経営者は“夢追い人”であれ——故・立石義雄氏(オムロン第3代社長)

21日に80歳で逝去された、オムロン名誉顧問の立石義雄氏。昭和62年に同社社長に就任後、「人を最も幸せにする者が、最も幸せになる」を人生訓として在任の16年間で海外売上を4倍に伸ばし、オムロンをグローバル企業へと育て上げました。本記事では、社長在任4年目当時のインタビューから、氏の経営哲学と若き日のエピソードを掘り下げてご紹介いたします。

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経営者としての4つの役割

――立石さんが社長になられて4年目ですが、社長と副社長とでは、やはり違いますか。

(立石)
そうですね。私の場合、社長になったら急に社員全員が可愛く見えだしました。一人ひとりがそれぞれの力を存分に発揮してほしいと心から思うようになりましたね。

常務、専務時代はどちらかというと、優秀な社員をどんどん引き上げようという気持ちが強かったのですが、社長になったとたん、全員の力が欲しい、全員のレベルを引き上げようという気持ちになった。事業というのは永続させることがまず第一ですから、人も育てなければいかんし、企業そのものもさらに育たなければなりません。

――経営者の根本の仕事というのはその辺りにあるのでしょうね。

確かにその通りです。日常の仕事、事業というのは各事業部にきちんと任せておけばいいのであって、いかにこの企業を永遠に継続させるか、そのために技術を育てておく、事業を起こしておく、後継者を育てておく、それが社長としての務めだろうと思いますね。

私は社員に対して、社長としての役割は4つあるといっているんです。

1つは企業の理念、経営の理念と、その事業の方向をきちっと明確にして、それを組織に共有化させること。それによって社内のコンセプトが生まれるのであるし、仕事の力のベクトルも入ってくる。

2つ目はその理念なりビジョンを実現させるための条件整理をやること。すなわち中長期的視点としてとらえ、優先順位を明確にすることです。

3つ目は動機づけですね。社員全員のやる気をどう引き出すか、そのための政策をどう用意するかです。これはわれわれのヒューマンルネッサンス構想に結びつくのですが、ともかく動機づけをしなければならない。

それから4つ目は言行一致でトップとしての信頼を得ることです。それでないとリーダーシップは発揮できませんからね。

「夢」を追い続けるのが経営

――話は前後しますが、創業オーナーのご子息として、われわれから見ますと順風な半生を送ってこられたかと思いますが、幾つかの試練や節目があったとすれば、どういうことでしたか。

試練ということでは、大学を卒業して入社するとすぐアメリカの駐在員を命じられたことでしょう。語学は一番苦手だったのですが、有無をいわせずといった格好で出されました。他の会社に就職して他人の飯を食うのもいいけど、国外に出て武者修行してこいと、そんな腹づもりだったんじゃないでしょうか。実際、2年半いたんですが、その期間は自分一人でも生活していけるという自信をつけた期間でもありましたね。

――まず、ベーシックな自覚を持つことができた。

そうです。それから、アメリカ人の市場戦略論とはなにかという宿題をもらって渡米したので、仕事はさておき私はアメリカ人をつかまえては議論してばかりいた。やはり相当な違いがありましたね。彼らはすぐ商売に結びつける戦略をとるのがお家芸。相手のグラウンドに商品を提供しようとすると、彼らは相手のチャンネルを活用し、従来のルートで売ってゆくという考え方をとっていました。

われわれ日本人はどちらかといえば自前のチャンネルを作り上げていく、時間も金もかかるけれども自ら構築していくという考え方でしたからね。若気のいたりでよくアメリカ人とぶつかりましたよ。父から、お前そこまでやっちゃいかん、とまでいわれたほどでした。帰国したら、すぐ新規事業部を任されることになった。

――アメリカで培った気迫を評価したのでしょう。

それはどうですか。とても本業は任されんと考えたのかもしれない(笑)。ただ、父にしてみれば、それまで製造業一辺倒だったのを、景気、不景気に影響されない全天候型経営にもっていきたいという願望はあったようです。そこへちょうど私が帰ってきたので、それっ、やれ! となった。

基礎的な技術はあったので、その応用はたくさん考えられたのですが、マーケットはまるで新しく創造していかなければなりません。明けても暮れても製品開発とマーケットの創造ですから、鍛えられましたね。それはほんとに、頭で教えられたんではなしに、池の中に放り込まれて、自分で泳いでやってきたわけですからね。そうして開発したのが、いろいろと今日の事業に育っているわけです。

――2世経営者とはいえ、今日のオムロンの創業者のようなものですね。

少なくとも私はそういう気持ちでやってきました。他の経営幹部になった者たちも、多かれ少なかれみなそういう試練を経て生きてきたと思うのです。チャンスとポジションを与えられ、起業家精神で取り組んできた。期待に応えられない人もいましたが……。

――ところで、オムロンのパンフレット等を拝見してますと、「夢」という言葉が目につくのですが、社長はこの「夢」がお好きなんですね。

私は“夢追い人”です(笑)。やはり、人間としてのビジョンを持っていない人では生き方が違いますからね。企業も一緒だと思うのです。「夢」とか「ロマン」「ビジョン」といったものをまず旺盛に持って、それからそれらと現実のギャップをどう埋めるか、それが経営です。現状に甘んじていれば、そのギャップは縮まらない。縮めるためには、チャレンジャブルな意識でもって、企業そのものの実力を創造していかなければならんのです。

(本記事は『致知』1991年4月号 特集「イメージを創る」から一部抜粋・編集したものです。『致知』にはあなたの人間力・仕事力を高める記事が満載! 詳しくはこちら

◇立石義雄(たていし・よしお)
昭和14年大阪生まれ。37年同志社大学卒業後、米国A&Aコーポレーション入社。38年立石電機(現・オムロン)入社、ニューヨーク事務所勤務。帰国後、立石電機販売入社。51年常務、58年制御機器事業本部長、専務。62年社長に就任し、平成15年に同社代表取締役会長、23年には名誉会長に就任。その他、京都商工会議所会頭や日本国際貿易促進協会京都総局会長を歴任した。

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