ったと説いている。
マーケティング1.0は、自社視点のマーケティング。自社商品のシェアをいかに拡大していくかを考える段階である。2.0は、どうすればお客様に満足してもらえるか、顧客満足を追求するレベル。3.0では、自社の事業を通じて持続可能な社会の実現にいかに貢献するか、地球視点で目指していく。
マーケティングは過去50年でこうした進化を遂げ、近年はマーケティング4.0、個人が社会といかに調和しているか、自分の内面の思考と行動がどのように調和しているかを追求する自己実現のフェーズに入ったと言われている。
会社は業績が落ちると、コスト削減などの付け焼き刃的な対応に終始してしまいがちだが、それでは根本的な解決にはならない。1.0~4.0へと進化を遂げてきたマーケティングの局面をトータルで理解、実践し、未来を見据えた事業に取り組んでいかなければ、顧客はどんどん離れていってしまうだろう。
その意味でも、社内に無意識のうちに埋もれている付加価値、未来へ向かうエネルギーを言語化すること。これこそが売り上げを飛躍的に伸ばすマーケティング手法になるというのが、私の20年に及ぶコンサルティング活動の結論である。
その作業を通じて、会社と自分の将来ビジョンの一致を見た社員は、安心感を持って仕事に打ち込むので社内の協力関係が高まる。そこから生まれた言葉は顧客の琴線に触れるものにもなる。そうした社内マネジメントシステム、顧客との共創関係をつくれるか否かが、会社が新しい未来を開く上での大きなポイントになるのである。(後略)
(本記事は月刊『致知』2017年11月号 特集「一剣を持して起つ」から一部抜粋・編集したものです) ◎各界一流プロフェッショナルの珠玉の体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。あなたの人間力を高める、学び続ける習慣をお届けします。 たった3分で手続き完了、1年12冊の『致知』ご購読・詳細はこちら。 ≪「あなたの人間力を高める人間力メルマガ」の登録はこちら≫
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◇神田昌典(かんだ・まさのり)
昭和39年埼玉県生まれ。上智大学外国語学部卒業。在学3年次に外交官試験に合格し、4年次より外務省勤務。その後、ニューヨーク大学経営学修士及びペンシルバニア大学ウォーオンスクール経営学修士(MBA)取得。コンサルティング会社を経て、平成7年米国ワールプール社日本代表に就任。10年経営コンサルタントとして独立。現在アルマクリエイションズ代表。著書に『口コミ伝染病』(フォレスト出版)『2022――これから10年、活躍できる人の条件』(PHPビジネス新書)『稼ぐ言葉の法則』(ダイヤモンド社)など。