【島田慎二×池田 純】コロナ禍を前に情熱を燃やす2人のスポーツビジネス改革談義

経営危機に陥っていたスポーツチームを、短期間でV字回復させた二人がいます。片やプロバスケットボールチーム「千葉ジェッツふなばし」を常勝集団に成長させた島田慎二氏。片やプロ野球チーム「横浜DeNAベイスターズ」を5年で黒字化させた池田 純氏。未だ終わりの見えないコロナ禍、その痛手を最も大きく受けているのがこのスポーツ界でしょう。未曾有の事態に際し、二人の変革者は何を見ているのか。体験談を交え、思いを語っていただきました。

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球場を“でっかい居酒屋”にする。池田流「空気のつくり方」

〈島田〉
横浜DeNAベイスターズの初代球団社長に就任された時、チームはどんな状況でしたか?

〈池田〉
2011年、35歳の時にベイスターズの社長に就任しましたが、球団の社長になった年齢はいまだに業界最年少らしいです。DeNAもベンチャーとして駆け出したばかりで、私自身も若かったこともあり、かなり風当たりがきつかったように思います。

「おまえみたいな若造に何が分かるんだ」「野球の素人には球団社長は務まらない」「お手並み拝見」など、散々言われました。

経営改革に当たっては、商品はやっぱり野球なので、野球と経営、両側面からのアプローチが大事です。野球のプロたちと一緒に仕事をしなければいけないので、野球をたくさん観て勉強し、ベイスターズのゼネラルマネージャーだった高田繁さんに教えを乞いながら、選手に交じってランニングやキャッチボールをして共通言語を持ち、同じ釜の飯を食う仲間になっていきました。

もう一つは私の得意な経営です。まずは組織を理解しなきゃいけないと思ったので、約150名の社員全員と30分ずつ面談しました。そこで私が社員に伝えたのは目標です。リーグ最下位が続き、選手も社員も黒字化や全試合満席にするという目標を達成できっこないと端から諦めていましたから、私がリーダーとして目指すべきゴールを明確にしたんです。それから、数字を分析して戦略を練っていきました。

昭和の時代には「巨人・大鵬・卵焼き」といわれるほど野球観戦は国民皆からの人気を集めていましたが、時代の変化と共に、大型遊園地や音楽イベントなど様々なエンターテインメントが新しく生まれ、次第に球場が皆にとって“楽しい場所”ではなくなってしまっていたんです。

そこで、「野球を見せてやる」という従来のスタンスを、「野球場に楽しみに来てください」に変えました。極端な話、応援もしなくていいし、野球のルールも知らなくていい。野球をつまみにお酒を飲んで、皆で騒いで楽しんでもらえればいいと思って、“球場をでっかい居酒屋にする”と掲げました。

〈島田〉
でっかい居酒屋という発想は面白いですよね。

〈池田〉
マーケティングやブランディングにおいて、空気感って非常に大切なんですね。例えば、「ベイスターズは面白い」「横浜スタジアムはいつも楽しそうなイベントをやっている」という「空気」を醸成できれば、野球に関心のない人でもその雰囲気を味わいたいので足を運んでくれる。

武器はもちろん野球ですけど、野球観戦にはビールやイベント、グッズなどその他の楽しみ方もありますので、“でっかい居酒屋”にしたんです。

経営理念がすべての根幹——千葉ジェッツのミッション

〈島田〉
私はその辣腕ぶりをニュースで耳にしながら内心焦っていました。というのも、野球界はそれまでそうした動きをあまりしてこなかったじゃないですか。マイナースポーツであるバスケが観客動員数を増やすために様々な工夫をこらして変化していこうとしていたのに、プロ野球チームという影響力の大きなところが、大きく変わろうとしていた。バスケはこのままではまずいと一層気を引き締めましたね。

〈池田〉
千葉ジェッツも島田さんが社長になってから奇跡のような成長を遂げられましたよね。

〈島田〉
千葉ジェッツは閑古鳥が鳴くどころか、銀行口座にも預金がほぼなく、倒産寸前の状況でした。

私が社長就任の打診を受けた頃、一番問題だったのは株式が分散化し過ぎていたことでした。要は、経営が厳しいので、30万円とか5万円という少額でも出資してもらい、何とか延命をしていたんです。そのおかげで株主の数がどんどん増えてしまって、経営改革をしたいと思っても意思決定がスムーズにいかないわけです。

そこで一人ひとりに頭を下げて株を整理していったんですけど、私が前の会社でM&Aを行っていたので、まるで小金持ちがクラブチームを買収しに来たかのように映ってしまって、チームをよくするために行った行動だったにも拘らず、「乗っ取りだ」とかなり妬まれました。

でも、潰れかけていた会社の株を7割近く買い取ってもほぼメリットがないですし、失敗すればすべて私が責任を負うことになります。

〈池田〉
会社の株を7割も買い取ったのは、覚悟の現れですよね。

〈島田〉
そうですね。背水の陣でスタートしたからこそ、千葉ジェッツの奇跡は起こったと思います。

まず初めに行ったのが、経営理念、ミッションを掲げることでした。「千葉ジェッツを取り巻くすべての人たちと共にハッピーになる」と決め、このクラブの存在意義を明文化させました。

経営理念はもちろん大事ですが、結局それにどこまでこだわり、その理念を実現するためにリーダーがどこまで心を込めて振る舞っているかが重要だと思います。トップの言っていることとやっていることが違っていれば、当然求心力は高まりませんし、チームの一体感も醸成されません。そのため、ことあるごとに、「それはハッピーに繋がる行動なのか」と社員や選手に言っていました。

私が直接経営理念や目指すべきゴールを伝えたり、社員たちに議論の場を設けるなど社員教育を徹底したことで、一つひとつもつれた糸がほどけていくように、皆の意識が変わっていきました。

結果を出すリーダーの条件とは?

〈池田〉
やはり、結果を出した背景にはリーダーの並々ならぬ情熱があったんですね。島田さんはリーダーの条件をどうお考えですか。

〈島田〉
リーダーとは「組織の方向性を明確に示して、その組織を導いていける者」だと定義しています。ではそれができるリーダーの資質とは何かといえば、「覚悟」に尽きると思います。それも、普通の覚悟ではなくて、強烈な覚悟でなければなりません。

よく譬える話ですけど、駅に電車が到着するタイミングでホームからモノが落ちても、怖いから誰も拾いに行かないですよね。でも、自分の子供が落ちてしまったら、親は何も考えずに飛び込むと思うんです。これが覚悟の差です。

〈池田〉
なるほど。私はリーダーの条件は挑戦すること、変える力だと思っています。いま新型コロナウイルスが世界に大きな打撃を与えていますが、beforeコロナとwithコロナの時代とでは大きく世の中が変わることでしょう。

いま、資金繰りも雇用も大変な状況でコロナ禍をサバイブする(生き残る)ことに精いっぱいですが、そんな時こそ変化のチャンス。オンライン会議など新しい仕組みがどんどん生まれていますし、過去のやり方は通用しなくなってくるので、いま挑戦しないと損だと考えています。

(本記事は2020年7月号 特集「百折不撓」より一部を抜粋・編集したものです。本誌ではスポーツビジネスの改革、経営発展の要諦をさらに詳しく語り合っていただいています)

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◇島田慎二(しまだ・しんじ)
昭和45年新潟県生まれ。日本大学法学部卒業後、旅行代理店を経て、平成13年に海外出張専門の旅行会社を設立。21年リロ・ホールディングに全株式を売却し、コンサルティング会社リカオン設立。24年ASPE(現・千葉ジェッツふなばし)社長に就任。15年Bリーグ理事に就任。令和元年より現職。著書に『千葉ジェッツの奇跡』(KADOKAWA)『オフィスのゴミを拾わないといけない理由をあなたは部下にちゃんと説明できるか?』(アスコム)などがある。

◇池田 純(いけだ・じゅん)
昭和51年北海道生まれ。早稲田大学商学部卒業後、住友商事、博報堂等を経て平成19年にDeNA入社。執行役員マーケティングコミュニケーション室長から、NTTドコモとDeNAとの合弁会社の社長を務めた。23年にプロ野球界史上最年少の35歳で横浜DeNAベイスターズ初代球団社長に就任。31年さいたまスポーツコミッション会長。令和2年より現職。著書に『空気のつくり方』(幻冬舎)『スポーツビジネスの教科書』(文藝春秋)などがある。

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