昭和と平成の大横綱 “二鵬„ が語り合った「相撲と人生」――第四十八代横綱・大鵬 × 第六十九代横綱・白鵬

2010年、双葉山の69連勝に肉薄する歴代2位の連勝記録を打ち立てた第六十九代横綱・白鵬。その白鵬が横綱の先輩として、また人生の師として慕ったのが、2013年長逝された故・納谷幸喜氏(大鵬)です。ともに相撲道を極めんとする両横綱が語る、相撲と人生の本質とは――。2011年に行われた伝説の初対談を一部抜粋してお届けいたします。

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出発点としての名前――伝説の鳥「鵬」

〈白鵬〉 
実は、私は前から「鵬」という字はすごいなと思っていたんです。
というのも、横綱の土俵入りには雲龍型と不知火型がありますが、雲龍型で一番多く優勝したのは大鵬親方で、不知火型では私なんですよ。

〈大鵬〉 
ああ、そう?

〈白鵬〉 
はい。だから「鵬」はすごい名前です。

〈大鵬〉 
大鵬の「鵬」というのは、中国古典の『荘子』にある「逍遥遊」が由来だと聞いています。
北冥(北の海)に「鯤(こん)」という、幾千里あるか分からないほどの大きな魚が棲んでいて、それがひとたび鳥と化すと、その名前が「鵬」となって、翼を広げると三千里、ひとっ飛びに九万里も飛ぶ、という話がある。おまえは北海道の出だし、これから飛躍が期待されているから、「大鵬」という四股名がぴったりだ、と師匠がつけてくれました。

〈白鵬〉 
「白鵬」の「鵬」は、まさに大鵬親方からいただきました。
大鵬親方と柏戸関が活躍されていた頃、「柏鵬時代」と呼ばれていましたが、お二人に肖ろうと、うちの部屋のマネジャーが、最初は「柏鵬」とつけてくれたんです。だけど、あまりにも偉大な名前だけに、活躍できなかったらどうするのかと(笑)。それで私の肌の色が白いものだから、「木」を取って「白鵬」となりました。
いま思うと、入門したての自分に、マネジャーもよく「柏鵬」なんてすごい名前をつけようとしたものだなと(笑)。だって当時は体重68キロしかなくて、新弟子審査の基準体重にも及ばない、もやしのような少年だったんですよ。

〈大鵬〉
私も入門当時はものすごく痩せていたし、双葉山関も痩せていたそうです。それを稽古に稽古を重ねて、体をつくっていったんですよ。相撲とは、本来そういうものだと思います。単に体重があればいいというものでもないですよ。だからそういう人が努力を重ねて強い横綱になるところが、相撲の面白さですよ。

何の変哲もない 土俵から何を学ぶか

〈大鵬〉 
私は弟子たちには「相撲社会に入ったら、一般社会の考えは捨てろ」と言っています。要するに、「相撲バカ」になれということです。愚直に体を痛めつけて、自分の体で覚えろ、自分の体で体得せよ、と。

みんな夢だとか目標だとか言うけれども、そういうことではないよと。毎日毎日同じことの繰り返し。コツコツ、一つのことを繰り返し続けることです。大事なのは何の変哲もない丸い土俵から何を学ぶか、ということですよ。いろいろな人に会って話をするのもいいけれども、自分の心ができていないのにいくら話を聞いてもそれ以上のことは吸収できません。相撲取りが心をつくるのは、土俵でしかないんです。

〈白鵬〉 
相撲や武道は「心・技・体」が大切だといわれますが、「体・技・心」でもない、「技・体・心」でもない。やっぱり心が一番上です。体をつくることや技を磨くことと比べて、心を育てるのは難しい。だけれども勝つためには心が8割、技が2割、体はゼロじゃないかと思います。

〈大鵬〉 
だから、不動心もそうだし、「忍」も刃に心。大切なのは心だという意味でしょう。

〈白鵬〉 
心は一番大切だけれども、目に見えないから、忘れないように「心・技・体」と一番上にあるのかもしれません。

〈大鵬〉 
相撲は真剣の勝負と一緒です。土俵の俵が剣が峰、刃なんです。そこから出たら死ぬということですよ。特に横綱にある間は、土俵から出たら死ぬんだというくらいの気持ちで取り組んできました。しかし、勝とうという気持ちがなかったら勝てないけれど、逆に勝とうという気持ちが強すぎると、固くなって負けてしまう。本当にその心の置きどころが難しい。

〈白鵬〉
相手もみんな厳しい稽古を積んできた関取ですから、横綱とはいえ、ちょっとでも気持ちが弱くなって相手に自分の型に持っていかれたら負けます。

〈大鵬〉
結局、その心を調節できなければ負けるわけです。
調節できるようになるためには、やっぱり自分の体で稽古をするしかないと思います。稽古でつらい思いをして、本場所で勝った負けたで悔しい思いをして、それが全部自分の身になるわけだから。

〈白鵬〉 
双葉山関が名言を残しています。
「稽古は本場所のごとく、本場所は稽古のごとく」
こういう境地を目指して稽古と本場所に取り組んでいくということですよね。

心の置きどころという意味では、私は「流れ」というものを大事にしています。土俵では無心になり、流れに従って体が動くに任せるのが理想です。ただ、その「流れ」は土俵の上だけでなく、普段から規則正しい生活をすることやルーティンを守ることも一つの「流れ」だし、細かいことを気にせず、無の境地に達する準備をしておくことも流れ。つまり、場所前の流れ、場所中の流れ、場所後の流れというのが、すべてあの何秒かで繋がっている。そのように考えています。

だからおっしゃるとおり、稽古だからどうとか、本場所だからどうということなく、一瞬一瞬の心の置きどころが相撲の勝敗を決めるし、それが積み重なって相撲人生が決まるわけです。

〈大鵬〉 
だから、人生は死ぬまで勉強っていうことでしょうね。

(本記事は月刊『致知』2011年11月号 特集 「人生は心一つの置きどころ」より一部を抜粋・編集したものです)

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◇納谷幸喜(なや・こうき)(大鵬)
――昭和15年樺太生まれ。20年に日本に引き揚げ北海道・岩内町に落ち着く。31年、16歳で二所ノ関部屋に入門。35年初入幕。この年初優勝し大関に、翌年には柏戸とともに横綱に昇進し大相撲の黄金期を築く。38年には初の6連覇、42年には2度目の6連覇を果たす。46年引退し、その後は一代年寄として国技の発展に尽くす。著書に『巨人、大鵬、卵焼き』(日本経済新聞社)などがある。平成25年逝去。

◇白鵬翔(はくほう・しょう)
――本名ムンフバト・ダヴァジャルガル。1985年モンゴル国ウランバートル市生まれ。2000年来日し、宮城野部屋入門。2001年初土俵を踏む。2004年1月新十両昇進、同年5月には初入幕。2006年大関、2007年横綱昇進。2010年は63連勝(史上2位)、年間86勝4敗(史上最高)を達成。著書に『相撲よ!』(角川書店)などがある。

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