ウクライナ人から見たロシアの本質、プーチン大統領の正体——グレンコ・アンドリー

戦後70年以上経ってもいまだ返還されない北方領土。北方領土返還のためには、ロシアという国そのものの認識を変えなければならない――そう主張するのはウクライナ出身の国際政治学者であるグレンコ・アンドリーさんです。ロシアとはいかなる国であり、日本人はどう向き合えばよいのか、ロシアに蹂躙された祖国・ウクライナの事例を交えて教えていただきました。

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弱い国家は侵略される

2014年2月、ロシア軍がウクライナに侵攻し、クリミア半島と東部のドネツィク州、ルハーンシク州の一部を一方的に占領したことは世界に大きな衝撃を与えました。ロシアの行為は国際的にも認められておらず、現地ではいまも戦闘が続いている状況です。その経緯は、歴史的にも政治的にも非常に複雑ですが、ごく簡単に説明すると次のようになります。

当時のウクライナ政権は、親露派であるヤヌコーヴィチ政権でした。しかし、ヤヌコーヴィチ政権がEU(ヨーロッパ連合)と協力協定を結ぼうとしていることを知ったロシアは猛反発。結局、ヤヌコーヴィチ政権は、ロシアの圧力に屈する形でEUとの交渉を中止せざるを得なくなりました。

これに対して、独立派による抗議デモが広がっていきましたが、親露派政権がそのデモを暴力で封じ込めようとしたために国民の怒りは政権そのものに向けられていきます。

最終的に、ウクライナの首都・キエフを中心に多くのデモ参加者が犠牲となる大規模な衝突が起こり、厳しい批判に晒されたヤヌコーヴィチはロシアに亡命を余儀なくされました。

すぐに新しい大統領代行が就任したものの、政府のすべての権力機構を把握するには数週間かかります。その権力の空白、政治的混乱に乗じてウクライナに侵攻してきたのがロシアだったのです。

政情が混乱していたとはいえ、なぜウクライナはこんなにも簡単にロシアの侵攻を許してしまったのか。一つには、ウクライナが特に軍事、安全保障の問題を蔑ろにしてきたことが挙げられます。

ウクライナでは、安全保障に対する国民の関心が低く、軍の内部は汚職で腐敗し、軍の戦闘能力はどんどん低下していました。さらに2010年に始まった親露派政権の間には、ロシア国籍を持つ人物が防衛大臣に任命されるという前代未聞の事態も起きました。

ウクライナが安全保障を蔑ろにしてきた理由は、独立の経緯にあると私は考えています。

もともとウクライナはソ連に属していました。しかし、1991年にソ連が崩壊したことによって、いわば天の恵みのように独立が与えられたわけです。ウクライナ人は、独立運動や武力を行使して独立を勝ち取ったわけではないため、民族としてのアイデンティティや自国の独立は自分で守るという意識が希薄なのです。

それはいまの日本にも言えることです。日本では、自衛隊が人道支援のため海外に派遣されるだけで大騒ぎをし、自衛隊が軍隊であると言うことすらできない状況にあります。また、法律があるわけでもないのに武器の開発を制限したり、「防衛費はGDP比の1%以内に収める」という暗黙のルールをいまだに守っています。

自国の安全は自分たちで守るという意識がない、まともな安全保障の議論ができないという点で、日本とウクライナは共通しています。

ただ、ウクライナの脅威はロシアだけですが、日本は中国や北朝鮮、ロシアなど多くの脅威、凶暴な国家に囲まれています。ウクライナよりも危機的状況にあるのが日本なのです。このまま空想的平和主義、平和ボケから脱することができなければ、日本もウクライナと同じ道を辿ることになりかねません。

ロシアの本質

隣国としてロシアに向き合ってきたウクライナ人だから言えることですが、日本は特にロシアに対して間違った認識、大きな幻想を抱いているように思います。いま安倍晋三首相が取り組んでいる北方領土交渉も、いまの認識のままではうまくいかないでしょう。 

まず日本人が知っておかなくてはならないのは、ロシア人の領土に対する執着の異常さです。領土というのはロシア人にとって血肉のようなものであり、彼らはどんな辺鄙な土地でも、一切譲ってはならないと考えているのです。 

また、ロシア人は民族の違いをさほど意識しません。新しく手に入った領土に住む民族は皆、広大な帝国の一員であるとみなし、例えば現地の貴族にロシア貴族の称号を与えるなどして、どんどん同化していくのです。ですから、ロシアは無限に領土を拡大していこうとする傾向を持っています。 

ロシア人の領土執着がいかに異常かについては、他国との比較よりも、むしろロシア本国の地理的条件が多くを語っています。ロシアの国土面積は約1700万平方キロメートル、中国の約2倍の面積を有していますが、その多くは未開発のまま放置されています。 

にも拘らず、ロシアは北方領土やクリミア半島など新たな領土を欲しがり、現在、不法占拠している他国の領土の返還を無条件に拒否する。常識的に考えれば、北方領土やクリミア半島などに固執するよりも、膨大なロシア大地の開発に注力したほうがよほど自国の発展に繋がるはずです。 

既に持っている土地を未開発のまま、新たな領土拡大を夢見ている―ロシア人が昔から持っているこのような思考を日本人はよく認識しておく必要があります。 

それから、ロシア人は独特な歴史認識を持っています。彼は自国の歴史についてこのように言っています。「我われにはよい歴史も悪い歴史もない。あるのは我が歴史のみだ」と。つまり、どんなに酷い歴史でも自国を正当化するのです。自分の過去については一切、間違いを認めないことがロシア人の歴史認識の基本です。 

その著しい例はスターリンへの歴史的評価です。ロシアの歴史認識では、スターリンは祖国を第二次世界大戦の勝利に導き、産業化・近代化を実現して強い国家を築いた偉大な指導者として高く評価されています。スターリンが行った虐殺や民族浄化などすべての犯罪が「強い国家を築く過程において、やむを得ない犠牲であった」と正当化されているのです。

 そして、現在のロシア人にとって、最も重要な歴史的な出来事は第二次世界大戦の勝利です。その勝利はいわば「精神的な拠り所」といってもよいでしょう。ですから、ロシア人からすれば、第二次世界大戦の勝利の結果として手に入れた北方領土は絶対的なものであり、議論する余地も妥協する余地もないのです。

 最後にもう一つ、日本人が目を覚まさなければならないのが、プーチン大統領への幻想です。

日本にいると、プーチン大統領は親日家であり、安倍首相と相性がよいから北方領土もやがて返還されるだろうという議論をよく耳にします。

 しかし、プーチン大統領が親日家であるという客観的な根拠はどこにもないのです。柔道も自己防衛の手段としてやっているだけに過ぎず、日本から贈られた秋田犬と戯れているのも外交的儀礼、パフォーマンスに過ぎません。 

実際のプーチン大統領は典型的な大国の強権的指導者であり、強いものを尊敬し、弱いものを見下す徹底した力の信奉者です。歴史認識においても、第二次世界大戦の結果を絶対視しており、日本を敗戦国として完全に見下しています。

 現在の北方領土交渉においても、日米同盟の破棄など次々と要求をエスカレートさせているのがその証拠です。弱い国とはまともに交渉しないのがロシアであり、プーチン大統領なのです。

(本記事は2019年10月号 連載「意見・判断」より一部抜粋したものです)

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◇グレンコ・アンドリー
1987年ウクライナ・キエフ生まれ。2010年から11年まで早稲田大学で語学留学。同年日本語能力検定試験1級合格。2012年キエフ国立大学日本語専攻卒業。2013年京都大学へ留学。20193月、京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程指導認定退学。アパ日本再興財団主催第9回「真の近現代史観」懸賞論文学生部門優秀賞(2016年)。ウクライナ情勢、世界情勢について講演・執筆活動を行っている。著書に『プーチン幻想』(PHP新書、2019)、『ウクライナ人だから気づいた日本の危機』(育鵬社、2019)がある。

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