2024年01月29日
チアリーディングの甲子園といわれるジャパンカップで9連覇、合計30回以上もの全国制覇を果たしてきた箕面自由学園高等学校チアリーダー部。チーム創設時から指導に携わってきた野田一江さんは、当初はチアリーディング未経験の音楽教師だったといいます。コーチを含めたほぼ全員が未経験から出発したチームは、いかにして全国屈指の強豪になったのか――。野田さんの指導哲学をお話いただきました。
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150%の練習をしなければ本番で100%の力は出せない
――野田さんの率いる箕面自由学園高校のチアリーダー部、通称「ゴールデンベアーズ」は、チアリーディングの甲子園といわれるジャパンカップ高校部門での9連覇を含め、合計35回も全国制覇を果たしてこられたそうですね。
〈野田〉
ちゃんと数えてはいませんけど、たぶんそのくらいになると思います(笑)。ジャパンカップや高校選手権大会といった全国大会以外にも、西日本大会、関西大会、アジア大会など、たくさんの大会に出させていただいていますから、全部足したらもっとすごい数になりますね。
大会ばかりでなく、もともとはアメフトの応援のために結成したチームなので、いまも応援には必ず行っていますし、他にも毎週何かしらのイベントに参加していて、活動はとても充実しています。
――『致知』では以前チアダンスの記事を紹介しましたが、チアリーディングは別の競技なのですね。
〈野田〉
チアダンスは基本的にダンスですが、チアリーディングはチア・サイドラインといった掛け声やアームモーション、特殊なジャンプ、タンブリング、組体操技術であるパートナースタンツやピラミッドなどアクロバティックな技の連続で、大会ではこれを2分20秒から2分30秒という時間の中で表現するんです。これより僅かに長くても短かくても減点になります。
――演技を拝見しましたが、皆さん見事に呼吸が合っていますね。
〈野田〉
動画をチェックしては、ひたすら反復練習して仕上げていくんです。本番は緊張しますから出せる力はせいぜい八割。普段から150%出すつもりで練習しておかないと、100%のパフォーマンスは絶対にできません。「限界を超えるような練習をしなさい」といつも言っています。
うまくいかないのはコーチのせいや
――指導者として大切にしてこられたことは何ですか。
〈野田〉
一番必要なのは、生徒に対する愛情ではないでしょうか。それから謙虚さ。生徒と一緒に練習することで、自分自身も成長させてもらっているんですから、教えてあげているという感覚は絶対に持ってはいけないと思っています。
また、今回新型コロナウイルスの問題に直面して実感しているのは、現実を受け止める包容力の大切さです。うまくいかないことに対して、こんなはずじゃなかったと愚痴を言っていても前へ進めないので、いったん受け止めて、じゃあどういう作戦でいこうかと考えることが大事だと思います。
――指導者として、特に影響を受けた方はいらっしゃいますか。
〈野田〉
先程お話ししたアメフトの富田秀司監督がとても大きな方でしてね。指導を始めた頃にはなかなかうまくいかなくて、その方の前でつい愚痴が出てしまうこともありました。慰めてくれるかなと思ったら、「うまくいかないのはコーチのせいや。成功したら生徒の手柄。それをちゃんと考えるべきじゃないのか」とおっしゃったんです。要するに言い訳をしないことだと。これも私が指導者として大切にしてきたことです。
もう一人は、私の母校である京都堀川音楽高等学校の大先輩で、世界的なドラマーのツトム・ヤマシタさんです。私の高校時代に学校に来られて一緒にお食事する機会があったんですけど、その時に「道が2つあったら、必ず困難なほうを選んだほうがいいよ」って教えていただいたんです。
その時は全く意味が理解できませんでしたけど、指導者になって「あっ、本当にその通りだ」って心に蘇ってきたんです。困難に直面した時、私はいつもこの言葉に背中を押されてきました。
そうしたかけがえのないご縁や教えに恵まれて、創部から6年経った平成9年に日本一になることができたんです。
周りのことを思える人間を育む
〈野田〉
また、チアリーディングは自分さえよければいいという競技ではありません。一つ間違えたら大怪我をする危険な面もあります。ですからお互いの信頼関係を築くために、ミーティングには特に力を入れています。
――ミーティングは具体的にどのように進めておられるのですか。
〈野田〉
基本的には、練習の後に必ず15分。あとは朝練の時に話をしたり、お昼ご飯を一緒に食べながら話をしたりします。
「チアノート」という日誌も活用します。15年くらい前から続けているんですけど、その日の食事の内容、体重、きょうの褒めポイントとダメポイント、一日の感想。さらにメンタル面はどうだったか、練習内容はどうだったか、勉強はしっかりできたかといった項目もあって、そこに書き込む内容に一人ひとりの個性が表れるんです。
1月の高校選手権大会で外された3年生のキャプテンは、最初は大会に出られない葛藤を書いていましたが、そのうち「自分は皆のためにどうしてあげたらいいんだろう」と、書く内容がまるでマザー・テレサみたいになっていきました。彼女の成長が感じられて、胸が熱くなりましたね。
――試合で勝つこと以上に、大きなものを掴まれたのですね。伸びる生徒と伸び悩む生徒の違いは何でしょう。
〈野田〉
いま時の子は、人から注意されることに慣れていません。失敗して注意されるのが嫌だから全力でやらない子がいるんですけど、そういう子はなかなか伸びませんね。人の注意を「ありがとう」って聞ける素直さが大切です。
それから、チアリーディングはチームプレーですから、周りのことをどれだけ思えるか。自分が皆のためにどれだけ役に立てるかを考えられることが大事です。そういう子は、自分の課題にもちゃんと向き合うことができるし、周りを巻き込んでチーム全体の士気を高めていくこともできます。
――技術以前に、そうした心構えの部分がとても大切なのですね。
〈野田〉
そうですね。ですから生徒には入部した日に「クラブ活動で活躍できるのは、あなたたちが偉いからじゃない」と言うんです。「ご両親が学校に入れてくれて、クラブ費を払ってくれて、支えてくれるからできるんだよ。だからきょう家に帰ったらご両親の前で正座して、箕面自由学園に入れていただき、クラブ活動をさせていただいてありがとうございますと頭を下げてきなさい」と。
その謙虚さがないとダメです。「うちは日本一のチームにおるねん」という感覚では、周りから絶対愛されません。「この子らを応援してよかったな」って、サポートしていただく方々に思ってもらえる人間でないとダメですね。
(本記事は月刊『致知』2020年7月号 特集 「百折不撓」より一部を抜粋・編集したものです) ◎各界一流プロフェッショナルの珠玉の体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。あなたの人間力を高める、学び続ける習慣をお届けします。 たった3分で手続き完了、1年12冊の『致知』ご購読・詳細はこちら。 ≪「あなたの人間力を高める人間力メルマガ」の登録はこちら≫
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◇野田一江(のだ・かずえ)
大阪府生まれ。同志社女子大学学芸学部音楽学科卒業後、クラリネット奏者として活動。平成2年音楽の非常勤講師として箕面自由学園高等学校に着任。3年チアリーダー部創設に際し、“チア経験ゼロ”で指導を始める。ジャパンカップ9連覇を含む、全国優勝30回以上の常勝チームをつくり上げる。