2020年07月20日
元海兵隊、歴史家として独自の視点と情報源からアメリカ政治、国際情勢に対する鋭い評論を続けているマックス・フォン・シュラーさん。日本在住の親日家でもあり、日本文化への深い理解から、この激動の時代の中で日本が持つ使命、とるべき具体的な方策も積極的に提言してきました。本連載では全4回にわたり、日本人が知らない超大国・アメリカの真実、覇権への道を歩む中国、混乱を深める朝鮮半島の未来、そして日本復活の道筋を紐解いていただきます。連載第4回(最終回)は、激動する国際社会の中で、日本が取るべき具体的戦略、進むべき道について語っていただきます。
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アメリカ軍は助けに来ない
第1回から第3回まで、アメリカ、朝鮮半島、中国と、日本の将来に大きな影響を与える国々のいまを概観してきました。日本を取り巻く状況がこれまでにないほど危機的なものになっていることがお分かりいただけたかと思います。
では日本は具体的にどうすればよいのでしょうか――。この第4回(最終回)では日本の進むべき道について、私なりの考えを述べたいと思います。
まず最初に言っておきたいのは、有事が起こった時に、もはやアメリカは日本を守れないということです。混乱する内政面においてもそうですが、軍事面でもアメリカは非常に厳しい状況にあります。勢いを増す左派の活動、ポリティカル・コレクトネスやフェミニズム運動の高まりは、アメリカ軍にも深刻な影響を与えています。
軍隊は当然、戦争を遂行し、敵を殲滅させる強い人間を養成することを目的としています。もちろん、性別による不当な差別はなくさなければなりませんが、重い武器・弾薬類を運んだり、精神的・肉体的に過酷な環境での長期にわたる任務に従事したりと、軍隊では男性に適した任務が多いことは確かです。しかし、アメリカのフェミニストは、そうした男性中心の文化は差別主義であり、崩壊させなければならないと主張しているのです。
例えば、フェミニストたちは、「現代の戦争では、ボタンの操作で兵器を扱うため、肉体的な戦いは必要ない、だから女性でも前線で戦うことができる。女性を前線に配置しないのは性差別だ」と考えています。
数年前に読んだ本の中に次のような話が紹介されていました。ある会議でアメリカ軍の大佐がフェミニストたちに軍隊内のルールを説明していました。それは女性が危険な戦場にいくことを禁止するルールでした。
「なぜ女性パイロット(ヘリコプター)を武器などの輸送に使わないのですか?」と質問したフェミニストに対して、大佐は「ヘリコプターは危険な前線基地へも飛ぶことがあるからです」と答えました。すると、そのフェミニストは「輸送だけなら危なくない。あなたは差別主義者だ!」と激しく反論しました。フェミニストたちは現実の戦争がどういうものであるのか全く分かっていないのです。アメリカのフェミニストたちは自分たちの意見を強く持ち、他人の意見を聞こうとしません。非常に利己的です。不満があれば、すぐに激しいデモを行います。
実際、フェミニストたちはベトナム戦争の時代から、アメリカ軍を弱体化させる努力をしてきました。フェミニストには高学歴でエリート層の女性が多いため、政治的な権力を持っています。その権力を利用して軍隊を変化させてきました。特に民主党のオバマ政権は、半ば強制的に女性を軍隊に入隊させることを認めさせました。そのため、アメリカ軍では能力のある軍人が性差別主義者とみなされて解任されたり、実力を無視した待遇にあきれて除隊してしまう事態になっています。
アメリカ軍の混乱を示す事件が近年、次々と起こっています。一例として、2017年、アメリカのイージス艦フィッツジェラルド号が東京の西南で貨物船と衝突する事故がありました。宇宙まで届くレーダーを備えたイージス艦が衝突コースに入った貨物船に気づけなかったということはあり得るでしょうか? これはその任務を遂行する能力のない人材が責任ある立場に立っているとしか思えません。
加えて、アメリカ軍に新型コロナウイルスの感染が広がり、その能力は大きく損なわれています。日本はこの先、アメリカ軍は軍事的な機能不全に陥る可能性があること、あるいは限られた人数・部隊で日本を防衛しなくてはならないという事実をしっかり認識し、自らの国は自ら守るという気概を取り戻す必要があります。
はっきりいえば、日本はもういいかげんに憲法九条を改正しなくてはいけません。元海兵隊の私からすれば、憲法九条が日本を守ったことはない。日本を守ってきたのは、自衛隊と在日米軍の結束であり、軍事力による抑止です。中国が尖閣諸島に上陸してこないのは、日本の海上保安庁が巡視を怠らず、その後ろに海上自衛隊が控えているからです。憲法九条があったからではありません。日本人一人ひとりが一日も早くこの現実に目を覚ますことを願ってなりません。
日本人らしさが日本の未来をつくる
外交面においては、中国の脅威、来るべき朝鮮半島有事に備えて、価値観を共有する国々との連携を強化していく必要があります。中国との係争を抱えるインドや台湾、何度も侵略された歴史から中国に対抗意識を持つベトナムなどアジア諸国はもちろん、私が特に重要だと見ているのがロシアとの関係です。
一見、ロシアと中国は緊密な関係にあるように思えますが、近年、中国人が多数シベリア地方に移住しており、ロシアはその対応に苦慮しています。日本がシベリア投資を提案して進めれば、ロシア側にも大きなメリットがあるでしょう。そのようにロシアを日本側に引き寄せていくことは、中国への強い牽制になります。
そして何より私が伝えたいのは、日本人が日本人としての特性、自国の伝統や文化の素晴らしさに気がつくことです。その日本人の特性は今回の新型コロナウイルスの感染拡大を「自粛要請」という世界でも例を見ない方法で乗り切ったことにも表れています。
例えば、ある居酒屋がコロナ禍でお客さんを呼べないために、お昼にラーメンをつくって提供していました。つまりどんな状況でも「いまあるもので何ができるか」をごく自然に皆が考えて行動しているのです。幕末にペリーがやってきた時も、日本人はすぐにそれらの技術をコピーして、あっという間に世界の大国へと成長しました。正直、欧米人はそうした日本人の力を称賛と共に恐れています。
企業活動においても、日本では大企業の社長が社員と一緒に社員食堂で食事をすることがあります。さらに、給与も社長と一般社員の格差が世界と比べて非常に小さい。こんなことは欧米では考えられません。アメリカでは会社が破産しても自分は高額な給与をもらい続ける社長が普通にいます。自分さえ儲ければ会社や社員はどうなってもよいのです。また、社員が病気になっても日本ではすぐに解雇せず、何とか働き続けられるようにサポートしてくれます。アメリカでは病気になったらすぐに解雇されてしまいますし、高額な医療費で満足に病院にもいけません。日本とアメリカ、どちらの企業で働きたいと思いますか?
それから、このコロナ禍においては、海外からの観光客や大型のショッピングセンターに頼るのではなく、昔からある商店街やローカルなコミュニティーの中で生活を成り立たせていく社会を構築することも必要だと思います。鎖国をしていた江戸時代を調べてみると、まさにそうしたローカルな経済、コミュニティーの中で人々がお互いに助け合い、幸せに暮らしていたことが分かります。
中世ヨーロッパ、特に中世のイタリアでは、黒死病の流行によって多く人が亡くなりましたが、その困難の中からルネッサンスが巻き起こりました。日本もまたこのコロナ禍という困難の中から、「日本人とは何か」を真剣に問うていくことによって、新しい素晴らしい文化、革新的な生き方が次々と生まれてくるはずです。
日本はアメリカの真似をする必要はありません。皆さんが素晴らしい世界の先進国、自由の国だと称賛するアメリカは、いま民族や性別を異にする様々なグループができ、国家が、人々が分断され、崩壊の危機に瀕しています。
これから厳しい時代が押し寄せてきます。日本人はいまこそ目覚める時です。長く日本に暮らしてきて実感するのは、日本は世界で最も力を持った国であり、私の知る限り日本人は世界で最も革新的な民族だということです。日本人はこの国、この大きな家族を自分たちの力で守らなければなりません。これが心から日本を愛する私からの最後のメッセージです。日本の明るい未来を私は信じています。
★マックス・シュラ―氏限定連載「第1回」【分裂と崩壊の危機にあるアメリカ】はこちら
★マックス・シュラ―氏限定連載「第2回」【迫りくる朝鮮半島の動乱に備えよ】はこちら
★マックス・シュラ―氏限定連載「第3回」【覇権か混乱か—中国への警戒を怠るな】はこちら
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◇マックス・フォン・シュラ―
1956年アメリカ・シカゴ生まれ。1974年に岩国基地に米軍海兵隊として来日、アメリカ軍の情報局で秘密調査などに従事。退役後は、国際基督教大学、警備会社、役者、ナレーター等、日本国内で幅広く活動する。著書に『アメリカ人が語る 日本人に隠しておけないアメリカの"崩壊"』『日本に迫る統一朝鮮の悪夢』『アメリカ人が語るアメリカが隠しておきたい日本の歴史』(いずれもハート出版)などがある。YouTube公式チャンネル「軍事歴史がMAXわかる!」でも情報発信中。